「…おま…マジ止めて…冗談だろ…?」
「ん~~ コレが結構、冗談でも何でも無いんだな~」
「…落ち着け、落ち着いて考えろ、どう考えたっておかしいだろっ!!」
「ま、後でちゃんと感謝するようになるって。ホント、自分を信じなさいっ!」
「信じられるかぁあああ!!!」
◆◆◆◆◆◆
「センセ…ごめん…大丈夫か…?」
そっとのぞき込んでくる金髪を、横目で見やったまま、カカシは、ああともうう、ともつかない声で返事に代えた。
元はと言えば…
――――こ、こ、今晩、センセんちに行ってもいいかな?
でっかい体を前屈みに、すくい上げるように見る目が飼い主の機嫌を伺う愛玩犬のようで、(ゴツイ愛玩犬ではある…)カカシは気軽にOKしてしまっていた。
今日の任務は…随分根気の要る作業だったし…危険度は低いけれども忍耐力の限界に挑戦するようなこんな「待ち」の任務はこいつの最も不得手とするところだ。それをよく頑張ったよ…晩飯を食わせてやっても罰は当たるまい…
自分の誕生日をすっかり忘れていたカカシは、軽い気持ちで招いたナルトから、「誕生日のプレゼントは俺だってばよ!!」と、ひっくり返されることになるとは………想像できるはずもない………
それが事の起こり…
……
wwww!!
大丈夫なわけあるか、このくそガキ!!
モノには限度ってもんがあるだろうが!
俺はお前みたいな体力のお化けにつきあえるほど若くないんだ!
がっつんがっつん突っ込みやがって…!
言いたいことは山のようにあったが、ナルトの強引さ、自分への執着を甘く見ていた自身にも責任がある…カカシは反省した。
そういう行為を男とすることに対して認識が甘かった事も…確かだ。
…俺に起つのか、こいつ…などとのほほんと構えていた…。
起つどころの話ではなかった。
「初めて」…は 二度無いにしても…。
もう少し準備なり心構えがあったら、こんなイタイ目に遭わずにすんだだろうに、俺としたことが…この後、結構ハードな任務があるって言うのに…
しかし、ナルトに突っ込まれるのを前提に、準備…
うわ、あり得ない、あり得ないよまったく…
ぐったりと枕に突っ伏したままひらひらと手のひらをふって、大丈夫だ、とも、あっちに行けとも、どっちともつかない仕草をする「大事な人」の側でおろおろとしながら途方に暮れている火影候補の若者の後で、15日の朝が明けようとしていた。
木の葉の里を未明に発って、どのくらいたった頃か。
誕生日だってのについてないなカカシ、と、隣で誰かが口にしたのを聞いた、と思った刹那。
巨大な口寄せ獣の気配を分隊の背後に感じた。
新人が主体の隊、躱すのは無理だ、と判断した瞬間に神威を発動させていた。
「伏せろっ そいつを飛ばすっ!」
振り向いたすぐの無理な姿勢。
あ、やばいんじゃないの…と思った瞬間、裂けた次元の狭間に吸い込まれる口寄せ獣が目の前だった。
うわ、まじ、こいつと次元旅行は勘弁してちょうだい…だな、
と思ったところで、ブラックアウトしたらしかった。
どこかで、ナルトが必死で彼を呼ぶ声を聞きながら……
◆◆◆◆◆◆
目を開けたとき、そこは先ほどの場所からさほど離れていないらしい森の中で、カカシの感覚では、時間もさほど経過している風でもない。
結構飛んだ気がしたけれど…俺の感覚も当てにならないな…
クビをかしげながら、あたりを探索する。
気配を消し、足音を立てないのは習い性だ。
と、見知った…非常に見知った巨大なチャクラを感じ取る。
――――心配しているだろう…
安心させてやろうと、一歩踏み出したカカシは、そこにあり得ない光景を見た。
「センセ、俺ってば、今日、どうだった?」
「ん?どう、って?」
「だ、だからさ、派手な事ばっかり夢中になるなってセンセ、前に言ったろ?だから俺ってば今日、その教えを実践したんだってばよ?」
見覚えのある情景。
見覚えのある台詞。
そして、すでに少年ではなく、若者、と、言っていいほど育った…火影候補の金色の頭に手を突っ込んで笑いながらかき回しているのは…
――――オ…オレがいる…ってどういうことよ…!?
◆◆◆◆◆◆◆◆
褒めて、褒めて、と、見えないしっぽを振り回しているナルトの様子に、カカシは目を細めた。
『今日の任務は…随分根気の要る作業だったし…危険度は低いけれども忍耐力の限界に挑戦するようなこんな「待ち」の任務はこいつの最も不得手とするところだ。それをよく頑張ったよ…晩飯を食わせてやっても罰は当たるまい…』
「ん、そうだな、今日は中々だったな。」
「え~~~ それだけだってば?」
「それだけって何よ。」
「だってさ、だってさ。」
『でっかい体を前屈みに、すくい上げるように見る目が飼い主の機嫌を伺う愛玩犬のよう』で、カカシは大きくなってもこういうところは以前のまんまだな、と、笑みを深くして言った。
「そうだな、なら、飯、おごってやるよ。」
ぱぁっと顔を輝かせたナルトは、上忍ベストの裾を引っ張りながら、
「ならさ、だったらさ、――――こ、こ、今晩、センセんちに行ってもいいかな?」
と、言い出した。
◆◆◆◆◆◆
ナルトに食べさせる夕飯の食材を買い出しに出たカカシは、先ほどのナルトの態度に妙に引っかかるモノを感じていた。
……なんか、様子が変じゃなかったか?
彼が突拍子もないのはいつものことだが…
考え事をしていたせいか…背後に突然現れた気配に、カカシはとっさに反応し損なっていた…!
おまけに…
――――誰が変化していやがる、悪趣味にも程があるっ!
寸分も違わぬ反射スピードで相手を振り切れない。
相手の正体を突き止める必要から、思い切った攻撃の出来なかったカカシは、「カカシ」に背後をとられていた。
(ま、そんなにとんがらないでよ。殺気の無いのはわかってるでしょうに)
暗部語で語られるに至って、ようやく力を抜く。
(ドタバタ忍者が来る前に準備させてやろうと思ったけだから)
何の準備だ、と、確認するまもなく、上忍ベストがはぎ取られ、トラウザースに「カカシ」の手がかかる。
ボタンを外され、「カカシ」の手が下着の中に滑り込むに至って、流石にカカシの顔色が変わった。
『「…おま…マジ止めて…冗談だろ…?」
「ん~~ コレが結構、冗談でも何でも無いんだな~」
「…落ち着け、落ち着いて考えろ、どう考えたっておかしいだろっ!!」
「ま、後でちゃんと感謝するようになるって。ホント、「自分」を信じなさいっ!」
「信じられるかぁあああ!!!」』
◆◆◆◆◆◆◆◆
…オレだってね。
好きで自分のナニをナニしたかったわけじゃないのよ…
ナルトのヤツがすべて悪いんだよ…とにかくそういうことだから…!
とにかく、あの時ナルトとの「出来事」でこりごりしていたカカシは、これから起る出来事の前にあまりにも無防備だった過去の自分に軽く救いの手をさしのべた…つもりであった。
…ナルトを拒む、という選択肢を端から考えに入れていないことにカカシは気付いていない。
何をか言わんや…
自分が元に戻るためのきっかけを探して、カカシはまた森へと戻った。
思い当たるとすれば…
この時間軸のカカシが遭遇する口寄せ獣の襲撃。
コレで元に戻れるのではないだろうか。
元々、一つの世界に同じ人間が二人居ること自体、矛盾が生じるはずだ。
さっさと彼のナルトの待つ時間へ戻らなければ…
◆◆◆◆◆◆◆◆
伏せろ、と叫んだ「カカシ」が、神威によって裂かれた空間に飲み込まれようとした、その時、とっさにその手をつかむ。
引く。
目を見張る「カカシ」が、遠くに小さくかすんでいく。
さて。コレで上手く戻れるかな。
あまりにも一か八かの方法だが、他に手がない……
暗転。
…
ふ、と、気がつくと、木の葉大門を、ナルト達とくぐるところだった。
屈託のないナルトの笑顔と、中忍達のおしゃべり。
――――どのタイミングに戻ってきたんだ…?任務帰り…らしいが…
この世界、この時間軸に「はたけカカシ」はどうやら自分だけらしいと気付いてほっとする。
しかし…
後で任務報告書を調べて、つじつまの合うようにしておかないと…
別に過去に飛ばされた事を隠す必要は無いのだが、微妙な出来事が絡んでいるので、出来れば誰にも触れられたくないカカシだった。
「センセ、センセってばよ!」
ナルトに話しかけられているのにやっと気付いたカカシは、ほとんど目線の変わらなくなったかつての生徒…今の…?に視線を戻した。
「ん?」
『「センセ、俺ってば、今日、どうだった?」
「ん?どう、って?」
「だ、だからさ、派手な事ばっかり夢中になるなってセンセ、前に言ったろ?だから俺ってば今日、その教えを実践したんだってばよ?」』
……ちょっとマテ、何だって…!?
「でさ、そんでさ、――――こ、こ、今晩、センセんちに行ってもいいかな?」
…………見えない九尾をばたんばたん振り回しているナルトを前に、カカシは途方に暮れていた……
ここで終わっとく!