狗神
の森 3


「テンゾウ……お前。こんなになっても……ヘッドギアって、趣味…悪いぞ……」






巨木の表面に、閉じ込められるようにその身を埋める…明らかに彼の後輩であった青年は、100年も前からそうやってその木の不思議な模様でいたようであった。





ごつごつとした木の皮そのものの、硬い頬を撫で、なぜか安らかでさえある表情を覗き込みながら、カカシは、自分が泣いているのに気付かなかった。



ああすればよかったとか。
こうしてやればよかったとか。


失うものなど何もないと思っていたのに。大切なものなど、とうの昔にすべてなくしたと思っていたのに。

一番大切なものを、たった今、またなくしてしまった。






─我を恨むか。






背後からそう問いかけられても、すぐにカカシは返答できなかった。



「………恨むとすれば…自分のうかつさだ。一番大事なものが…指の間からこぼれていくのに気付かなかった…己の愚かさこそ……俺は恨む。」


テンゾウを閉じ込める木の硬い皮に爪を立て、その爪が剥がれるのにも気づかないで、きつく…つかみ締める。


そのまま、自分も同じ、木々になろうとしたのか、銀色の若者は、呼吸も忘れたようにそのまま、木の青年を抱きしめた。













誰も動くものもなく、風さえ吹くことがない。














しかし時間だけはゆっくりと通り過ぎていた。



紺色の空が東から薄れ始め、オレンジの光が、無残に焼け残った森を照らし始める。

カカシをその幹に抱きつかせていた巨木の梢もその光にさらされる。




見ていたものがいれば眼を見張ったであろう。
朝日に晒されたその木が、まるで波に洗われる細かな砂のように、光の粒になって宙に溶け始めた。


カカシも、胸をえぐるような苦悩の中で、その異変に気付いた。

テンゾウを飲み込んだ木が、梢の方から光となって溶けほどけていく。

「あ…あ、テンゾウ……!」



光の粒化が木になった若者のところにまで下りてき、カカシは必死でテンゾウを抱きしめ、失うまいとした。



………!!!!!!



ごろんと………




「え、えぇっ!?」




腕の中に抱きしめた、その若者が、ゆっくりと倒れかかってくる。
人肌の温もりをもって。
柔らかな肌の感触をもって。


あ…ああっ!!



カカシの大切なものは、今、腕の中でゆっくり目を開けた。

「…あれ…先輩……よかった……無事だった……」


テンゾウを体の上に乗せたまま、カカシはくしゃっと泣き笑いに笑顔をつくった。


「……お前が無事なら……俺はいつでも無事だよ。」










幾分、ぼんやりしている後輩の下で、そのしっかりとした…暖かい体温の胸に顔をうずめ、カカシは眼を閉じた。




失わなかった。

失わずに済んだんだ。
…間に合った…今度こそ…失う前に…気付くことができた…




自分の胸にしがみつき肩を震わせるカカシを、戸惑ったように、それでもしっかり抱きしめながら、テンゾウは耳元でそっとささやいた。


「早く帰りましょう、先輩。プレゼント、用意してますよ…」
「……それは……楽しみだ…」






もう、もらっちゃってるけどね。
とても…とても、大切なものを。





テンゾウに抱きしめられたまま、カカシはそっと目を閉じた。
疲れて、何も考えられなくなる前に、彼をここに導いてくれた、彼のてに大切なものを返してくれた存在に感謝しながら。










◇◆◇









後日譚





勿論、その年のカカシの誕生日は傍目に見て、かなりのアンラッキーだった。


命令無視の謹慎が、木の葉病院のベッドの上。
心配させた罰金だ、と、火災をくい止めた報奨金を取り上げられてしまった。



しかし。



離れの病棟で、脇腹にかなりの傷を負っていたテンゾウとの二人部屋。


結局、綱手も、カカシたちには甘い、と、シズネは苦笑するしかなかった。







当然のように、二人の入院生活は綱手の治療予定より何故かかなり長引いて、綱手をさらにおこらせることになる。



「お前らは退院するまで我慢するってことができんのかっーーーー!!!」









カカシ先輩…誕生日おめでとう!




◇◆◇

うわあん(泣)
九月中に終わらせるために「肝心の部分」…(笑)を大幅に割愛しました_/乙(、ン、)_

肝心の部分……そうです!イチャパラ部分です(笑)

この長さだと前後篇くらいで終わられるはずなんですが!!
イチャパラ部分を入れるつもりで三話にしてしまいました…(´・ω・|||)
その部分が抜けたおかげで ぢつに尻切れトンボな……(ノД`)・゜・。

くぅ〜〜〜 残念無念です…(笑)二人で怪我して病室でいちゃいちゃしすぎて入院が長引いて綱手に雷を落とされるテンカカ…
が最初のテーマ…いやいや…あのその…(笑)

というわけで、ぢつに微妙な展開、長さの第三話ですがそんなわけですので、一応「終」になってますけど、執念で「病室でいちゃいちゃ」を書きます(笑)
途中まではできているのでそんなにお待たせせずに出来上がるはずです。
といってもナル誕、サイト一周年前ですんで、少々のんびりお待ちいただけると嬉しいです(笑)
次のテンカカ更新は多分コレ(笑)

R-18 でいくぞぉ…と気合いが入っていますので(空回る可能性有り(笑))有資格者の方、よろしくお願いします…(〃ω〃)

以上、言い訳でした(^^ゞ