甘い瑕を
舐めて
前篇



カカシ先生は飯を食うのが早い。
それこそあっと驚くくらいだ。

俺がまだガキの頃、カカシ先生の素顔が見たくて、サクラちゃんと、サスケを誘って、奮発して一楽のラーメンを先生に奢ったことがある。
勿論、お目当ては先生の素顔だ。

しぶしぶな風を装って、あの、サスケすら、その計画に乗ったんだぜ。いかに当時の俺たちにとって、カカシ先生の素顔が興味の対象だったかってのが分かるってもんだ。

しかし、イノの乱入で敢え無く計画はとん挫。
気がついたときは先生はラーメンを食い終わってた。

熱々のラーメンだぜ?
きちんと口布を元に戻して、手を合わせてごちそうさまってやってたんだ。

……可愛かったけどさ。




そんな先生も、今は俺の正面で、素顔を晒して飯を食ってくれるようになった。
「……なんだよ。おまえ、飯、さっさと食え!」
俺があんまりじっと見てたせいかな、先生がちょっと怒ったような口調でせかした。
そんな、「怒った顔」したってこわくねぇって。耳が紅いってばよ、先生。
じっと見られて照れくさいんだろう、ただでさえ早飯なのに、また食うスピードが上がっちまった。
「任務中じゃねえんだから、ゆっくり食えば?先生」
「………」
「俺に見られてると喰いにくい?」
「……なんかこのごろ、生意気だね、お前。」
「……何言ってんだか。俺の生意気なのは昔っからだってば」
俺がそういうと、ますます喰うスピードが上がる。そんなに急いで喰わなくったって。食事が終わったら、もうヤル事は一つだぜ、先生?なに、それで焦ってんの?

ひどく綺麗に箸を使う、先生の白い指先をうっとり見ていたら、っ、という小さな声を漏らして先生の口が止まった。

あ、ら、ら…舌、咬んだんだ…慌てて食うから。
なに、俺が見てるとそんなにやだった?

うつむいて、じっとしてる先生に(そりゃ、痛いよな…)
「大丈夫か先生…?」
「………何が……?」

意地っ張りだな、舌を咬んじまったのなんてばればれだってば。
ばれてるのも分かってるはずなのに、俺の意地っ張りな先生は知らんふりしてそのあとも食事を続け、結局舌を咬んだ事など無かったかのように、食器を片づけ始める。

やべぇ。
なんでこの人はこんなに可愛いんだ。
俺、変だ。

自分より14も年上の、でかいガタイの男がなんでこうまで可愛く見えるんだろう。




片づけが済んで、テレビを見ながらも、先生はときどき舌をもごもごしていた。
痛いんだろ、もう!

「先生、ちょっと口、あーんしてみろって。」
「なんだよ。子供じゃないんだから。いいよ。」
「子供だったらうだうだ言ってねぇでさっさとサクラちゃんとこ連れてってるってばよ。ほら、見せて、舌」
「…見たってしょうがないだろ。」


ったく。
可愛いんだけど可愛くねェ。


「いてぇだろ?」
「痛くなんてないよ。」
「……あっそ。」
先生の意地っ張り…。
…いじめてやる。


俺は先生の腕をひっぱって自分の胸に抱え込む。
先生は暴れ始めるけど…まあ、真剣に俺と先生がやりあっちまったら、ここら辺一帯ふっとんじまうから、それはそれで加減しながらだけどさ。

加減してると、勿論、図体のでかい俺の方が圧倒的有利だ。
タッパはあっても先生は体重が足りねぇ。そういうと怒るからいわねぇけどさ。勿論平均的にみて、「ちょっと軽いだけだ」って先生は言うけど、俺が平均よりでかいし重いから、その差は大きくなる。

「ナルトっ!ちょ、離しなさいって!」
「まぁまぁまぁ」
「な、何がまぁまぁだ、このっ!」

ちょっと反則かな、と思わないでもなかったけど、あんまり先生がいつまでもあきらめが悪いから俺は奥の手を出す。

「…あっ!ナルト、お前、卑怯……んんっ!!」

尾獣のチャクラで先生を高手小手に捕まえて、締まった腰を抱き寄せる。
文句を言う口を、ぱっくりと食らいつくようにして口でふさいでやる。

ん……


鼻に息が抜けるような先生の声が、俺の股間を直撃する。

あぁ、やっぱり…!
先生の口の中、鉄さびの味がする……未だ出血が止まってねぇンだ……結構深かったんだな…

嫌がって体をよじる先生が、やっぱりちょっと淋しくて……キスを嫌がられるのは寂しいってばよ。

俺は結構意地悪な気持ちになる。

肩口を背中から抱きこんで、逃げる先生の舌をおう。
顔を振って外そうとするけど、離してやらない。

捉えた先生の舌を甘噛みしてやると、ビクンと体が硬直する。
あ…ちょっとやりすぎたかな…?

ソファの上に先生を押し倒してのしかかって体で抑えつけちまってから、先生の両手を自由にする。
思いっきりぶん殴られるのを覚悟していたら、先生の手は俺の背中にそっと降りてきた。

やべぇ。

そうだった。

先生、痛いのって、平気なんだった。

──暗部で散々拷問訓練うけてりゃ、平気になるって。ヘンタイみたいにいわないでよね。


でも、今更……この気持ちいいキスを止めるわけにもいかねぇし。
綱手のばぁちゃんに後でこっそり薬貰いに行こう。



そんなことを考えて、俺はふと目線を上げた。


庭はいつか、片隅に秋の気配がある。
かすかに聞こえる虫の声は、…こおろぎか…?

暗い外を背景に、窓ガラスは鏡になり、先生と、先生にのしかかってる俺がうつっていた。


飲み込みきれない唾液が薄赤くそまり、先生の白い顎を伝ってシャツにピンクのシミを作っている。
先生の纏う色彩は薄く、だからか、紅い色がひどく似合う。

血の赤…

でも、それはいやだな。
のぼせて…俺に夢中になって…紅い色に染まってくれるのがいい。

そんなことを考えてたらキスがお留守になってたんだろう、平手で後頭部をペシリとはたかれちまった。
でも…
これ以上こんなキスしてっと先生の舌の怪我、ひどくなっちまうだろ?

「…あ…ナルト…」

思わず、といった風に、唇を離したとたんに漏れた声に、俺は腰にずっきんと重い熱が走る。

「先生、これ以上ベロちゅうしたら出血がとまんねぇって。違う場所にキスしてやっから。」
「…違う場所って…あっ、ナルト、こらっ!!」