あの人の素顔
「虧月」 一周年記念 お祝いと称して高村さまに押し付けたモノです…^^;
掲載の許可をいただいたので…(〃ω〃)
旋毛が見える。
隣でのんびりと歯を磨く青年の頭を見下ろして唐突にそう思った。
あちこち奔放に跳ねている銀髪の中に、埋もれるようにしてある、それ が、なんだかとても可愛くなって、思わず手を伸ばした。
ぽん、と、無情にもその手は払われ、眠そうな目が下から見上げてくる。
「つまんない悪戯仕掛けてないで、さっさと歯を磨け! 今日も任務だろ?」
「悪戯じゃねぇって…ただ、先生の
旋毛がカワイイな、って……」
…かつて。この銀髪の頭は、彼のはるか上の方から、彼を優しい目で見下ろしてくれていた。
どんなにくじけそうな時も、、優しい眼差しは変わらなかった。
「
旋毛がカワイイって…お前、そりゃ、嫌味か!」
左目を閉じたまま、ちょっと右目を見張り、しかしその白い口元には微笑みがある。
そうだ、いつからだっただろう…この白い綺麗なラインを描く顎や…優しい笑みを浮かべる口元を、自然に目にするようになったのは……
◇◆◇
絶望のあまり。
後悔のあまり。
身の内からあふれ出る凶悪なチャクラを抑えかね、里のはずれに駆けだした。
里の中で、コレを暴走させるわけにはいかない。
それくらいの意識はまだ残っていた。
何年も、何年も、追い続けてきた友。
かつての友。
その友人の変りように。その友人の堕ちた暗い闇に。
なすすべがなかった自分が歯がゆくて。情けなくて。
けれど、腹に飼う凶獣の誘惑に身を任せるには、彼はあまりにも強くて…
◇◆◇
─ナルト、やっと寝たか……?
どこからか優しい話し声が聞こえる。
─そうか…ま、後はオレに任せて、お前たちも寝てないだろ?帰っていいよ。
そうしていくつかの気配が遠ざかり、後には暖かいチャクラをもつ気配が一つ……
チャクラの暴走を抑えようとする、己との戦いに疲れ果て、森のはずれにうずくまっている処を連れてこられたらしい。
情けなさと恥ずかしさで目を開けられない。
と、冷たい感触が額に触れる。
─熱は…でてないか…
独りごとのその声の優しさに、鼻の奥が熱くなる。
…先生…ごめんな…面倒ばっかり掛けちゃって…俺たち、七班、みんな…迷惑ばっかり…かけちゃって…
目を見ていうべき其の謝罪も、声を出せば確実に鼻声になる。
いくらなんでもそれは格好悪い。 そのくらいの矜持はまだ残っている。
だから、今は…
このまま その優しさに甘えさせて…
額に置かれた手の、冷たさが心地よくて、ゆっくりと指先が撫でるそのリズムが気持ちよくて…
ふ、と眠りに誘われたその時。
手の遠ざかる気配に、また意識が浮かび上がった、まさにその時。
暖かく、柔らかな感触が…指では無い感触が、額にそっと触れてきた。
─え…?
タヌキ寝入りの寝たふりも、その額に触れてきたものに驚くあまりあっさりと剥がれおち、まるでパチリと音がするように大きな水色の眼を見開いてしまった。
「……!!」
その時、ナルトの眼に映ったもの。
白く美しい曲線を描く…なめらかな顎…日に当たることの絶えてない、その白い首筋に、指抜きのグローブが口布の端を引っ掛けて引き下ろしていた。
驚きは、優しいキスをしていた方か、されていた方か…どちらがより大きかったか…
音に聞く上忍師にあるまじき慌てぶりで部屋の隅まで飛び下がり…
「ナ、ナ、ナルト!!眼、眼がさめ…!!」
相手があんまり慌てているので、反対に落ち着いてしまったのは、優しくキスをされた方。
優しいいたわりと、情愛が額からゆっくりと心臓に降りていくのが感じられるような。
そんな贈り物をもらって、いつまでも慌てていられようか。
口布を戻すのも忘れ、晒された上忍師の素顔は…
「─先生ってば、すっげー美人だってば……」
なんの
衒いもなく漏らされた素直な感想は、ますます、慌てる上忍師を赤面させるばかりだった…。
◇◆◇
あの時、この青年の、白い目元からのど元にかけて、ぱっとのぼった血の色に、彼は、改めてこの青年に向かう自分の気持ちの正体に気付いた。
─あん時から…いやきっと、もっとずっと前から、俺は先生が大好きだったんだ…
後ろから青年を抱き込み、晒された左目の傷に唇で触れる。
ちょっとくすぐったそうに首をすくめるが、拒まれないのをいいことに、更に唇が下に降りていく……と、
「いってーーーーー!!」
ごつん、と、音が聞こえるほど、特大の拳骨が後頭部に落ちてきて、彼の大事な先生は、笑顔のまま、怒る、という器用なまねをした。
「任務に遅刻するな!」
「うへぇ、カカシ先生の科白ともおもえねぇ…って…げ…!!」
言い終わらぬうちに、大事な青年の左手に浮かぶ雷の玉に気付いた彼は、言ってきまーーす、と元気の良い挨拶を残してその場から逃走した。
「…ったく…!何時までたっても子供みたいに!でかくなったのは図体だけか、あいつは…!」
そんな青年のため息は、すっ飛んで行った彼に聞こえるはずもない。
里の民家の屋根の上、大きな図体が小さくなっていくのを苦笑とともに見送ったカカシは、ため息をついて肩をすくめた。
何やら朝から盛り上がっていたが、きっと予定よりも早く帰ってくるに違いない。だったら、あの大きな子供の居ない間に洗濯と片づけを済ませてしまわねばなるまい。
ベランダから見上げた空は暖かくかすんで、今日もいい天気になりそうだった。
Update 2010/03/14
麻生さん…
サイト一周年、ホントにホントにおめでとうございます!
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