七夕語り
─5万打切りリク─

◇◆◇06話◇◆◇






「なんでみんなの前で説明できねぇってんだよ、シカマル!!っつーかさ、俺にまで内緒ってどういう事だよ!!」

キバが怒りだしたのは、シカマルがカカシを戻す方法の説明の前に、みんなを外に出そうとしたからだ。

「めんどくせぇことになっからだよ!」

シカマルはなんとか無難におさめようとがんばっていたが、どうにもこうにもほかの連中は納得せず、とうとうキバが置いてあった巻物を、ご丁寧に声を出して読み始めた。


「変化した耳、その他を取り除くためには、対象の体内に、男の精を注ぎこむこと……で………って……え……?」

大きな声で読み始めた内容が、だんだん尻すぼみになっていく。

シカマルは片手で顔を覆ってしまっていた。


「えーと、どういう事……?」
チョウジが隣のシカマルに小さな声で聞いた。
シカマルはため息をついて答えた。

「これは房中術の中で使う嗜好性の忍術なんだよ。色々アッチ方面で飽き足らなくなった大名がお気に入りの腰元にこういう耳をくっつけて…その…プレイするんだ。」


「……え…?えええ????」

シカマルの小さな声の説明を、固唾をのんで聞いていた周りは思わず悲鳴を上げていた。

「だから、この「耳」の解除方法なんて……やっちまったら戻るんだよ。盛り上がってヤルための演出なんだからな、こういうのは。」


「…………そういうオプションを、オレの頭やケツにくっつけてくれちゃったわけだ、君たちは……?」
地を這うような声が響く。

「…………」
「…………」
「……………」
「………………」


綺麗な笑顔がこれほど怖いのも珍しいだろう……


「ふうん。で、どうしたいわけ…?お前ら、俺とヤリたいわけ……?」

ひぃいいいいいいいい!!!


頭の上からタオルをかぶったまま、なんとなく顔を見えにくくしていたカカシが、するり、とタオルを落とすと、口角をかすかに上げて、小首をかしげていた。

確かに、美人だった。

ナルトが自慢したくなるほどに。


しかし コワイ。
とってもとってもコワイ……


誰かタスケテ…!


と、誰もが心の中で叫んでいたとき、


「ごめんっ!!先生、ごめんなさいってば!!俺たち、そんなこと知らねぇで迷惑かけちまって……!!」


叫んだナルトがカカシを正面から抱きしめた。

「でも俺たちそんなつもりじゃなかったんだってばよ!」


『俺たち』という複数形には大いに異論をはさみたいシカマルとネジだったが、止められなかった点で同罪とみなされてもしょうがない。
大きな男に抱きつぶされそうになってもがいている上忍師には申し訳ないが、ここ数年で驚くほどガタイのよくなったナルトの腕の中にいる彼は、確かに…「気難しい年上の美人な恋人」に見えなくもなかった……

「ああああ!!もう、暑苦しいっ!! 分かったよっ!分かったから懐くな、くっつくな、すりよるんじゃないっ!!」
ナルトの顔にがっしと手をかけて、べりべりと音のしそうな様子で自分から引き離そうとするカカシと、離れまいとするナルト、二人のじゃれ合いで無難にその場が収まりそうになったその時。



「そうか…とすると……カカシ先生のその耳とか尻尾がとれてたら、ナルトとシた、ってことになるんだ……?」


サイの独り言が、嫌に大きくあたりに響いた。


さすがに……
カカシを抱きしめて平謝りに謝っていたナルトでさえ、その一言に凍りついた。


ましてや、なんとかカカシをなだめた、と、ほっとしていた周りの連中は、漂白されたように真っ白に固まった………


「…え…?どうかしましたか…?」


わけがわからない、といった風にきょろきょろするサイに、固まってしまったナルトの腕からようやく逃れ出たカカシは、ごく、普通に…にっこりと笑った。


「なんだか知らないけど、お前たち、なんでそんなに俺の夜の私生活に興味があるんだかな。」

そう、ごく穏やかにいうと、サイの方を向いて、さらにほほ笑みを深くした。

「残念だけど、サイ、そうそう簡単に俺の床事情は明かせないねぇ。ほら…」

そう言ってカカシは素早く印をきった。

………あ………!!


「ま、術の効果が切れるまで、自分自身に変化すりゃあいいことだから…」

そこにはいつもの忍装備の胡散臭げな上忍が、一つだけ出ている片目を三日月にしてほほ笑んでいた。

「そんなわけで、俺の変なオプションがとれていたって、余計な詮索はしないで頂戴ね!」

あたりをにっこり笑ってみまわし、ナルトに視線を合わせると、すっとほほ笑みを消した。


「お前、俺の半径2メートル以内に接近禁止な!破ったら雷切るぞ。」


びしっとそう言い渡して、カカシはゆっくりと部屋を出て行った。

ダンゾウ対策をどうしたらいいのか、話し合いはまだ全然済んではいなかったのだが……








「サイのばかやろおおおおおおお」


悲鳴のようなナルトの叫び声をドア越しに聞いて、カカシは小さく首を振りながらため息をついた。

今時の若い奴らの考える事って俺にはさっぱりわかんないね。
歳とっちゃったのかねぇ。
俺にこんな耳だの尻尾だのつけて、何が楽しいんだかね…

ったく…あいつらときたら……


く、く、く、と小さな笑い声がカカシの口布の奥からもれる。





カカシは、俺ってついさっきまで随分と薄暗い思いに取りつかれていたんじゃなかったっけ、とため息をついた。


バカバカしかったな…自分が死んだあとの事まで思い煩っちゃったりしてさ…

奴らは俺が死んだら……

……命日にでも俺の悪口なんぞ言いながら…どんちゃん騒ぎで偲んでくれるんだろう…
そう信じられる逞しさが今のナルトたちにはあった。




ダンゾウ対策は、シカマルがきちんと練り上げてこっちにつなぎをつけてくるだろう。
それまで、自分は待ち、に入るつもりで、犬塚家の主婦に挨拶をしに行った。


カカシは綱手の見舞いに行く、と伝言を残し、その場から瞬身で消える。

自分たちの不始末のしりぬぐいは自分たちでするべきだ。

その意味は、シカマルには伝わるだろう。




カカシはクスクス笑いながら、綱手の保養所の結界の中に滑り込んだ。
心の底に澱のように淀んで彼を苛んでいた悔悟は、いつしかゆるく溶け解けていた。







Update 2009/09/05