七夕語り
─5万打切りリク─

◇◆◇04話◇◆◇




カカシは巨木の梢で遠く里を見ながら、任務に縛られない旅をしてみたい、と思った。

いい年をして…
なんでこんなにあいつにとらわれるのだろうか…。

カカシは、自分がまっとうな恋愛をしてきてないことを知っている。
一夜の恋。
金銭で購える。

どれだけ生きられるかわからない世界で暮らしてきた彼は、生涯を誓う事のむなしさを数えきれないくらい味わってきた。

だから、たった一人に心を捧げるのが…とらわれて生きるのが恐ろしくさえあった。


自分の死で悲しんだり苦しんだりする人間を作りたくない。


それが、多くの人を見送り、悲しみを超えてきたカカシの想いだった。


だが、すでに、自分がたくさんの想いを寄せられる存在であることの自覚がないカカシは、少しずつ人とのかかわりを薄くしてゆけば、いずれ訪れるであろう己が死によって、誰も傷つけることはないだろう、と考えていた。

だから。

ナルトとのつながりが苦しかった。
人は独りで生まれ、独りで死んでいく。

これほどまでの執着を、自分が持つことへの恐れ。
自分が自分でなくなりそうなほどの感情の揺れ。


自分が逝った後に…残されたナルトが苦しむことのないように。

たとえば…友や師を失った自分が、のたうつような苦しみを味わったように…あの陽気な若者を苦しめたくはなかった……


「いやだねーー俺っていつの間にこんなにネガティブな考え方するようになっちゃったのかねーーあの、いつも躁状態みたいなナルトと年がら年中一緒だと妙な反動がくるみたいだよね…」

黙って肩に座るパックンに話しかけるカカシは、パックンがそういう彼の考え方をいいものとは思っていないことに気づいてはいたのだが、あえてその事を話し合うつもりはなかった。



「………!!カカシ…!?」

最初にそれに気づいたのは索敵能力の高いパックンだった。

「!!!」

カカシが気付いた時にはそれはほんの目の前に迫っていた。

「…ち…!!」

カカシの驚異的な身体能力が、ぶつかる寸前でその巨大なチャクラの塊をかわさせた。
巨木からまっさかさまに落ちながら、どこか見知った匂いを持つそれに疑問を持つ間もなく…それは再び空中のカカシを襲ってきた………!




◇◆◇




時間は少しさかのぼる。

よからぬことをたくらんでいる青少年たちのたまり場。キバの家の地下。


「ネジ、カカシ先生は見つかった…?」

チョウジの問いに、白眼を発動していたネジは、指でこめかみを軽く押さえた。

「…里から出てる…北の森…いた!あの森親父の木だ…!てっぺんに座ってる…」
「遠いぞ…俺のチャクラじゃあそこまで飛ばせねえぞ…?」
キバが巻物を開いたまま眉を寄せる。

「チャクラなら俺が継ぎ足してやる。いるだけ使え。その代わり、俺はその術、使えねぇんだからきちんとコントロールしてくれよ、キバ。」
「お、おう!」
無尽蔵ともいえるチャクラの持ち主から、好きなだけ使えと言われたキバは、さすがにわくわくしてきた。

チャクラの残量をきちんと把握して戦うのは忍びの基本だが、誰でも、一度くらいはチャクラを気にせず術を使いたいものなのだ。

それは少女たちが、一度は値札を気にせずに買い物をしたがるのに似ている……


「よし、いくぜ、ナルト!ネジ、ナビゲート頼むぞ!」


キバが巻物に眼を落とし、忠実に印を切っていく。
ナルトはそのキバの肩に手を置いて、少しずつ、自分のチャクラを術式に流し込む。

ネジは白眼を発動したまま、カカシをその索敵範囲の中心にとらえ、前方向の視界だけキバに提供していた。


チョウジが、おやつを食べるのも忘れて、キバの目の前に出来上がっていくチャクラの塊を見つめている。


活字中毒の気のあるシカマルは、熱心に、キバに借りた実にくだらない…何の用途に使うのかわからない、その術の解除、影響を解説した巻物を読んでいた。

巻物の字を追ううちに、シカマルの顔色が変わってくる。



(これは、大名家の後宮で、趣向に飽きた大名たちが閨に趣を添えるために開発された閨房術で…)

─なんだと…?

(チャクラを卵大の大きさをイメージしてねりあげ…)

─……ちょっとまて、卵くらいの大きさって…


シカマルが顔をあげると、ナルトが補助して練り上げているチャクラの塊は、大人が両腕でも抱えられないくらいの大きさに膨れ上がっていた……!

「おいっ!!でかすぎるぞ!!卵ぐらいの大きさだっ!」

シカマルが叫んだときは、すでに遅く、

「ナルトっ!!チャクラをもっと絞ってくれっ!」
キバがナルトから注がれるチャクラを扱いかねて叫んでいた。
「……んなこと言っても、これが一番小さいんだ、これ以上絞れねぇってばよ!」

「だめだ、もうもたねぇ、飛ばすぞ!」
「待て、でかすぎるって、キバっ!!」

ご丁寧にシカマルの細工で、カカシの使った食器から残された微量のチャクラを検出して、追尾式になっているそのチャクラ玉は、建物をふぅっとすり抜けると北へ一気に加速していった。

「あっ!馬鹿っ!」

シカマルは慌てたがもう間に合わない。

「なんだよ、シカマル、なんか不味い事でもあるのか?」

ナルトが不安げに尋ねる。

「オオアリだっ!でかすぎるぞ!本当は卵くらいの大きさのものをゆっくり胸に当てて静かに埋め込んでいくもんじゃないかっ!」
「な、なんだって…!?」

みんな、シカマルのその言葉に驚いてキバの方を振り向く。
キバはそんなこと少しも説明しなかったからだ。

「え、?ええっ!?そうなのか!?」
「そうなのか、って、キバ、おめぇ…!!」
「や、あ、す、すまん、耳をくっつける術式があるとだけしか知らなかった……」

「少しは自分家に伝わる術の勉強くらいしておけっ!!」

シカマルに怒られてキバはそれこそ耳を垂れんがばかりに小さくなった。

─(獣耳、尾の除去方法は……)
この分じゃ、当然、ここの部分も読んでねぇな、こいつ……

シカマルは頭を抱えたくなった。自分が付いていながらなんという…
これではカカシを幸せにするどころか追いつめてることになってないか…?

「シカマル、どうした…?」

ナルトがさすがに察して心配気に聞いてくる。

「あれはでかすぎる。カカシ先生の事だから、大丈夫だとは思うが、食らった後でどんな影響がでるかわからん…!」

その言葉を聞いて、瞬身で飛び出す寸前のナルトを、間一髪で捕まえ、シカマルは、

「分身を独りおいていけっ!」

と叫んだ。





◇◆◇



「うわっ、またかわしたっ!!」


ネジは白眼を開いたまま、カカシと、彼らが放ったチャクラ玉の攻防を見つめている。

もどかしいその実況に、シカマル達は冷たい汗をかいていた。


「あっ!!」




ネジが叫んだ、その時。




!!!!




パックンがカカシの肩から振り飛ばされていた。


「……!!」

一瞬、カカシの気が削がれる。

背中から叩きつけられるように巨大なチャクラの塊を食らってしまったカカシはぶれる視界を必死につなぎとめようとしていた。

だが、頭の芯が真っ赤に染まり…

─まーずーいじゃないの……







石のように落ちていくカカシを、白眼で見たネジが悲鳴を上げる。


「カカシ先生っ!!!」



と……



その時、ネジは赫いチャクラの衣をまとった巨大な獣が飛び込んで来、落ちていくカカシを横咥えにさらっていくのを見た……。


「ネジっ!!どうした、どうなったんだっ!!」


シカマルやキバたちの呼び声も聞こえないかのように、ネジは呆然と壁を見詰めていた。


─あれが……九尾……





続く…







Update 2009/08/22