七夕語り
─5万打切りリク─

◇◆◇02話◇◆◇



カカシは人を待たせたことはあっても待った事がない。
勿論自慢にも何もなりはしないのだが。

これは彼を知るすべての人間の常識だったが、今日は珍しく、カカシはナルトに待たされていた。


……なんなのよ。一楽で昼飯食おうって言ったのはあいつなのに、なんだかねーーもう2時だぞ…?


だが、久々の任務明け、午前中にたまっていた片づけを済ませてかくべつ用事のなかったカカシは特に焦る風もなく一楽の屋根でのんびり昼寝を決め込むことにした。

筋金入りの忍者は、短気では務まらないのだ。(ナルトは例外である。)

そうこうするうちに、陽が陰り始め、ふと気付くと4時を回っていた。

……何やってんだ、あいつ。

おごりのラーメンをすっぽかすなんて、と、少し心配になってきたカカシが体を起こすと、連絡鳥が飛び込んできた。


「任務…?」




カカシは任務明けのはずだったが、新しい火影になってから、碌に休暇など貰ったためしがないカカシは、また任務が入ったのかと連絡を開けると…

ナルトからだった。


─急な用事で行けなくなった

と、謝りの伝言だった。



……おいおい…断るんだったらもっと早くに言いなさいよ…昼抜きになったじゃないのよ。


大してラーメンが好きだったわけではないが、ナルトと食べる食事は楽しかった。

厳格に育ったカカシは、賑やかなナルトといると、温かい家庭、という言葉をいつも思い出す。
自分も、ましてやナルトも、家庭、とか家族、とかと無縁に育ってきたせいか、体をつなげるようになってからますます、ナルトは二人で居たがるようになり、カカシの方も、ナルトの熱いチャクラをそばに感じることが心地よい、と思うようになっていた。

─忍としては堕落だ、と ダンゾウあたりは言うだろうな。


おとといの七夕も、火影から任務をいれられ、帰れたのは日付が変わってからだった。


ナルトはどこかに出かけていたようで、カカシは強行軍で急いで帰ってきてもナルトの姿を見られず、がっかりしている自分に気付いて愕然とした。

─ナルトに依存している……


ナルトがいるから頑張れる。
ナルトの姿を見るとほっとする。
ナルトの笑顔を見ていたい。
そしてナルトに……


カカシは思わず膝をかかえてしゃがみ込んでしまった。


ここまであいつに執着していたとは……


『たまには素直に甘えて欲しいってばよ』

ナルトはいつもそういうが、これ以上甘えられるか!

ナルト無しでは生きていけない…
そんな情けないオレじゃ、お前だっていやだろう?



あいつに可愛い女の子の相手が出来たらすぐにでも祝ってやる覚悟はあった。

だが、もう一度覚悟しなおさないと……ならないようだ……



カカシはため息をついて里を出た。


こんな気分の時、人の多い里は息が詰まる。


ダンゾウが里を治めるようになってから里が息詰まると感じるのはなにもカカシだけではなかったのだが、ダンゾウは特にカカシに眼をつけているらしく、重なる高ランクの任務、納得のできない任務選択がかさなり、さすがのカカシも精神的にも肉体的にも疲弊していた。

ナルトの姿が見えないときは特に…

…辛いと感じる………。




ナルトがいないのなら、なるべく里から遠く離れて体を休めたい。


そう思って森へと足を向けた。






◇◆◇





ダンゾウは目の前に立つ若い忍が、影分身かオリジナルか、区別がつかない自分にいら立っていた。

「カカシ先生には待ち合わせに行けないって連絡したってばよ?だから任務明けの先生に更に任務を入れるなんて真似すんなよ、ダンゾウ。俺が行くってば。」

「火影さま、だろう!ナルト。言葉を慎め!」

ダンゾウの隣に立つ暗部あがりの副官が声を荒げるが、しかしそれもどこか及び腰だ。




完全に九尾を支配下にし、仙人モードも自在に操るこの若者を、平気で怒らせられるものはこの里にはいない。

と、上層部の誰もが考えていた。


もちろん、この若者の同期や、その親世代の親しい人間たちが、この若者を平気でしばき倒したりぼろくそにこき下ろしたりしているのを知る由もない。

……巨大な力をたやすく行使して対立する他者を支配するかもしれない、と、この若者を恐れる人間は、己がその力をもった時そうせずにはいられないからだ。

シカマルやサクラ達、たくさんの仲間たちは、この若者の本当の強さを知っている。
それは尾獣や仙人チャクラによるものではないことを。
ナルトが尾獣を開放して戦うときは、戦うすべを持たない弱い者、やさしい者、大切なものを守る時のみ。


が、そんなことを新火影の周辺がしるわけもないし知ろうともしない。
自分たちがその力をもっていれば、支配するためにしか使い道を考えられない故に。


「慎めって……俺は三代目や五代目もじーちゃんばーちゃんとしか呼んでねえってばよ?特にあんたを馬鹿にしてるわけじゃねえ。単に嫌いなだけだって。」


「ふ、ふ…嫌いでかまわん。命令にさえ従ってくれればな。」
「だから従ってるってば。さっきから話がおんなじとこぐるぐるしてっぜ、ダンゾウ。さっさと任務を言えよ。さっさと行ってさっさと帰ってきてカカシ先生と休暇を消化してえんだって。それだけは約束だぜ、火影様?」


目の前の若者のチャクラは自分たちの数十倍のうねりが見える。
オリジナルだとしても、驚愕する量だが。


そもそもダンゾウは、この任務をカカシに割り振っていた。

今となっては里で貴重な写輪眼持ち。
この手の内に抱え込む予定が…

…切れすぎる刃物は己が手を傷つける…


九尾もろとも手駒にする可能性を捨てるのは痛いが、この人柱力を支配されて、反逆でも起こされてはかなわない。

…あ奴はそれだけの力と人望がある……腹立たしいことだが…わしよりもな……



危ない芽は双葉のうちに摘むに限る。


そうして無理難題な任務を高額で引き受け、単独任務としてカカシに当たらせ続けていたが。


…死なんな…。
さすがは……サクモの倅……

カカシが命を落とせば残った写輪眼はこの手に入る。
…この里に…写輪眼は一人でよい……



しかし、カカシはだてに里の看板を長年にわたって背負ってきているわけではなかった。


カカシに反感を集めようと与えたどんな陰惨な任務も、命令の範囲を最大限に拡大解釈して、最大公約数で解決して帰ってくる。

…世継ぎの子供の暗殺を命じた時は……金を払い終えた依頼者を始末しおったな……


「依頼者がいないのに子供を殺しちゃったら、火影の名に傷つくかなぁ、とか思っちゃいましてね?」


その依頼者を冷然と始末しながら、片目でにっこり笑って見せた。

そして、自分がどんな非道を働こうとも、命令で行う限り、その非道の非難を背負うのは火影。

火影の名に傷をつける気か、と、底冷えのする一つの目が感情を映さぬまま恫喝してきた。





欲しい人材はわが手に残らぬ。





ダンゾウはいらだちを無表情の仮面で隠した。
目の前の若者が、自分の師へ与える任務を肩代わりして…影分身を送るなら送るで、よし。

任務失敗すれば、拘束する理由ができるだけのこと。

里の地下に拘束すれば、九尾の力で出ようとすれば里人に被害が及ぶだけ。

この若者にそれができないのは承知の上だった。


ここのところ…医療院の綱手の回復が目覚ましいらしい。
強力な結界がはってあって、手のものをもぐりこませることすらできぬ。


あの蛞蝓姫が戻ってくるとなると厄介この上ない、と、ダンゾウは表情の動かぬ顔を、窓に向けた。

木の葉の若い英雄は何も言わずに部屋を出て行く。

六代目火影の地位をてにいれはしたものの、重要な手ごまはいつも敵方にあり、ダンゾウの行く手をはばんでいる。
それは、火影の地位についても何ら変わることはなかった。



はたけカカシ。

あの男を押さえれば……心酔しているあの人柱力も……。

青臭い正義を目指す弟子に肩入れしている癖に、したたかな駆け引きにも秀で、いざとなれば手を汚すことすらためらわない。
漆黒の闇の中…あれほどの屍を乗り越えてきながら、まだ、太陽を恐れない…。

ダンゾウは、彼には永遠に理解できないあの青年を、心の奥底でうらやましい、と、思う自分がいることに、ついに気付くことはなかった。







続く…



















Update 2009/07/18