七夕語り
─5万打切りリク─


◇◆◇01話◇◆◇



七夕の日。

小さいころ、短冊に書く願い事はいつも同じだった。

「早く火影になれますように。」


誰に冷やかされようとも、気にはならなかった。



けれど、それが現実味を帯びてきている今、短冊に書く願いがいつか変わっていたことにふと気付いた。


「みんなが笑って暮らせるようになりますように」



……



「ナルト、ずるい!! 術を使わないで一番高いところにくくりつけた願いがかなうって、一番背の高いあんたが高いところにくくれるにきまってるじゃないの!!」

飛び上がっても届かないところに短冊をくくっているナルトに、サクラとイノがぴょんぴょん跳ねながら文句をつけた。

「ははは…そうだっけ?でも脚立でも持ってくりゃ、いいってばよ。術じゃねーからオッケーだってば?」

「何よ!あんた、持ってきてやろうって気は無いわけ!?」
「そんくらい努力しろって、イノ。」
「ケチ!!」
「はいはい、俺はケチでいいってば!んじゃ、ちょっとキバたちと待ち合わせてっから…!」

片手をあげて笑いながら立ち去るナルトに、サクラとイノはため息をついた。

「ちょっとサクラ。ナルトっていつの間にあんな生意気にカッコよくなったのよ!」
「…は?かっこいい?あのナルトが!?」
「なにいってんのよ!!あんたいつも同じ班にいたんでしょ!?鈍くなってんじゃないの!?」

確かに背はたかくなったし、忍びとしての実力は……今では里でナルトと1対1で勝てる忍者がいるかどうか……

で、…友達は大事にするし…情も深い。
今までは冗談としか思えなかった頬の三本線も、二十歳になって顔の輪郭が殺げてりりしくなってくると、それなりにワイルドに見えるし、金髪碧眼の派手なカラーも…


あ、あれ…?ナルトってかっこいいの…?


いまさらながらにサクラは呆然とした。

下忍のころは、ウスラトンカチだのドベだのと言われ放題だったナルトがいつの間にやら強くカッコよくなっている……

ちょっと待ってよ。
それって、男が女の子に持つ感慨じゃないの?幼馴染が知らない間に美人になってた、って…
反対じゃ、女のアタシの立場がないじゃない!!

「あんたも、ナルト、かっこいいと思う?」
恐る恐る、といった具合にサクラがイノに聞いてみると、イノは心持声を低めて、アタシたちだけじゃないわよ…と、あたりを見回した。

長身のせいで、遠くからでもよく見えるナルトの金髪が、七夕まつりの提灯の火に光って、それに見とれる浴衣姿の少女たちが、あちこちで見受けられた。

あらららら…



これじゃ…カカシ先生も大変かも…



里の人たちは多分知らないだろうが、サクラたちは、ナルトの想い人が、自分たちの上忍師であることを随分前から知っていた。


カカシの方がいつ答えたのかは分からない。
でも、二人が、師弟を超えた関係になっているのはとうに気付いていた。

忍者の性的モラルは一般人と微妙に異なり、忍者の家庭に育っていないサクラにも、同性同士の関係を忌避する感覚はなく、へたに普通の女の子と付き合うよりは、カカシ先生の方が似合うんじゃないか、とさえ思っていた。

九尾の人柱力で四代目の忘れ形見。
木の葉の核弾頭のようなあの若者と、肩を並べて歩ける人間など、そう多くいるはずもないのだ…。


「でもさ、カカシ先生の銀髪って、ナルトの金髪とならんでると、セットみたいで綺麗よね!」

イノがいきなりカカシの話題を振ってきたのを聞いて、サクラは少し眉をあげた。
親友が同じ連想をしていたのに気付いて、サクラは思わずため息をついた。

この年頃の娘たちは、同世代の男たちにはわからない思考回路をもっている。

つまり、綺麗ならなんでもいい、と、いうわけだ。





◇◆◇




「そんでよう、ナルト、お前、恋人とはうまくいってんの?」


だいぶ酒の回ったキバが真っ赤な顔でナルトにからんでいた。

七夕はキバの誕生日、ようやく二十歳になった祝いだ、と、同期で集まってワイワイやっているさなか、意外とキバの声が響いた。

ナルトに気のある娘たちは何気なく耳をそば立てる。
事情を知っているシカマルとネジはひやひやしていた。

別に隠している風ではなかったが、ナルトに気のあるのは九の一ばかりではなく、普通の娘たちもおおい。
自分たちの特殊な恋愛事情が分かるとも思えなかった。
あの二人が、そんなことでとやかく人の口の端に上るのは願い下げだ。

「喧嘩なんかしないのかよ?」
ナルトはのんびりビールを口に運びながら、
「喧嘩になんてなんねぇよ。」
「お?ナルトくん、大人になったんだねぇ!大きく恋人をつつんでやってんだ?」
げらげら笑いながら背中をばしばし叩いてくる酔っ払いに、いてぇって、と文句を言いながらも、里でも人気の若い忍者は、大人びた苦笑をしながら、
「俺がだだこねたってみんな笑ってかわされちまうってばよ。」
「……だだをこね…って…なんだ、年上かよ、そいつ」
「……ああ」

シカマルもネジも、キバが、ナルトがカカシと付き合っているのを知らないことに気付いた。

─おい、シカマル。キバのやつ、酔っぱらって何か不味いこと言い出さないか…?
─ああ、早くお開きにした方がいいかもしれんな…


「子供扱いされて、ナルト先生はちょっと欲求不満ってわけかよ〜〜」
「……キバ…おまえ飲みすぎ…!」
「いいじゃねーかよ、誕生日なんだし!んで、なんだ、どこが好きなんだよ、年上のそいつの…?」
「全部」

考える間もなく即答したナルトに、キバだけでなく、シカマルもネジも前につんのめりそうになった。

「全部って…全部って…全部かよ…?」
「うん、全部好きだな」
「へ、へえ…び、美人か…?」

なんとなくおよびごしのキバの質問に、男から見ても男前の笑顔で、若い人気者は嬉しそうに答えた。

「すんげー美人だってばよ?なかなか顔をみしてもらえなかったけどさ、初めて見たときなんか大感動して…顔をなでまわして殴られちまったってばよ。」

「…………」
「…………」
「…………」

キバはのろけられてバカバカしい、といった表情だったが、シカマルとネジは猫背で長身の胡散臭い上忍師を思い浮かべて実に微妙な顔をした。


「たださ…」

ナルトも少しアルコールがまわったか、口が軽くなっているようだった。

「中々俺にあまえてくれねぇの。俺ってばそんなに頼りねぇかな?どう思う?キバ?」
これは真面目な質問だ、と直観したキバは、真剣に答えた。
「年上の大人なんだろ?その美人さんは。そんならそうそう簡単に年下の男に甘えたりできねぇさ。却ってアタシはあなたいなくても平気なのよ、ってな虚勢張っちまうもんだ。」
「虚勢?」
「そうそう。いくら甘えたくても、歳が上だとな。」
「……歳はどんなに頑張っても抜けねえってばよ…。やっとこの前身長だけは抜いたばっかりのにさ。」
「………この前身長抜いた…?ってお前身長いまどんだけあんだよ?」
「…ん?…2か月前に測ったら188だったかな?」
「……お前の恋人は…?」
「181」
「……で、でかいな。」
「おう!でっかかったってばよ。昔は見上げるぐらいでっかくってさ、背中にかばってもらってさ、おぶってもらって守ってもらって、俺ってばかっこ悪かったから、今度は俺が守りてぇのに…」

─おいおいおい ナルト、そこまで言ってちゃ、カカシ先生のことだって周りにばれちまうよ!

シカマルとネジの困惑をよそに、キバとナルトの恋愛相談は終わる気配がない。

「なんだ、昔っからの知り合いかよ。そりゃ、大変だよな、子供のころのダッセー姿を知られてちゃよ。」
「だろ、だろ?いくら今かっこいいだろ、とかいってても、ドベな昔を知られてちゃさ、中々もたれかかってもらったり甘えてもらったりできねぇんだってば。」
「…年上ってのは大変だな…」
「……いいこともいっぱいあるけどな」
「いいこと!?いいことってなんだよ、アレか?もしかしてアッチか……??」
「へへへへへへ」

─ぎゃああああああああ

シカマルとネジは無言で悲鳴を上げた。
知りたくない。恩のある、敬愛している上忍師の閨事情など、聞きたくはない!!

「畜生……!上手いことやってやがるなーーー」
「苦労したんだって、口説くのに…」
「やっぱり…?」
「…うん。歳が上なのすごく気にしてるし…すごく俺に気を遣うし…いつでも別れていいみたいな事言うし…」
「……それって…」
「俺にふさわしい相手ができるまでの間つなぎ、みたいな気でいるらしくって」
「うわあ…」
「俺ってばどんなに好きだっていっても今一つ信じてもらってねぇみてぇで…」
「そりゃ、切ないな」
「だろ、だろ?おめぇもそう思うよな…?」

─カカシ先生の大人の判断ってやつだよ…ナルト…

確かに真剣なナルトからして見れば切ない話ではあったが、二人に好意的な自分たちから見ても、里の上層部が歓迎するとも思えなかった。
方や人柱力で火影候補。
方や残された数少ない写輪眼の看板忍者。

人気者同士であるだけに、スキャンダル、と捉えられかねない。


「一遍、素直な気持ちを聞いてみたいってか、素直なとこ、見てみてぇんだけどな…」
「……なんかわかるな、その気持ちは…」

─気持ちだけなら分からないでもないよな…

ナルトの事も、カカシの事も、どちらも大事だと思っているシカマルとネジも、そこのところは頷くしかない。


「犬だったら、尻尾とか、耳とかみりゃ、一発で気分はわかるんだけどよ。人間はなーー。」
「だなーー。いっそのこと、わんこの耳とか尻尾とかくっつけてーぐれーだってばよ。」

─………!!!

犬耳としっぽをつけたカカシを想像したシカマルとネジは、思わず頭を抱えた。




「……!!ちょっとまてよ…!」
「…ん?」
「俺んちに、その手の術の巻物あったぞ…?」
「……ほんとかよ、キバ…?」
「おう。まて、借りれるかどうか調べてやっからよ!」

─待て待てまて待てええええええ!!ちょっとまて、お前ら、酔いに任せて何をしようってんだああああ!!!!


慌てて止めに入ろうとしたシカマルとネジが、椅子に躓いてまごつくうちに、二人は瞬身で姿を消してしまっていた……





続く















Update 2009/07/07