続 明け烏




                               ◇◆◇ 9 ◇◆◇



「…………!!?」


小太は、自分の目の前に、広い背と、そこに生えているように突き出した切っ先を見た。

先端から、ゆっくりと鮮血が滴り……


そうしてようやく小太は自分が、火男の仮面の男にかばわれたのを知った。


刃の突き立った脇腹を押さえ、男はゆっくりと膝をつく。

「人質が余計な事をするんじゃない……」


荒い呼吸をしながらも、そう言われ、倒れそうな男の肩を支えて小太は蒼白になった。




「……おかしいと思ってたんだよ…てめぇ…やっぱり正体現しやがったな…!!」


頭目が刀を抜いてゆっくりと歩み寄ってくる。

小太は男の肩にしがみつくようにしてそれを見つめるしかない。



「何もんだ…てめぇは!?」
詰問しようとする頭目を、手下の声が遮った。


「お、お、お頭っ!!」


カカシを包む茶色い靄が、ゆっくりと剥がれおちようとしていた。


中に倒れている…しなやかな銀髪の……見知らぬ…美しい女。



◇◆◇




「す、すげぇ!!すげぇぜ お頭!!こいつ、こんな、いい女になりやがった!!」


華奢な肩を抱え上げ、血に濡れた口布と包帯をはぎ取る。

そこに現れたのは。


大名の後室にも、めったに見られないような、白い美貌だった。


「……やれやれ…チャクラを散々使って抵抗してたのに………」

抱える男にそう言われ、小太は目を見張った。

「お前がやばくなったんで奴の気がそれてしまったんだ。…まあ、死ぬ前に決着がついて良かった…かもしれんがな…」



「な、にを負け惜しみを…」

茶色の顔いろにこけた頬、こちらは醜悪に面貌を変えた妖術使いの男が、ふらつく足を踏みしめて立ち上がった。


「見るがいい。あの写輪眼でさえ…アタシの足元にひれ伏したんだよ…!」

小太は、横腹に小太刀を突きさしたままの男が救い難い…といった風に首を振るのを見た。


「あいつは…木の葉に、暁が来襲したおり…弟子の少年を守る、ために…チャクラを使いきって…一度死んでるんだ。一度な。……だから、それがトラウマになっちまった火影が……」

「なんだと…?」
腹に突き立った小太刀を押さえ、とぎれとぎれの男の言葉に、周りの者は驚愕する。


「だから一度死んでる…んだよ…」
「生きてるでなないか。いい加減なことを言うな…!!」

いきり立って叫ぶ術使いの男に、大名家の放蕩息子が思わず、といった具合に口をはさんだ。

「……あの…大男の若い火影が…いっておった…一度、あの…男を亡くして…外道ペインの力で取り戻したと……」

「確かに…ただのチャクラ使いは…死ぬまで…チャクラを使い切ったりできない…。だが…奴は…普通の…お前と同じランクのチャクラ使いじゃない…。天才なんだよ…一緒にしてもらっちゃ困るな…」

「…………!!!!!っ!!!」

茶色く変じた男の顔が醜く歪み、何か言い返そうとして、口をつぐみ…そして嫌な笑みを浮かべた。

「どうでもいいですよ…あの人はアタシに敗れたんだ。理由は関係ないです。アタシの勝ちだ…!!!
男たちのおもちゃにされて…ぼろぼろになるまでもてあそばれれるんですよ!アタシに負けたせいでね!」

「男たちって、どういう事だっ、あれは我のものだ!!我が連れ帰り、我の…!」


「おおっと、だんな、そりゃあ、ちょっと待って下さいよ!」

頭目が騒ぐ跡取り息子の肩をだき、顔を覗き込む。

「俺たちゃ、だんなのお望みの女をずっと送り続けて、女日照りが続いてるんだ。その目の前に、あんないい女、ぶらさげられちゃったらね、ちょいと、味見させてもらわなくちゃ、おさまらない…ってもんですぜ?」


「ひゃあ、頭っ!!こいつ、男だったと思えねえくれぇ、いいにおいがしますぜ!!」

意識がないのか、ぐったりした「カカシ」の首筋に汚れた顔を突っ込んでいた男が嬉しげな声を上げる。

「へへへへ!!おっぱいもでっけぇですぜぇ…!」

そういいながら、サイズが変わってしまったためにだぶだぶになったアンダーの脇から、ごつごつとした手を差し入れ………

その途端、腕の中にいた細い体がクルリと回転し、懐に手を入れようとしていた男の体が吹っ飛んでいた。

「汚い手を突っ込まないでちょうだいよ」

後ろ手に拘束していた縄は、体のサイズが小さくなったために綺麗に外れ、ダボダボの服に身を包んだ、銀色の髪の…華奢な美貌の女は、らしからぬ様子で鼻を鳴らした。

「あ~~ズボンがずれる…胸が邪魔…」

よろよろと立ち上がりながら、ため息をついた。

「オレにおっぱい付けてどうすんだよ…普通の女の子を口説きなさいって…」

げんなりした声も、透明で、男たちを煽るばかりなのに気付いているのかいないのか…


胸元をひっぱって覗き込み…

「ああ~~~でっかいの付けてくれちゃって…もう…!…」

そういって視線を、小太が抱える男に向けた。


「烏…お前もぼろぼろだな…しょうがない……もう…俺、ちょっと…限界かも…押さえきれなくなってきた…巻き添え…食うなよ…」

小太は、美女の姿をした青年が何を言っているのか計りかねた。
勿論男達もだ。


「何言ってやがるんだ、こいつぁ!!」

華奢な姿に騙されると…大変な目に合う、というのは分かった男たちは、それでもじりじりと間合いを詰める。


「……多少はコントロール…できるのか…」

小太が抱えた仮面の男は、荒い息の中から、それだけを聞いた。


「……さあね…どうだか…押さえ損ねて…暴走したら…ごめーんね?」


「やかましい、さっさと大人しくしやがれっ!!」


そこにいた男達が一斉に華奢な体に飛びかかった。

餓えた狼たちが、小さな獲物を屠るように、男たちが、獲物の纏うサイズの違う暗部服を引き裂き…


「カカシっ」
「カカシさん!!」


白い裸体があらわにされようとした時…
幾本もの手が、その体を暴こうとした時。


色を失った唇が、な・る・と…と刻み……




辺りを爆発的な深紅のチャクラが包んだ………






◇◆◇







やっとわしの出番が回ってきたか……




獣のシルエットを持つその強大なチャクラの塊は、低い、腹に響く男の声を響かせた。




写輪眼の若造め、未練がましく何時までも抑え込みおって。



燃える眼が、カカシを抑え込む男たちを睥睨した。



ソレは我らのものだ。小汚い手で触るでない。



ぽっかりと空いた底なしの暗い空洞に、燠火のような陰火が燃える魔眼を向けられ、カカシを押さえつけていた男たちは凍りついた。


去ね…!



その言葉とともに、背に扇のように広がった九本の尾が、颶風を巻いて辺りを凪払った……!!












Update 2010/07/04