続・明け烏


前書…というか…

このお話は、「天上天下〜」「明け烏」の続編です。
オリジナルキャラクターについては、「明け烏」をちらっとのぞいていただけると…(笑)
いえいえ、見なくても大丈夫なんですけど^_^;

お手数をおかけします^^;



                               ◇◆◇ 1 ◇◆◇


死にたくない…もう少し。もう少しだけ…生きていたい…
この子を…せめてこの子を産み落とすまで……

やせ衰えた腕で、カカシにすがる、その、若い母親の…
たったひとつの願いを。

その時のカカシに…見捨てることができたであろうか。
たとえ、任務の途中であったとしても。


ぎりぎりのチャクラで、連絡地点に気を失った妊婦を隠遁で隠し、あと少しで合流できた筈のカカシは、己を囮にして、その場から追っ手を引き離していった。


ナルト…俺の…火影様。…すまん…里に戻るのは…もう少し後になりそうだ……


やはり、蛙の子は蛙…自分も、かつて父が選んだ道を、否応なく選んでいることに、仄かに苦笑しながら。




◇◆◇




時間は少しさかのぼる。


木の葉の英雄とうたわれる、若き火影は、どうしようもない渋面をして、腕を組んだままだまりこんでいた。


ほぼ同時期に舞い込んだ二つの依頼。


一つは高額報酬を約束したもの、もうひとつは、これが忍に仕事を頼む額か!?と確認をとりたくなるような論外のもの。


当然、長老たちは、若い火影が何を迷っているのかわからない、と言った風で、任務の配分をせかして下がっていった。

カリっと、白い歯が、逞しい手の先の、大きな爪をかじる。

その癖はやめろ、と、火影を遠慮なく叱り飛ばす彼の大事な相棒は、今も任務中で、相談する相手と言えば……


「お呼びと伺いまして…」


ふ、と辺りが翳ったかとおもうと、部屋の片隅に、ひっそりと膝まずく暗部がいた。

ナルトは無言で机の上の書類を顎で指す。

辛抱強く相手が確認し終わるのを待つと、どう思う、と窓を向いたまま問うた。

「火影様の中ではもう答えが出ているのではないか、と、拝察いたしますが。」

そのまま書類を元に戻した暗部は、低くそう答えると、また拝跪の姿勢に戻る。

「……鴉のおっちゃん、オレと二人の時はその話方止めてくれってば。背中がカユくなる。」

がしがしを頭をかきながら情けなさそうにいうナルトに、ため息をついて、膝まずいていた暗部……筆頭の鴉は立ち上がった。

「カカシが留守だからと言って、あいつの役目をオレにふるな。」
「……振ってねぇって…」
「……なら、既に答えの出ている問題で、オレに再度確認するのや止めておけ。オレはお前の命令を常に(うべな)うだけだ。」
「……」
「カカシのように、オレにアドバイスなんぞ期待してもらっては困る。…オレは…ただの道具。お前の手足にしかすぎん。考えるのは役目ではない。」
「……つめてぇなあ……、よし、覚えとけよ、オレに冷たくして得なんかねぇんだってばよ。この任務が終わったら、そんなこといってられなくしてやるからよ!」
「……」
鴉、と呼ばれた暗部は、烏面の下でコッソリため息をついた。
自分にはカカシのようにこのやんちゃな火影をあやしてなだめるなどという芸当はできそうもない…

「決心がついているのならぐたぐたしてないで、さっさと命令を下せ。一刻を争うんじゃないのか。」
「……う、まあ、そうだけどよ。」
「……まちがってもオレにオマエの影分身の守役なんぞ、つけるんじゃないぞ。」
言いだし損ねていたことを先に断られてしまったナルトは、う、と、言葉を詰まらせた。

「オレがやるのは、タダ同然のくせに異様に困難な方だろうが。オマエの作戦をさっさと話せ。」
「……俺はあんたの命を軽んじてるわけじゃねぇんだってば……」
でかい手で、でかいこぶしを握り締めて、そんなことを言い出す火影に、鴉は思わず苦笑していた。
きっと、とんでもなく困難な…しかし、この火影にとっては大切な任務なのだろう。
カカシがいれば、この若者に内緒で黙って引き受けた、そんな…。

そんな任務をオレに任せてくれるまで、オレを信頼してくれている……

それは…鴉にとって、自分の命をかけるに値する唯一のもの。

長身の暗部よりもさらに上にある火影の金色の頭を、(危ないことに)鉤爪のついた暗部グローブのまま、わしゃわしゃとかき回すという乱暴な真似をした年上の部下を、情けなさそうな顔で見下ろす火影は、ぐ、と目を閉じると、大きく息を吸って…
言った。

「鴉。潜入任務を命じる。目的は、組織の内部崩壊だ。期限は設けないが、早くしなければ犠牲者が増える、それを忘れるな。」
「…は…っ!」

改めて拝跪する暗部筆頭の烏面を見下ろしていた火影は、ふ、と表情を和らげて言った。

「他にも手段は考えてる。ただ、オレの考える方法って、いっつも穴だらけだって…先生につっこまれっちまうからさ。先生が戻ったら改めて他の手段も検討して…つなぎつけっから。それまで、とりあえず新しい犠牲者をださねぇ方向で…やってほしいんだってばよ。無茶、すんじゃねえってばよ…?」

お前は大切なオレの部下。
お前の命を捨て駒にする気は無い。

ナルトの真剣なまなざしは、はっきりと鴉にそう告げている…。

そんな火影のために、命を惜しむものがいるだろうか…?

いや、生きて帰ることこそが、この、若い英雄の意に沿う事だ、と、十分承知している鴉は、改めて深く膝まずき、渡された書類を懐に、瞬身で火影の前から退出した。



続く…筈…orz



Update 2010/02/13