続 明け烏




                             ◇◆◇ 12 ◇◆◇




小太は、部屋を埋め尽くすように現れた、無数の火影を呆然と見やった。

守るように肩を抱いてくれているのも火影。
足下も危ない潜入任務に就いていた部下の傷を確認しているのも二人の火影。


そしてあきれたことに、盗賊一人一人を火影が相手をしているのだ。

相手をしている、というか仕置きをしているというか。


川の国の放蕩息子は、偉丈夫の火影二人に両脇から挟まれ、二尺近い高見からみおろされて、固まっているし、彼が連れてきた幻術使いは、後頭部をでかい足で踏みつけられ、息が息が、とモゴモゴいいながら、虫のようにもがいている。


「……ほ、火影さま…あの…皆さん……火影さまの…部下の方々ですか…?ず、ずいぶん…その、そっくりですね……?変化…なさってる?」

おずおずと見上げて聞いてみると、遙か高いところにある厳しい表情が、にこ、と笑み崩れた。

とたんに暖かい、穏やかな笑顔になる。

「そっか、あんた、影分身ってしらねーんだな。あれはみんな俺だってばよ。だから、あんな雑魚どもにやられたりしねぇから、心配し無くってイイってば。それに…」

腰をかがめた火影が満面の笑顔で、

「あんたの奥さんも赤ちゃんも大丈夫だって、綱手のばーちゃんが太鼓判押してくれてるから、心配すんなって!」

小太は目を見張った。探し求めた妻の消息を火影が知っているとは思ってもみなかったのだ。

「カカシセンセが体張って助けた奥さん、何かあったら、どやされちまうからな!」

そう言われた小太は、申し訳なさに涙がでそうだった。
自分が、彼を信頼して、じっと待っていれば、こんな事にはならなかったのに。

「カカシさん…大丈夫ですか…?顔色が悪くて…」

そう小太が辺りを見回したときにはとうに決着はついていた。

すべての盗賊が、自分の服を引っぺがされた半裸状態で、その引っぺがされた服を縄代わりにぐるぐる巻きに縛り上げられる、という、いかにも情けない状態だった。



……怒ってる…?火影様…もしかして、すごく怒ってる?


自分や「からす」と呼ばれる部下に向ける暖かい表情と、川の国の跡取りを見下ろす表情に、天と地以上の隔たりがある。


「……先生、は、ちょっと、やばい…んで、先にちょっと手当てさせてもらってイイってば?奥さんが心配だから先に帰りてぇなら、このまま影分身の俺でわりぃけど、送るけど?」
「いえ、綱手様がうけあってくださっているなら、大丈夫なんだと、安心してます、それより、俺が迷惑かけてしまったカカシさんの方が…カカシさんを優先して下さい。」

小太のその言葉は、人としての良識に則った立派な意思表明だったが、後で、微妙に後悔することになる。
が、この時の小太にそんな予知能力があるはずもない。


「そっか、わりぃな、助かるってばよ。あんたを送っていくなら、ちょっとチャクラのコントロールが面倒になるところだった…!」

火影のその言葉は小太にはさっぱりわからなかったが、呼吸が速くなっていた男の顔色が、火影の手当でだいぶ落ち着いてきたのを見て、さすがに火影だと感心した。


長身の火影は、一応騒ぎが収まったと見て、辺りをゆっくりと見渡す。

いかにも「睥睨する」という感じの、その貫禄に小太は思わずどきどきした。
自分よりも年下でありながら、すでに英雄として名の知れ渡る若き火影。
どれほどの人物であろうか…!

しかし、その敬意に充ち満ちた小太の頭の中をカカシや鴉が覗いたら、眉間にしわを寄せてため息をついただろう…

─見かけにだまされるな…!中身はガキだ!!




「お前ら、ずいぶん楽しいこと、してくれちゃったってばよ?」

もちろん、猿ぐつわをかまされている連中は反応出来るはずもない。
芋虫のようにもがくばかりだ。

猫の子にでもするように、幻術使い崩れの襟首をいかにも厭そうにつまんで持ち上げ、泡を吹いて失神寸前の男に低い声で言った。

「お前か。俺の先生に素敵な手出しをしてくれたのは…?」
「ひ…ひぃ…」
「お前のこぎたねぇチャクラを、よくも先生に押し込んでくれたな…」

激昂するわけでもない低い声が、かえって火影の怒りの深さを表しているようで、小太は自分が怒りの矛先でないにもかかわらず、足下が震えてきてしまう。

「さっさと俺の先生を返してもらうってば。」


そう言いながら振り向く視線の先を、しらず、自分も追った小太と、鴉だったが。

部屋の隅、テーブルに座りこみ、カカシを抱えた火影が、カカシの顔をのぞき込んでいる…?
治療をしなくていいんだろうか…?

隣の鴉がため息をついて片手で顔を覆ったのに気づいた小太は、もう一度カカシを抱えた火影を振り返り…

固まった。



テーブルの上にあぐらをかいてカカシを抱えこんだナルトは、カカシの背に回した長い右腕を前に回してカカシの脇の下から白い乳房を掴み、空いた左手はカカシの下腹部に当てられている。

そうして、際限もなく文句を言いそうなカカシの口を自分の口でふさぎ……

白い腕がペシペシとナルトの後頭部を叩き、胸を突っ張って押しのけようとするが…。
明らかに無駄な抵抗だった。

ナルトの大きな右手の中で、カカシの柔らかな乳房が形を変え、乳首が立ってきているのが見て取れた。


既婚者の小太は、真っ赤になった。

「な、な、な、な??」

「あ、イヤラしい事してるみてぇに見えるかもしれねーけど、あの野郎のチャクラを先生から追い出そうとしてるだけだから。」
「そ、そ、そ?」
「そうそう」


─嘘をつけ…!

口の中で小さくののしった鴉の声をひろった、彼を支えている「ナルト」は、
「まあ、あのチャクラ補充が先生にいやがられるのはわかってるんだけどさ。今回はマジでちょっとやばそうで…手っ取り早くしねぇとあのまま定着しちまったら冗談じゃねえし。」
「…跡取りの必要な『火影様』には都合がいいんじゃないのか…?」
少しとげのあるそのいい方に、しかしナルトは怒りもせずに苦笑した。

「俺は今、先生を美人のねーちゃんにしちまってるあのチャクラは大嫌いだ。キモチがわりぃ。人をねたんだり恨んだり、そんな嫌らしい気持ちで出来てやがる。そんなのは先生にあわねぇ。俺が嫌いなんだから、先生だって嫌いなはずだ。」

その自信はどこから…と、鴉も小太も思ったが…

「先生がチャクラ切れ起こす度に、俺のをたしてたら、チャクラの質的には俺とすげえ似てきてるんだってばよ。だからああして、俺のチャクラを調整しないで継ぎ足せるようになったんだし、お守り代わりにきゅーちゃんをくっつけられるし…だから俺が厭なチャクラは先生だってたぶん厭なはず……」
「何だって…?」
「だから俺のチャクラと…」
「その次だ。お守りの何だって?」
「きゅーちゃん…?ああ、九尾のきゅーちゃん…?」
「…………………きゅう?ちゃん?」

あの凄まじい尾獣に…何ともかわいらしい名前をつけたものだが…九尾の九そのままと考えるのならいかにもナルトらしいといえないでもない………いやいや、この火影がつけたんだ、さぞ九尾の方も不本意だっただろう…
などと考え暫し呆然としていた鴉は、バチチ、という聞き覚えのある音に振り返った。

「いーーーかげんにしなさいってのっ!!!!このセクハラ火影っ!!!!!!!!」

チャクラを補完されたとたんに雷切か、と鴉はこめかみに手をやったが、隣のナルトは笑っている。

「うわあ、センセってばキレるのはぇえ…!」

口をふさぐ火影から無理矢理のけぞると、まだ小さい雷の玉を思いっきりナルトの胸にぶちかました。

火影を攻撃するカカシに悲鳴を上げそうになった小太だったが、食らった方のナルトは笑い声をたてたままボフンと消え…体勢を崩したカカシを、また新たな火影が抱き上げる。

「はいはい、センセ、もうちょっとがまんしねーと戻れねぇってばよ?」
「おまえっ、乳を揉む必要が何処にあるのよ!? 触らなくってイイでしょーよ!!」
「先生の胸にオッパイついてるのって二度と無いんだから、揉みたくなるのが男だってばよ!」
「そんなところで男の証明しなくてよろ…んっあ…!止めなさいって…ナル…」

懲りない火影は本格的にのしかかっていく。

カカシが困っているのではないだろうかと、小太はおろおろと鴉と、となりの「火影」を振り返るが、鴉があごをしゃくってカカシ達をみろ、と示した。


カカシの姿がうっすらとぶれ始めている。

ほっそり華奢な手足がみるみる美しい筋肉をまといはじめ…



木の葉の最強の火影の腕の中に、木の葉の最高の上忍師が再び姿を現した。

元に戻った感動……も何処吹く風、

「いい加減にしろっ このエロ火影っ!!!!」

長身の上忍師は真っ赤な顔で、自分の胸に顔を埋めっぱなしの若い火影の耳を引っ張り上げた。

「いででででででで!!!」
「いつまで人の乳に吸い付いてる気だこのっ!!!!」
「あ〜 なんかもったいねぇ……平らになっちゃったってばよ…」

余計なことを言ってるな、と思ったのは小太だけではない。鴉の視線も宙を泳いでいる。

ガツン!

と響きのイイ音がし、やんちゃな火影は頭を抱えてうずくまった。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いてぇ〜〜〜〜」
「でっかい乳がお望みなら、五代目にしがみついてろっ!俺に要求するなっ!アホ影っ!!」
「アホ影って…アホ影って…それって…」
「……」
なんか文句があるのか、と、見上げる上忍師に、
「先生、うまいこと言うなぁ〜センセの前だったら、俺っていっつも阿呆な小僧っ子のまんまだってばよ!」
「っ!!!」


もしかして…あのしたたかな…切れ者として名の知れ渡った上忍師よりも…この火影様の方が食わせ物で上手を行っているのではないだろうか…?

そんなざわざわする考えに、隣の、優秀であろう部下の男を盗み見ると、歯痛をこらえるような表情で眉間を指先でもみほぐしていた。




……あれ?終われなかったよ…マ(。Д゚; 三 ;゚Д゚)ジ!?
と言うわけで…まだ続いてます、ええ、まだ続くんです、次では終わらせます、ええ終わりますとも!
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Update 2010/08/01