続 明け烏




                               ◇◆◇ 11 ◇◆◇


何が起こったのか理解していたのは、たぶんたった二人だけだったであろう。

凄まじいチャクラの飛来を感知できた幻術し崩れの男も、何がそれを引き起こしたのかまではわからない。

隣室との境の扉が吹き飛ばされ、大量の瓦礫と砂煙が後から後から押し寄せてくる。


「……派手に登場しやがって…アジトを全壊させてしまうぞ…」

クナイが刺さったままの脇腹を押さえつつ、ため息をつく鴉に、

「ま、俺達3人…くらいは…助けてくれる…でしょうよ。」

と、気にもとめていないカカシを、小太は心配そうに見やった。
ただでさえ色白のカカシの顔色が、ますます白く、青ざめてさえ見える。



「な、なんだ、どうしたってんだ、どうなってんだ…!?」
「地震か!?どうしたんだっ!?」


口々に騒ぐ野盗達が見たもの。


収まってきた砂煙の中に立つ、深紅のマント…長身の影。
鴨居に鼻から上が隠れて、顔がすべては見えない。

口元には不適な笑みが刻まれ、ほおにはトレードマークの三本線。


「………ま、さか…火影…?木の葉の……!?」

ここにまで里長自ら出張ってくるとは思いもよらない男達は、九尾を持つ、最強の「影」の登場に呆然と固まっている。


「おぅ!お待たせだってばよっ!木の葉のオレンジの旋風!!うずまきナルトさま、登場だってばよっ!!」



その名乗りはどうなのよ…と、鴉を見上げたカカシと、ため息をつきそうな表情で振り返った鴉との視線が交わる。
お互い同じ事を考えたのは一目瞭然。
そして。


「おっちゃん!先生は無事か……って…え…!?」


床に倒れ込んで、小太に抱え込まれているカカシの位置からあおる形でナルトの姿が見える。
カカシから見える、ということは、ナルトの方からも見える、ということで。


「……げ…ヤバっ…」

今更のように、さらされていた己の白い乳房を両手で覆う。
隠す方が見せているときよりも更に隠微さを増す…の、典型なのだが、その時のカカシにそんな判断は出来ない。

恥じらうように両腕で胸を隠したカカシと、ナルトの視線が交差し。



「せんせええええええ!な、なんて格好してるんだってば!!……だいじょ……」



叫んで駆け寄ろうとしたナルトに……


「ちょ、待て、ナル……」

慌てて止めたカカシだったが…
間に合うはずもなく…


がつぅーーーーーんっ!!!!


派手な音が響き渡り、収まりかけていた砂埃が再び舞い上がる。


「いででででででで……!!!」


もうもうと舞うほこりの中に……鼻っ柱を押さえて長身の火影がしゃがみ込んでいた……




◇◆◇




ナルトを制止しようと慌てて起き上がっていたカカシは、ぐったりと鴉の背中になついてしまう。

「………大丈夫か心配なのは お前の方だ…ナルト……」

思わずといったカカシの独り言を、背中に聞いた鴉は、く、と腹筋を締めて爆笑を押さえた。が、そのせいで刺さったクナイが角度を変え、激痛が走る。
しかし、背中の深いため息を聞いてこらえきれずに肩をふるわせた。


「ちくしょう、何でこんなに低いんだってばよっ!!!!」

八つ当たりのように叫んだ火影が力任せに鴨居をたたき壊し、(盗賊達の前でかがんで入るのは頭を下げるようでしゃくに障ったのだ)


一連の火影登場に度肝を抜かれていた頭目達は、見かけは長身ですばらしい体格の火影が、少々粗忽者だと見て取り、とたんに息を吹き返した。


「若造がたった一人でナニしに来やがった…!」
「大事な先生がいなくて心細かったってか…!?」

いつもは簡単に挑発に乗ってしまう若い火影だが、思い人である上忍師の「衝撃的な姿」に、群がる連中も完全に眼中になかった。


傍らに跪き、小太の腕の中のカカシの顔を、そっとのぞき込む。

多少ばつの悪そうな表情で、や、お迎えご苦労、と笑ったカカシを、引っさらうように抱きしめた。

「先生ってば、何ちゅー格好になっちまってるんだってばよ…」


が、野盗達は、火影が大事な上忍師や部下、依頼人の無事を喜んでいる時間を与えるつもりは無いようだった。

「乳離れ出来ない火影様には教育的指導をお見舞いしてやらぁ!!」

かがみ込んでカカシを抱きしめたままのナルトの背後に大上段に長刀を振りかぶった野盗を見、小太が悲鳴を飲み込んだ。

「火影さまっっ!!!!」

が、もちろん刀が振り下ろされることはなく。

野盗は自分の腕を大きな手で捕まえている「火影」をぎょっとした表情で振り返った。

「たった一人で何をしにきたか、っていってたな。」

カカシを、己のマントにくるんで抱き直すと、ゆっくりと立ち上がる。
その周りには3人の「火影」が新たに現れた。
一人は小太の肩を抱いて立ち上がらせ、にぱっと、全開の笑顔を見せ、二人が鴉の傍らにかがみ込んで、クナイを抜きながら傷口をふさいだ。

気をのまれていた頭目は、ゴクリ、と のどを鳴らしながら、それでも長刀を握る手に力を込めた。

「さすがに…火影ともなると…たいそうな術を使いやがるな…四人の分身…だと…?さすがだ、とほめてやるが…」

ナルトは頭の長広舌を黙って聞いているように見えたが、実際は腕の中のカカシが、降りたがってごそごそするので、そちらに気をとられていたのだ。

「たった四人で何ほどのことができるってんだよっ!!」

腰だめに構えた長刀を、カカシを抱えて動きが鈍い、と見て取るや、体当たりで突きかかってきた。

ぼふん。


と、抱えたカカシごと、長身の火影が煙になって消え、多々良を踏む頭目の背後に現れた新しいナルトが、及び腰の尻を蹴り上げた。

「ぎゃっ!」

尻の間に見事につま先が入り、声も出せずに転がる頭目に目もくれず、ナルトはのんびりと振り返った。

「さっきから聞いてりゃ、一人一人って、うっせーやつらだな。」

鼻の頭に悪童のようなしわを刻み、長い指が軽やかに印を切る。

見とれている小太の腰をさらったのも火影、大けがをしている部下に肩を貸して立たせるのも二人の火影…

広いとも言えぬ部屋に存在する幾人もの長身の火影に、小太はめまいを覚える。

「…ほ、火影さま、カカシさんは…」

自分を抱えるナルトに小太がそう尋ねたとき、部屋は その火影であふれかえった…!!


「木の葉の火影は一人から千人まで、望み通りだってばよ!!」

その声が終わるまもなく、数十人の火影が一斉に男達にとびかかった…!







Update 2010/07/18


もう少し続けるはずだったんですけれど…
日記に書いたトラブルのせいで、ちょっと…肩が…
上がらなくなってorz
短い上に中途半端ですみません…orz