A little little Lover -6-


柔らかい和毛の生えた、まだみずみずしい蔦は、ゆるくカカシの両手足を拘束していた。

何時もの後輩がしたことなら、簡単にキレて、雷切の二、三発もお見舞いするところだったが、カカシの締まった腹筋に舌を這わせる少年のまだ丸い頬のラインを上から見下ろすカカシには、思わず、あの忌まわしい場所から連れ出されたばかりのころの彼の様子が思い出され、つい。

……んっ


簡単に反応する自分の下半身の事情が気まり悪かったが、テンゾウがトラブってから、碌にそう言った行為にご無沙汰だった体は実に正直で、たとえそれがまだ少年のものだったとしても、テンゾウの手である、というだけで、簡単に体に火はついていった。


「おま…ちょっと、その格好で…っ!」
「……いけませんか…?なんか少し悪いコトをしている気になるでしょう?」

こんな時には後輩の丁寧なしゃべり方が嫌に癇に障る。

「…腹立つなぁ、オマエ…オレが抵抗しないと思ってるだろ!?」
…しないけどさ、という後半の独り突っ込みは胸にしまって、晒された顎に伸びてきた後輩のまだ細い指を首をふって払ってにらんでやる。

「……いえ、ボクもなんか色々振りきれちゃってるんで、後で思う存分殴られればいいかなーとか思って…」
「な、なんだよ、そのなげやり…んっ」

うるさい口はふさぐ、といった態度で後輩は柔らかい舌をからめてきた。

…確かに、こいつとのキスは気持ちがいい、と、大人しく口を開けたカカシは、そちらに気をとられているうちに、腰を抱えていたテンゾウの指が、後ろに回っていたのに気付くのが遅れた。

─あっ、あ、!

口を重ねたまま、入口のすぼまりを指の腹でくるりとたどられ、びくりと体が震える。

「哀しいですが、今のボクのサイズなら、先輩もう、大丈夫でしょう?」
「……な、な、オマエ、やっぱやる気かっ!」
「まぁまぁ…!」
「…っ…そんななりして中身はオッサンだな、テンゾウ…!」
「何とでも…!」
「…ぅ…!」

入ってくる。

汗でしっとりと湿った肌を細い指でたどられ、そちらに気を取られたスキに、体温を持った硬いものが、強引にもぐりこんできた。

自然に体がのけぞり、息をはいて力を抜こうとする。かなしいことに、もうそれは習性になっているようだった。

─ナニこれ、腹の立つ!

軽く息をつきながら、後輩を見上げたカカシは、眉をひそめて自分の中を進んでくる少年に「オトコ」を見、知らず、頬が熱くなった。

何も変わらない。

どんな姿になろうとも、こいつはこいつ。

頑なな、自分の心の中に、するりと自然によりそってくる、鮮やかな、手。

「……っ、テン…う!」

生理現象のように体がのけぞる。

何時ものように手なれた愛撫の手順をたどって体は高められていく。

が……

─お、くに…もっと、その、奥……!

もどかしかった。
あと少しでイケる、その寸前のところをゆるゆると出入りされ、カカシは思わず腰を振ってねだっていた。

「この…ぅ…馬鹿テン、じらすなっ!!」
「………!」
「…うぅ、テンゾウっ!!」
「……じらしてないです、先輩、届きませんか、いいとこに?」
「……!!!!」

くっそーーー子供サイズが問題なのかっ!!

なんのプレイだ、これはっ!!

焦れて体をよじるカカシに、かすかに息を乱した後輩はなだめるようなキスを額に落とす。
何なのよ、その余裕!ほんとにまったく腹の立つったらないっ!
心の中で毒づいても言葉に出すゆとりがないカカシは、体を離そうとする後輩の腰に思わず足をからめていた。

「……先輩っ、そんなことされると、止まれなくなるんですけど…!」

『そんなこと』、が何を指しているのか分からなかったカカシは眉間にしわを寄せたまま覆いかぶさる男を見上げる。

「…届かない…のなら、仕方ないです、ちょっと待って下さいね…!」
少し体を起して、両手を組む。
体が離れて、間に冷たい空気が入り、カカシは鳥肌を立てていた。
離れないでほしい、純粋にそう思う自分は、随分と後輩依存症が進んでいるんではないか…そんな自嘲をする余裕があったのも…

「…っテンゾウっ!!や、ちょ、ナニ…っ!?」

木遁のチャクラが後輩の手に集まるのが、半分意識が飛びかけていたカカシにも感じられた。

ひゃっ、と、かなり間抜けた声をあげてしまったカカシは、自分の中に…

「テンっ!ちょ、っと、止めろっ!!無理っ!無理だから、それっ!」

カカシの体を腰で二つに折りたたみ、自分の性器に指を添えて、再びカカシの中に入ろうとするテンゾウに、カカシは体をよじって抵抗するが…

「…終われないでしょ、先輩、ちょっと最初だけ我慢して下さいよ。」

我慢してまでセックスしたくないよっと、言いかけた口を再びテンゾウがふさぐ。

んーーーんーー!

さっきとは比べ物にならない質量に体内に侵入され、カカシは悲鳴を上げそうな口をかみしめた。

─指…だけじゃないっ!こ、こいつ…!!

自分の下腹部で、後輩のチャクラがじわっと広がるのを感じる。

「テン…ゾウ、この…!おま…え!!あっ!!」

性器に添えられて体内に入ってきたテンゾウの指先から、何か、何かが…!!

「あっ、あっ、あっ!!」
「…動かないで、先輩、怪我しますよ…!……ココ…でしよ?」
「………!!!」

指先から伸びた細い…多分蔦…が、ゆっくりと体内をのぼっていく。
おぞましい、ともいえるそれは、しかし確かに後輩のチャクラを纏っていて……

……!!

声を出すこともできなくなったカカシは、溺れる人のようにパクパクと口で息をするだけだ。

「先輩……イケそうですか…?」

耳元でそう聞いてくる少し高い後輩の声を最後の記憶として残し、カカシは熱い闇の中に自分の意識を投げ込んでいった。



◇◆◇



変化したばかりの体でチャクラを使ったテンゾウは軽い頭痛に悩まされながら、動かなくなった大事な先輩の体から身を起こした。

床の上でコトに及んでしまい、無理な姿勢で横たわったままのカカシを何とかしてやりたいのだが、いかんせん、元の体の時でも、カカシの方が背が高かったのだ。
いくらカカシが細身でも、今のテンゾウには簡単に抱えられない。

「でも…こんなとこに寝かせておくわけにはいかないし…う、しょうがない、もうひと頑張り…」

そう独り言を言って、テンゾウはゆっくりとチャクラを回し始める。
体調は、幼児だった時とちがって、だいぶましになってきたようだ。
この分だったら、何とか元に戻れるのも、そんな遠い話ではないだろう、と、幾分期待しつつ、手のひらから蔦を伸ばす。
出来る限りそーっとカカシの体に絡めると、額に汗を浮かべながら持ち上げ、落としたり、しないようにきつく絡めてベッドに運んだ。

「……う、体力限界…にきてる、みたいだな、また変な変化する前に…」

先に風呂を使って、そのあとでカカシがまだ起きないようだったら、体を拭いてやろう、と、浴室に駆け込んだ。



◇◆◇


どこか遠くで水音がする。

ああ、シャワーの音か、と、思ったとたん、カカシはがばっと身を起こした。

「どこよ、ここ…って、あれ?ベッド?」

起立性貧血のように、目の前が紅く染まった状態に、カカシは力なくまたシーツに沈んだ。

何たる失態…!
子供相手にその気になるなんて…

いくらテンゾウだとしても、イケナイ大人の見本のようで、後味が悪いったらない。
…気持ちよかった分なおさらに。

どうやって自分をあの細い体で運んだんだ、と、妙なところが気になったカカシは、自分もシャワーを使おうとゆっくり体を起こした。


「あっ、先輩、もう起きたんですか…?」

風呂場から出てきた後輩が、気配に気づいたらしく、頭からかぶったタオルでごしごし髪を拭きながら驚いたように声をかけてきた。

カカシが照れくささのあまり黙って風呂場に入ろうとすると、不機嫌だと思ったのか、大丈夫ですか、と、タオルをとりながら顔を上げる。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!」

とたんにテンゾウは、声にならない声を上げで飛び上がるようにあとずさった。

「…な、なんだよ、び、びっくりするだろっ」

そういいつつ、脱衣所に入り、ふと、鏡を見る。

「…なっ………!!!」


そこに映っているのは、白い体に、縦横無尽に縄目のような紅い痕を走らせた、若い裸の青年……

「テっテ、テ、テンゾーーーー!!貴様、オレがオチてる間にどんな真似しやがったっ!!」

「ご、っ、誤解で……」

す、と最後まで言い終わらないうちに、つーーーと鼻から紅いものが筋になって垂れ落ちてくる。

「…げ…」
慌てて手で鼻を押さえた後輩は、真っ赤になって自分に詰め寄る、先輩の白い体から目が離せなくなっていた。

そして…

「…うっ、あ…!?」
「………!!!」

怒りにまかせて後輩をとっちめようとしたカカシは、踏み出した足の間に、後輩が「残したもの」がゆっくりと内腿を伝う感触にぎくりと立ち止まる。

つううーーーっと、それは白い跡を引いて膝裏にまでつたいおちていった。

「わ、わっ、馬鹿テン、見るなっ!!」

カカシが慌ててしゃがみ込んだ、その時…

「オマエっまたっ!!!」

後輩のチャクラが暴走し……


変化の発動による気の乱れが収まった後に立っていたのは。


◇◆◇



自分の体を抱きしめるようにその場にしゃがみ込んでしまった先輩を見た途端に、テンゾウはチャクラのコントロールを一気に失ってしまった。

わわわ、またもとの黙阿弥かっ!?

収縮しようとするチャクラを、限界まで集中して引き延ばす。
力いっぱい、膨張させ…





渦を巻いていたチャクラが収まったあと、テンゾウは視線が高くなっているのに気付いた。

…戻れた……!?か…?


左手で右肩を抱くようにしゃがみ込んでいたカカシが、心配気にこちらを見つめていた。


「先輩、戻れたみたいですよ…!」

そう言って手を伸ばすと…


「も、も、ももも…!」
「…桃…?ってなんですか…?」

真っ赤になって口をパクパクさせるだけのカカシが、目の前の鏡を震える指でさしている。

つられて振り向いたテンゾウは…

─え…????


そこでこちらをいぶかしげに見ている男。


歳のころは三十台半ば。

酸いも甘いもかみ分けた風情のある…

大人の…男だった。

「は、ははは……戻ったんじゃなくて…通り過ぎてますね…」
テンゾウにしてみれば笑うしかないところだったが…

カカシは真っ赤になったまま、動かない。
「お、お、お前っ!!」
「ああ、体が冷えますから、先に風呂、入りましょう、先輩…!」

そうして、今度は軽々とカカシを抱き上げた。

「ちょ、やめろって、テンゾウ、なにすんのよ、離しなさいってっ!」
「昼間はボクを抱えたじゃないですか、おあいこでしょう…!」
「そんなのおあいこじゃないでしょ、オレは自分で…」
「ああ、はいはい」
「ナニ、むかつく、その面倒臭そうな返事…!!」
「先に体、洗ってしまいましょう、先輩」
「…話を流すなっ!!ってか、明らかに今オマエ、オレより年上だろっ!!おっさんに先輩よばわりされたくないよっ!!」
「…十代の格好しててもおっさんっていったじゃないですか、今更ですよ…」

延々と続くかに見えた…はたから見れば痴話喧嘩は、カカシが浴室に連れ込まれ、いつもの方法でテンゾウに口をふさがれて、ようやく終わりを告げた。


その後暫く…

「年上の後輩」に付き合わされたカカシは、後輩は年下で、小さくてかわいい方がいい、と、しみじみと実感することになった。

勿論、年上になった後輩が、実に格好良かった、という事は、誰にも言わない、カカシの秘密である……





2010/01/18 update