先輩にお願い!―4―
「買い物をしてきてくれ!」
敬愛する先輩にそう言って渡されたMEMOに、ヤマトは首をかしげた。
「トイレットペーパー4つに…ハンガー10本…タマネギ4つにジャガイモ10個…釘にTシャツ……ってコレ何するんだろう…?」
買い物は、スーパー一軒で片付く品物ではなく、薬局やら、洋品店やらぐるぐる回らざるを得ず、結局二時間近くかかった。
任務が終わったばかりで疲れているのを知らないわけでもあるまいに、時々あの先輩の考えていることがわからなくなるヤマトは、ため息をついた。
―――――任務の最中は…すぐ傍らに寄り添っている、そんな充実感があるのに…
任務から離れると、とたんにカカシの存在自体も遠いものになるような…そんな気がする。
そんな事を考えていると、とたんに両手の荷物も重くなった気がした。
◇◆◇
扉の前でヤマトは途方に暮れた。
両手に山盛りの、脈絡のない荷物を抱えて、帰ってきたら部屋の中はもぬけの空だった。
どんなに気配を切ったとしても、里に居る限り、カカシの気配はわかる。
木の葉の家々は、今やほとんどがヤマトの木遁制。そのすべてがヤマトの感知センサーと言える。
だから里に居る限り、カカシを見失うことは無いのだが…
―――――先輩…何処に行ったんだろう…里に気配がない…
ため息をついてゆっくりと扉を開けた。
買い物の荷物を片付け、夕食の支度をし終えてもカカシは戻らなかった。
テーブルで二人分の夕食を並べて、することもなくなり、建築関係の本を広げる。
本に集中出来るはずもなく、あきらめて先にシャワーを使うことにする。
ぬれた頭をタオルでごしごしこすっていると奥の一室に「入るな」と、カカシの字で貼紙がしてあった。
「…?」
指を伸ばすと、びりっと雷遁の気配がある。
―――――封印までして、何やってんだあの人は…!
勿論この結界を自分が破れないとカカシが思っているわけではあるまい。単に、「入ってほしくない」という、明確な意思表示、と言うだけの話だ。
なんとなく、腹を立てる気力もなくなり、ビールを片手に寝室に向かった。
◇◆◇
カカシが戻ったのに気づいたのはすでに彼が家に入って来てからだった。
かなり酒を飲み過ごしたせいで、何時もなら里に入った時点で分かる気配にも気づけなかったようだ。
が、ヤマトは起きようとしなかった。
拗ねてるのか、自分は…?
大人げない、と思ったが…酔いがまわっているせいか、何もかもどうでもいい、といった厭世観にとらえられ…意識がしっかりと浮上しない。
見事なまでの穏行でカカシがヤマトのベッドに近づいてくる。
床に散乱するビールの空き缶を見て少し足を止め、ケリ転がさないようにそっとベッドをのぞき込んできた。
「…ヤマト……目は覚めてるんだろ…?それとも酔っ払って起きられないか…?」
いつになく低い声でそっと話しかけられたが、それでも目を開けられない。
拗ねているんじゃない、眠いだけだ、と自分にいいわけをしながら、ふ、と、カカシの気配が荒れているのに気づいた。
かすかに血のにおいもする。
―――――任務だったのか…!??
答えない自分にあきらめたのか、のぞき込んでいた体を起こそうとしたカカシの手を咄嗟につかんだ。
「…あ?」
暗闇の中、さらした右目を大きく見開いている。
指ぬきのグローブから唯一あらわな白い手首をしっかりと握りしめて、ゆっくり体を起こす。酔いはどこかに行ってしまったようだ。
埃にまみれた上忍ベスト。所々に黒く染みになっているのは返り血か。
「……仕事だったんですか…?」
アルコールの所為でかすれた声で聞くヤマトに、カカシが笑う気配がした。
「せっかくの日だったって言うのに…立て続けで任務を押しつけられてさ…」
せっかくの日って何だろうとヤマトが目を上げると、最初の任務はお前が受けちまうし…と、ベッドに腰を下ろしたカカシが肩をすくめた。
闇の中でもよく光る目で、カカシがこちらを見ていた。ちらり、と背後に視線が流れたのは、時計を確認したらしい。
「何とか今日中に帰ってこられたな。」
「今日中…?」
「…ま、なんだ。予定は狂うためにあるようなもんだ、と、今回は思い知ったよ。」
そう言いながらカカシの白い指が口布を下ろすのを、ヤマトはぼんやりと見つめていた。
細いあごと、薄い唇が、きれいだ、と、思っているヤマトに、ゆっくりとそれが近づいてきて…
「…んっ……!!?」
唇が重なり、舌が歯の裏までなめ上げて…カーテンを閉め忘れた窓から漏れる街頭の明かりに唾液にぬれた唇が光る…
イヤラシイ…、と思ったときにはカカシを体の下に巻き込んで組み伏せていた。
おいおい、と されるままのカカシがベッドについたテンゾウの腕の間から見上げ、誕生日オメデト、と笑った。
「……は…?」
「…やっぱり忘れてたか…」
そう言われてようやく10日…日付が代わる寸前…今日が自分の誕生日だと気づいた。
下ろしていた口布を上げると、するりとカカシが腕の中から逃れ出て、立ち上がった。
「サプライズってやつで祝ってやろうとしたらしっかりしくじっちゃったよ。」
「…なら…あの部屋も…?」
「…子供達と準備してたんだけどな〜、あいつらも仕事にかり出されてしまって。準備が済むまでお前に見せるなってさ。」
「…先輩は単独任務だったんですか…?」
「…あ…まぁ…なんだ。誕生日に立て続けに任務ってのも…なぁ…?」
…ボクとのツーマンセルだったのを……
―――――この人は…!
「さて、ちょっと、風呂に入ってくるよ。今日中に帰ろうと思って汗かいちまった。」
そう言ってヤマトの頭をぽんぽんとたたくと扉にむかう。
が、ヤマトはその手を再び掴んだ。
「誕生日を祝ってくれるんでしょう?なら…」
「…や、だから、風呂に…だな…」
「そのままでイイですよ」
「…な…!ちょ…待てよ、お前、自分だけ風呂に入ってさっぱりして、ずるいぞ…!」
「…先輩、今日は僕の誕生日なんですから…誕生日くらい言うことを聞いて下さいよ」
「…おま…」
不思議に言葉がとまらず、今まで、飲み込んでしまっていた言葉が、するすると出てくる。
「何時も先輩の言うことをちゃんと聞いているんですから、今日くらいはイイじゃないですか」
「…何がいいんだ、汗臭いから風呂に入らせろって言ってるだけだろ?ヤらないって言ってないじゃいのよ」
「そのまんまがいいです、汗かいてるカカシさんとヤりたいんです…!」
「…このっ…ヘンタイっ!!…ってかベッドが汚れる、泥だらけだぞ、オレ!!」
「シーツを洗うの何時もボクでしょう、もう、ヘンタイでいいですから!」
いつまでもぐだぐだと抵抗するカカシのベストの前を開き、裾から手を入れる。
じゃらり、と鎖帷子が音を立てた。
◇◆◇
「あぅ、あ、ちょ、まて、まてって、きたないって…!」
「……」
「な、ヤマト、ふ、風呂…風呂入ってから……ひぅっ!!」
未練がましい抗議も聞こえないかのように、ヤマトはカカシに夢中だった。
耳元でどんどんという血流が聞こえる。興奮も最高潮だ。
汗と埃にまみれたカカシの体は、本人が気にしているようにキタナイとはヤマトは思わない。
自分の為に、一人で任務にいってくれた。こっそり驚かせようとしてくれた。それは、ヤマトにとってどれだけ尊い事であるか…。いつも体臭の薄いカカシの汗のにおいは、興奮をあおる材料でしかない。
両腕で顔を隠してしまっているカカシの足に絡まるトラウザーズを下着ごと引き抜くと、ヤマトは満足げに白い体を見下ろした。
任務中、水を浴びるとき、子供達と風呂場に行くとき。
全裸のカカシを目にするのが初めてというわけでもないのに、体をかわす時にカカシは服を脱ぎたがらない。
理由が分からずずっとヤマトは不安だった。
こういう関係を自分と交わすことに抵抗があるのだろうかと。
けれども。
鎖骨の辺りまで薄紅に染まっているカカシを見れば、理由など…鈍いヤマトにも分かる。
と、すれば……
無骨な後輩の指が、きれいに浮いた胸筋の飾りに伸ばされた。
「…っ、ちょっと、よせ、さわんないでって…!」
慌てて体を起こそうとするのを押さえつけると、犬歯でキツく咥える。
「あっ あっ あっ」
そのまま吸い上げてやれば、鋭く息をのんでしなやかにのけぞった。
ヤマトの堅い腹筋に、カカシの股間のものが、一気に立ち上がってくる。
………やっぱり……!
「先輩…乳首いじられるの好きなんですね…?何でいやがってたんですか…?今まで?」
「ばっ…!お前、好きとか…そんな…っう…!」
「ねぇ、先輩、なんでいやがるんですか、気持ちいいことをしてあげようとしてたのに…?」
そう言いながらぺろっとなめあげると、また息を詰める。
あごのラインとか、唾液を飲み込む度に上下する喉仏とか、普段目にしないところをさらすカカシがとても新鮮だった。
本人も飄々とした仮面をかぶりきれず、戸惑ったり焦ったりするのがダイレクトに伝わってくる。
両腕で顔を覆っていても、かすかに開いた口元や、赤く染まった耳元が、上から覆い被さるヤマトの、鍛えた視力にはあからさまで、自分の施す愛撫に、すぐに反応するカカシに、ヤマト自身もあおられてしまう。
―――――ヤバイ…今日の先輩…スゴい可愛いく見える…自分より体もでかくて年上の男なのに…
「…先輩…可愛すぎ……」
る、と言い終わらない内に、速攻で拳が飛んできた。手のひらで受け止めて、頭の上に両手をそのままつなぎ止める。
色違いのオッドアイににらみ上げられてももう、すくみ上がったりしない。
なんて…わかりやすい人なんだ…!こんなに…わかりやすいのに…ボクは今まで何処を見てたんだろう…
「―――――先輩…口布…いつもヤるときにとらないのって…」
恥ずかしいからですか?赤い耳たぶに歯を立てながら聞いてみる。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!やるんなら集中してやれっ!このエロテンっ!!!!何の羞恥プレイだっ!!」
語るに落ちる…とはこのことを言うのか、真っ赤になったままで怒鳴っても肯定しているのと大差はない。
「……羞恥プレイ…イイですね…!!先輩、お願いがあります…」
「……!!!!」
しまった、スイッチを入れてしまった、とカカシが反省してももう遅い。
「イイですよね、誕生日ですし。一年に一回だけの…お願いです…先輩…!」
何をやらされるのかと警戒心に全身の毛を逆立てた猫のようになっている大事な先輩の耳元に、ヤマトはそっと口を近づけた。
「…先輩にお願いです……聞いてくれますよね…?」
◇◆◇
「まあ兎に角できすぎな後輩の一日遅れの誕生日を祝って…乾杯!」
「かんぱ〜〜〜い!!!」
月杯の奥の間を借り切って、木の葉の上忍や特別上忍立ちがヤマトを肴に酒を交わしている。流石に誕生日の本人にたかることも無いだろう。
「で、結局、カカシは間に合ったの…あんたの誕生日?」
子供が出来てますます色っぽくなった紅上忍が酔いに任せて体を寄せて聞いてきた。ヤマトは笑いながら空になった杯を満たしてやる。
「はい、何も知らなかったんで、ビールを飲んでふて寝してたら、ぎりぎり間に合って下さいました。」
「ふ〜〜ん」
意味深な紅の視線も何処吹く風、にこにことつまみをつつくヤマトに、マイト・ガイが濃い顔を突きつけながら、
「それで我が永遠のライバルからの誕生祝いは何だったんだ?ヤマトよ!」
そう聞かれたヤマトは、答えようとして、辺りの連中が聞き耳を立てているのに気づいた。
確かにはたけカカシという男は任務中はいざ知らず、普段は究極のめんどうくさがりだ。その彼が、人の誕生日を祝うなどと言うのはにわかに信じられなかったらしい。
だが、夕日紅上忍…カカシと親しい…が、任務中、サポートにはいった紅に、カカシ本人がヤマトの誕生日中に帰りたいから急いでいる、と言ったそうだ、…と、ぽろっと漏らしたとたんに…
―――――このざまか…
辺りで、「さりげなさ」、を装う余裕もなく、「カカシからのプレゼント」に食いついている里の第一戦力の上忍達…
………この人達はどれだけカカシ先輩が好きなんだ…
「……いっぱい聞かれても…プライベートなことですし…」
思わせぶりにそう視線を落とすヤマトに、斜め前に座っていたゲンマが答えるよりも早く、熱血男が叫んでいた。
「一つ答えてくれればいいんだともっ!!!カカシの奴から何をもらったんだお前はぁ!!!!」
取り繕いもせず、全員がこちらを見ている。
ヤマトはため息を押し隠して答えた。
「去年もらったのと同じのを頂きましたよ。」
勿論、なんだそりゃ、という怒号が飛び交ったのは言うまでもない。
「それじゃワカランじゃないかッ!!!去年は何を貰っとるんだお前はっ!!」
「…ガイさん、質問は一つって言ったじゃないですか、ボクはちゃんと答えましたよ。」
それじゃ、カカシさんが待ってるんで。
そう言ってさっさと瞬身で消えた律儀者の後輩の後には、自分の分の飲み代の金がひらひらと舞っていた…
「ガイ、このばかっ!!あんな聞き方であの瓢箪鯰二号が口を割るわけ無いでしょ〜〜〜〜!!」
「…まあ、ゲンマに質問を任せるべきだったかもな…」
「ガイさん…もう せっかくのチャンスだったのに…」
あちこちから攻められた燃える男は、しかしいっこうにヘコむ様子はなく、
「それなら本人に聞くまでだぁ!!!」
力こぶを握ったのであった。
◇◆◇
何…お前…もう帰ってきたの…?誕生祝い飲み会だったんじゃないの?
誕生日の野郎を肴に飲もう会ですよ。根掘り葉掘り聞かれるので逃げてきました。
…聞かない方がいいかな、とは思うけど、一応聞いておく………
みんなに何を聞かれた…?
カカシさんがくれた誕生日祝い……について。
!!!!!!!!!
大丈夫ですよ、言うわけ無いじゃないですか…
……当たり前だ……もう二度とごめんだあんな……
「大丈夫ですって。あそこにいる皆さん、約束はきちんと守る方々ばかりですから。」
しかし、二人とも忘れていたのだ。
熱血青春激眉上忍の…情熱を。
「カカシィイイイイイイ!後輩にやった誕生祝いってなんだぁあああああああああ」
end
蛇足
カカシのお祝い…は 「世界は願うより美しいから」をご覧いただけると…わかるかも…(笑)去年のテン誕話です(笑)
Update 2010/08/31
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