先輩にお願い!―1―




―――――ね…先輩…苦しくないですか…?口布したままで…?


ゆっくりと揺すり上げながら、かすかに眉をひそめる顔を覗いてそう聞いてみた。

「…ま…慣れてるから…ね」

さすがにかすかに息は乱れているが、それは口布の所為ではなく。





ヤマトが、抱えているカカシの足に絡まるトラウザースを引き抜こうとすると、なにすんのよ、といやがられ、袖無しのアンダーをたくし上げ、乳首に手を伸ばすと払われてしまう。

男の乳首いじっておもしろいか?とまじめな顔をして聞かれると、先輩のだったら、とも答えられず、かといって頷くのも納得できずに黙るしかない。


つながる部分だけをあらわにした、即物的な行為……

それはカカシの、行為への抵抗感を表しているようで、いつもヤマトは寂しい、とも、悲しい、ともつかない感情におそわれるのだった。


いつの間に自分はこんなに贅沢になったのだろう。
この人と、体を交えていながら、まだ、更にこの人に何を求めようというのか。


…っ

体の下で小さく息を詰めたカカシに気づいたヤマトは、追い上げるように腰を打ち付け、カカシが達するのを促した。

ん、んっと、かすれた声を上げ、二人の間に熱が散る。

カカシが達したのを確認すると、ヤマトはそっと体を離す。

汚れたところをタオルでぬぐわれる間、無言のカカシは、タオルを洗い場に片付けてきたヤマトが戻る頃にはこちらに背を向けてしまっていた。
静かに傍らに潜り込み、後ろからためらいがちにそっと抱えてみる。

「ん…」

ため息のような声が聞こえ、拒まれない事にほっと気を抜いたヤマトは、ようやく安心して眠りについたのだった。





◇◆◇



翌日、シズネに内々で呼び出されたカカシとヤマトは、珍しく深刻な表情の医療忍者に、意外な相談ごとを持ちかけられた。







「いかさまのターゲット…ですか?綱手様が…?」

無言のままのカカシに代わって、ヤマトはためらいがちに問いただした。誰か冗談だと言ってくれ…

その願いもむなしく、シズネは重々しく頷く。

「初代様の遺品を質に入れているのを見たときは心臓が止まりそうになりました。」

それを聞いた二人の元暗部もさすがにぎょっとした顔になった。

「よく…気がつきましたね。」

あきれたようなカカシの声に、シズネもため息をつく。

「行きつけの質屋の親父さんが、品物を見てびっくりしてこちらにすっ飛んできてくれたんです…あれはあくまでも綱手さまの私物なんですが…」

このような物を質草にするのは、よほど木の葉の財政状況が悪いのでしょうか、それなら税をお上げになっても我々は協力いたします…

と、質屋の親父にいわれたシズネは頭を抱えた。

聞いていた二人もため息をかみ殺した。
確かにここのところ、五代目には心労をかけてきているし、ちょっとした息抜きの賭博なら大目に見ないでもないのだが、元来、裕福なはずの綱手が、質に通うとは尋常ではない。
それなりの場数も踏んでいて、決して強くはないが、大負けするほどの素人でもないのだ。

「それで、調べたんですね。」

カカシがようやくがっくりとうなだれていた顔を上げた。

「……証拠は挙がってるんですか?」


シズネは黙って首を振る。


「綱手様に知られないように調べられなくて。ワタシが動くと筒抜けになるので…」

自分の片手のシズネの動向など、当然、把握しているだろう。よく、博打場通いを掴んだものだ。
何とか、本人に知られないうちに、カタをつけたいし、不届きな輩を成敗もしたい、と言うのがシズネの用件だったのだが、綱手の博打好きに散々つきあわされ賭け事のネタにまでされて閉口していたカカシは、眉間に皺を寄せたまま黙り込んでしまった。
カカシの沈黙の理由も理解しているシズネは、そこを何とか、と、説得しようとした、その時。

「不届きですねっ!!」

拳を握って宣言するヤマトに思わず振り返った。

「いえ、でもね、テンゾウくん、綱手様は…」

綱手の賭け事を非難されたと思ったシズネがいいわけをしようとしていると、

「ペインに里が壊滅状態になったときに、綱手様に散々庇っていただいておきながら、カモにするとはっ!!恩知らずにもほどがあるっ!!!」


……非難の対象はやくざ者の方なのね…



カカシとシズネは思わず顔を見合わせた。



「先輩っ!! 綱手様、誕生日のお祝いもなにもなかったのに、博打でカモられているなんてあんまりじゃありませんか!! 何とかしましょうっ!!」

「あっ…そういえば2日は綱手様の…テンゾウくん、よく…」

知っていた、と言いかけたシズネは、カカシが眉間を白い指先で揉んでいるのに気づき、成り行きにほっと肩の力を抜いた。

不承知なカカシを説得するのは至難の業なのだが、なぜかこの上忍師は後輩に甘いところがある。
後輩本人は気づいていないようだが、カカシが他者には決して許さない距離までこの苦労人の後輩に踏み込ませているのをシズネは知っていた。なので、今回、その後輩がここまでやる気になっているのなら、カカシも…

「……またそうやってお前、オレの仕事を増やす気か!……」
「仕事ってなんですか仕事って…!仕事ではありませんよ!」
「なら何なのよ」
「恩返しですよ!ご苦労なさった綱手様への…!」
「……ナニッ 恩返しって、それって無報酬ってことっ!?」
「当たり前ですよ!!」


言い合いながら部屋を出て行く二人に、シズネは心の中でそっと手を合わせた。





続く



Update 2010/08/10