世界は願うよりうつくしいから
前篇
こいつの根性にはさすがの俺も脱帽だ……
◇◆◇
任務の最中…
俺がありえないことに…感情的になってしまって…
マジでこいつを蹴り飛ばしてしまった。
こいつじゃなかったら、脛骨を蹴り砕いていただろう。
両腕でブロックした、その両腕を…
見事に折ってしまった。
剥離骨折に亀裂骨折。
ぽっきり折れたわけじゃないが、治りは…はっきり言ってこっちの方が時間がかかる。
ところが信じられないことに、こいつときたら、その折れた腕で俺を抱え上げて閨にしけこむわ、あーんなことや、こーんなことをやりたい放題で…
俺は珍しく…任務の途中に盛られて、オチる、という、二度とはしたくない経験をした。
眼を覚ました時、こいつの、極楽往生でもしたのか、というような笑顔が覗き込んでいて…
……それなりに、その…なんだ……こいつがそんなに嬉しかったのなら…まあ、いいか…と…思った………
◇◆◇
殺人的にまで朝の苦手なカカシは、まだ半覚醒で、ぼんやりと枕に頬をうめたまま眼をあけた。
なんだかいいにおいがする。
……味噌汁は茄子がいいな…
などと考えていて、慌てて起き上がった。
彼の家で朝からこんな食欲を刺激する匂いがするとすれば…
「何やってんだ、テンゾウ、おま…」
キッチンに駆け込むと、湯気のたつ鍋の横に、メモがおいてある。
─木遁にお呼びがかかりました。一両日中に終わると思います。朝、ちゃんと食べてくださいね。
つまりは、骨折が治らないうちから、木遁を必要とする任務にかりだされた、というわけだ。
綱手様は何考えてんだ、怪我人にっ!と怒っても、そもそもテンゾウが怪我をするような任務ではなかったのに怪我をしてしまったのは自分が癇癪を起したからで、文句はこの際自分に言うしかない。
自分の事には無頓着なカカシだったが、テンゾウの怪我は気にかかる。
自分のせいであればなおさら。
こっそりと任務の動静を調べようと、カカシは大急ぎで着替え始めた。
…朝が苦手なこともすっかり忘れてしまったように、慌ててアンダーを着替え…
「って、グローブが片方どこいった…!?っ、探してる暇ない…!!」
そのまま火影屋敷へと駈け出して行った。
◇◆◇
─勘弁してほしいなあ…
あくまでも、木遁が必要とされる時だけのオブザーバーとしての任務だったはずなのに、あろうことかメインメンバー唯一の特別上忍は、特別上忍に指名されて初めての任務、後は若い中忍たちばかり。
日頃は大蛇丸の実験体、と、彼を胡乱な眼で見ているくせに、何らかの判断が必要になると、必ずちらちらと彼の顔色をうかがう。
勿論、班員の中ではテンゾウは若い中忍たちの中でもまだ若い部類に入ってしまうのだが、経験は…
メンバー全員の任務の履歴すべてを足してもまだ多い。
というより、彼らは、AランクSランクの経験すらない……
─自分の命がかかってるんだから、自分で判断しないと…
いつものテンゾウなら、あきらめて、「僭越ですが、自分の判断に任せていただいてもよろしいですか」、と指揮権を移動させただろう。
しかし、今は両腕を骨折して治りかけなのだ。いつもの様にはいかない。
自分一人なら、どんな戦場からも生き延びる十分な自信はあるが、
─班員全員を守る、となると。
命がけになる。
テンゾウは心の中で苦笑した。
以前の自分なら、命がけを厭うことはなかった。
しかし。
こんな任務で命をかけたくないな。待っていてくれる人がいるんだし。
難易度が高い任務ではない。普通に取り組めば…。
僕に依存していると、判断が遅れてそれが命取りになる…
いちいち最後尾を走るテンゾウを振り返って自分の下した命令が間違っていないか確かめているようではおそいのだ。
木遁が必要な場面はもう済んでいる。
ボクがいない方が緊張感が生まれていいだろう。
「班長。」
別行動を取るべく、テンゾウは新米特上に声をかけた。
◇◆◇
………山火事後のケアか…
それなら木遁が手っ取り早い、が、なんなんだ、この範囲。これだけ木遁でカバーするとなると、かなりチャクラの消費が激しいぞ……
極秘書類のはずのそれを簡単に覗いていたカカシは、テンゾウが配されたチームメンバーをみて、またため息をついた。
……綱手様…テンゾウをお目付け役兼任でつけたな…
面倒見のいいあの後輩なら、メンバー全員を無事に連れ帰ってくれるだろう、との目算である。
勿論、綱手はテンゾウの怪我を知らない。知っていればそんなことはしないはずだ。
そこがカカシを心配させた。
誰かを庇って無茶しないとも限らないと、ここはカカシも後輩の性格を把握している。
考え事をしながらペラペラと書類をめくっていたカカシは、テンゾウのプロフィールの部分を見るともなしに…あの後輩の戦歴はほとんど知っていたので…流し読みしていて、ある一点をみてぎょっと眼をみはった。
─生年月日……××年八月十日
……八月十日って……今日じゃないのよ!!
◇◆◇
カカシも、異性とそう言った付き合いをしたことがないわけではない。
なので、彼女たちが、一様にその手のイベントに神経質だという事は身にしみて経験している。
初めてデートした日だとかなんだとか…、スルーするととたんに機嫌が悪くなり、誕生日を忘れた日には……えらいことだ。
ところが、あの後輩とこういう関係になって以来、同じ男同士、記念日とかにはまるきり興味関心がなかった。
…そういえば、去年はどうしてた…?
考えてみると、お互い、小隊を率いる立場になると、そろって誕生日などに里にいられたためしがない。
それでも、カカシの誕生日にカカシが里にいる時などは、任地から式が小さなメッセージをもって来たりしていた…。
カカシは、マメだな、あいつも、とくすぐったい思いをし、…自分も、あいつの誕生日には何かしてやるか、と、毎年考えて…すっかりそのままだ。
なんだ、俺、あいつの誕生日知らなかったんじゃないの!!!
今更ながら、自分ののんびり加減にびっくりだ。
確かにここ数年、めまぐるしく情勢は動き、誕生祝いどころの話ではなかったが。
しかし、テンゾウはそぶりも見せなかったし…第一、覚えているかどうかも怪しいものだ。
…それなら、今日帰ってきたら…
大仰なものは嫌がるだろう。
風呂を沸かして、食事の支度をして。
おかえり、と、迎えてやろう。
─お風呂と夕飯どっちにする?それとも……
新婚夫婦を揶揄したそんなベタな科白を思い起こし、カカシは思わず赤面してバタバタと顔を扇いだ。
ないないないっ!!そんな恥ずかしい真似絶対なしっ!!
………もちろん……あの後輩は大喜びするだろうが。
◇◆◇
綱手は任務報告に帰還した小隊の中に、テンゾウの姿がないのを不審に思って班長に尋ねたが、途中で別れた、と心もとない返事だった。
仔細を問いただそうとした時、その場に、次回の任務の打ち合わせにいたカカシが、珍しく、抑揚のない、低い声で割って入った。
「それで別行動を許したんですか、アンタ。」
「…え……」
写輪眼のカカシに追及されて新米特別上忍は固まった。
「班長の判断でなしに、別行動。その理由や帰還日時の確認もせずに、許可してるんですか、アンタ。」
言われてみればその通りなのだが、相手は木遁のテンゾウ、カカシに並ぶ辣腕の上忍だ。
別行動をとる、と言われてなぜだ、いつ帰る、とは聞きにくい。何か別の任務があるのかもしれない、と、見送った新米班長は、何故カカシに糾弾されているのか今一つ分かっていなかった。
「そのくらいにしておけカカシ。テンゾウに何かあるはずなかろう。」
「……あいつ、いま骨折してるんですよ」
「………なんだと……!!」
その場にいたもの、全員が息をのむ。
あの寡黙な上忍の動きは怪我をしている者のそれではなかったからだ。
「五代目。ちょっと迎えに行ってきます。」
止める間もなくそう言って瞬身で消えたカカシを、綱手は舌うちでみおくるしかなかった。
続く
Update 2009.08.10
あとがき
あははは…
やっぱり終わりませんでした……il||li _| ̄|○ il||li
あきらめてひとまず切りのいいところでUPしました……orz
でも隊長は優しいから後編がずれてもおおめにみてくれるでしょう………ご…ごめ……(汗)
いろいろ、あいたた、な、内容ですが、後編では隊長にサービスするつもりです……(笑)
きっつい更新状態だったのをいいわけにしてます、生温い目で…片目でみてやってください〜〜(泣)
お題は
ISさまからお借りしました。
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