後輩のお仕事〜後編〜
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驚いたことに、カカシの班にもアスマの班にも戦死者は一人も出なかった。
引き揚げるぞ、と、合図を送り、半ば呆然としている、作戦のある意味「失敗」の原因になった中忍たちの頬を張り飛ばして、アスマは喝を入れた。
「どこまで班長の足をひっぱりゃ気が済むんだ、貴様らは。もう何もせんでいいから生きて帰ることだけを考えてろ!」
「で、でも、猿飛上忍…はたけ上忍が…」
言われるまでもなく、カカシのチャクラがもうほとんど残っていないのはアスマも気づいていた。
「無茶しやがって…」
「あーしょうがないね、先行って…」
「本気か…?」
「…うん、ちょっと休んでいく…」
傍目にはすべてをあきらめたように見える言動だったが、アスマには、カカシに何か算段があるらしいのに気づいた。
─あの小僧…か…?
アスマはもちろん、テンゾウがカカシに何か飲ませたのを覚えている…
しかし、ここでそれが何の役に立つのか想像がつかない。
その時、必死で食い下がったのはカカシにチャクラを使い果たさせる原因になった中忍たちだった。
「猿飛上忍…!班長は俺達で運びます!おいてったりしないでください…!」
「馬鹿なことをいってねーで、おめぇらは自分のことだけを考えてろ!」
「そんなわけにいきません…!」
「俺たちゃ、カカシさんを置いてくのなら、ここを動きません…!!」
「…上官命令でもか…?」
「………!!」
「………!!」
中忍たちは息をのんだが、必死の形相で…言い募った。
「お、俺たちは、カカシさんの冷たい体を探しに戻るのは絶対いやです…!」
「こ、ここで、カカシさんの楯にでもなって、時間を稼ぎます!」
おめぇらでは時間稼ぎにもならねぇよ、という無情な言葉を飲み込んで、アスマはカカシの方を見やった。
こいつらはこいつらで、的外れの能無しだが、カカシを慕っているのは間違いがないのだ。
碌な戦闘経験も命のやり取りもない者が、自分の命を盾にする、と、言い出すのには、それなりの覚悟が必要なのは、アスマにも、カカシにも、もちろんわかっていた。
結局、カカシが折れた。
動きの鈍くなった体を、ゆっくり起こし、かがんだ男の首に手を回す。
と、
「お前、後ろに回れよ。班長は俺が運ぶ。お前じゃ体力がもたねぇだろうが!」
中忍の一人が仲間にそんなことを言い出した。
「馬鹿言うな!身長が近い方がカカシさんが楽だ!」
「俺なら抱えられる!」
「そ、それならおれだって、カカシさんはかるいんだから…!」
呆然とするカカシの前で、中忍たちが争い始めた。
アスマは苦虫をかみつぶしたような顔でそれを見ていた。
『…アイドルはつれぇな、おい…!』
半分やけで、中忍たちには聞こえない声でそういうと、
『うるさいよ。やっぱり残るっていってやろうか 馬鹿どもが!』
そうこうしているうちにも時間がたっていく。
埒が明かない、と思ったアスマは、ため息をつきながらもたれていた大木の幹から身を起こした。
自分が殿をつとめて部隊を退却させるため、カカシを担いでいては、任務に支障をきたす、と黙っていたのだが、こいつらがカカシを連れていくよりよっぽどましだろう…。
アスマがカカシのそばに寄る前に、中忍の中で最も大柄な男が、仲間を出し抜くように強引にカカシの腕をとって、背に担ごうとした。
無意識にカカシが緊張し、ふっと殺気となって体をおおう。
─駄目だな、こいつらじゃ…カカシが緊張しちまって、里に就くまでもたねぇぞ…
強引に抱えようとした大柄な中忍を、アスマが止めようとした、その時。
あたりの空気を裂くような鋭い音がいくつも重なった。
瞬間、アスマはチャクラ刀をかまえ、中忍たちは何が起こったか分からずきょろきょろし…
カカシだけは、掴まれた腕を離そうとのんびり抗っていた。
ぴしり、と、とがった音がして、カカシの体を無数の蔦がからめとった。
「ひぃっ!!!」
カカシを抱えようとしていた大柄な中忍は意味不明な声をあげて腰を抜かし、囲んでいた中忍たちもてんでバラバラにとびずさった。
が…
蔦にからめとられた当の本人は、ふ、と、体の力を抜いていた。
アスマもその蔦の纏うチャクラを見、チャクラ刀をしまう。
─やっぱり…来たか…
4★
その蔦はカカシをからめとったまま、ごく無造作に宙に釣り上げていく。
「ちょーーーっと、丁寧に扱えよ、こらっ!」
慌て騒ぐ中忍たちをよそに、釣り上げられていくカカシは、のんびりとそんな文句をいっていた。
蔦が大枝の上に立つ暗部の方にカカシを運んで行く。
「あ、あのやろう…!!」
中忍たちは敬語を使うのも忘れ、カカシをさらっていったその若い暗部を指差していた。
「な、な、なにしやがるんだ、貴様…!!」
わめく中忍たちに目もくれず、テンゾウは…もちろん、その若い暗部は木遁使いの若者だった…アスマに向かって簡単に言ってのけた。
「お待たせしました。さあ、退却しましょうか…!カカシ先輩が心配ですので、先に失礼します!猿飛先輩、殿、お任せしても…?」
「殿は最初からそのつもりだったからかまわねぇが…」
アスマはそういいながら、テンゾウのたつ大枝に飛びあがった。
「そっちは任務、どうした…?」
尋ねながら、カカシの様子を見たアスマは、カカシがすでにテンゾウの腕の中で気を失っているのに気づいた。
「…おい…!」
「大丈夫です…でも、里まで持たないかもしれないので、ボクのチャクラ、わけますから…」
「……そんなことができるのか…?」
「…木遁の…応用ですよ…植物ってのは恐ろしく融通がきくんです。本来、他人のチャクラはなじまないもんなんですが、木は接ぎ木、できるでしょう?ボクのチャクラは一時しのぎくらいにはなるんですよ…」
そう説明している間に、カカシが楽なように抱えなおしたテンゾウは、面を外し、貌を抱え寄せる。
怒髪天をつく勢いで、大枝に中忍たちが上ってきたのはその時で、彼らが見たのは、目の敵にしていた若造が、憧れの上忍の口布を外し、あろうことか、堂々と…アスマの見ている前で、唇を重ねている場面だった………
「な、な、!!カカシさんが動けないのをいいことになにしやがるんだ!!!!」
アスマが止める間もなく、口々に叫んでテンゾウに殴りかかろうとした中忍たちは、足元から伸びた蔦に瞬時に拘束されていた。
「え、…あ…?ええええ???」
簡単に拘束されてしまった中忍たちは、侮っていた若造が、崇拝する上忍を抱きかかえて口づけするシーンを延々と見せつけられることになった……
─……こいつ、根に持つやつだったんだな………
しばらくして、カカシがうっすらと目を開けた。
「……テンゾウ…」
そう言って、若者の腕の中からその貌を見上げたカカシの…その表情を、アスマは後々まで忘れられなかった。
─なんだ、おめぇ…テンゾウ…背中にかばえなくても…腕の中にかばいこめてるんじゃねぇかよ…
人に触られるのが苦手なこいつが誰かの腕の中でこんなに気を緩めるのを初めてみたぜ……
投げ出されていたカカシの腕がゆっくりとテンゾウの首にからむ。
「帰りましょう…先輩…お疲れさまでした…!」
「おまえ…任務は…?」
「木遁の必要なところだけ、ちゃっちゃと済ませて、木分身に任せてきました!」
─をいをいをい…木分身をよこすのはこっちじゃないのか…?本体がこっちきてるのかよ…?
そのアスマの心の声が聞こえたわけではあるまいが、テンゾウがカカシを抱いて立ち上がりながら大きな上忍を振り返った。
「その連中を連れていったと聞いたんで、どうせこんな事だろうと…本体じゃないと、ボクでもチャクラの移行はできませんから。どうせその人たちをかばってチャクラ、つかいはたしたんでしょ、先輩は…?」
蔦でぐるぐる巻きになっている中忍たちは反論ができない。
「…よくわかるな…」
「…分かりますよ。この手の任務にこんな素人をつける事務官も、自分の実力のほどもわきまえずに先輩に迷惑をかける役立たずも、いやになるほどあふれていますからね。里には。」
「………!」
「猿飛先輩の前ですが…。三代目はお優しすぎる。この連中を庇ってカカシ先輩が命を落としたらどうするつもりなんですか。」
「……テンゾウ…」
腕の中からカカシが静かにたしなめる。だが、若者はやめなかった。自分のことなら、何事も我慢できる…しかし…
「事務官の面目やこの連中のプライドも大切かもしれませんが、引き換えにするものが大きすぎやしませんか。」
まっすぐに見つめられて、アスマは何も言えなかった。
実際…アスマ自身も歯がゆい思いをしていたからだ。現実問題として、うちはの一族の不穏な動きを問題視する一派を、父は扱いかねている節があった。
火影として、どちらかを選ばざるを得なくなった時、おやじはどうする気だろうか…
束の間のもの想いを破ったのは、蔦にからめとられた中忍たちであった。
「俺たちが足手まといであると思うのならここで殺していけばいいだろうが!!」
強がりかもしれなかったが、ここまで拘束されたまま言い切ったのはいっそあっぱれだ、と、アスマは思ったが…
彼らを拘束している若者にはそれは通用しなかった。
「そうですね……植物に含まれるアルカロイド系の毒物には、脳神経に作用して、幻覚を見せ、バーサーカー状態にするものがあるんですよ。ここでそれを君たちに使えば、囮くらいにはなるかもしれないし、先輩を連れて引き上げやすくなって、猿飛先輩に危ない殿をさせることもないですね…?」
「………」
「ただ単に、殺すなんて、暗部はそんな無駄なことはしませんよ。ああ、あなたたちは暗部の任務ははじめてでしたっけ…?」
恫喝するテンゾウの腕の中で、カカシは何かいいたそうだったが、どうやら口をきく体力も、もうないらしかった。
今は、中忍にさえ感じられるレベルの殺気を放ち、あたりの木々さえざわつかせているテンゾウの怒りにようやく気付いた男たちは、唇をかんでうつむいた。
「も…もうしわけ…なく…」
かすかに声をもらす。
「はたけ上忍に…助けていただいた命です…から、なに、とぞ…」
見下していた相手に許しを請うことはかなりの気力を要することだったが、どう考えても、そういう他、生きて戻れる方法は考え付かなかった。
『恐怖による支配も、こういった連中にはたまには…必要ですよね…猿飛先輩…?』
無表情のまま、暗部の言葉で語りかける後輩に、アスマは…
呆れてものも言えなかった………
★
カカシが木の葉病院を退院したと聞いたのはそれからしばらくのことだった。
無表情に三代目に抗議しに来た最年少の暗部を持て余した上層部は、事務官の更迭と、暗部の班構成は、班長に一任するむねの念書を、その若者に与えざるをえなかった。
カカシに並んで唯一の木遁使い、下手をして里抜けでもされてはかなわない、と思ったのかもしれない。
アスマはただ肩をすくめただけで何もコメントしなかったが。
退院の知らせを聞いて、カカシを肴にあの食えない後輩も誘い、飲みにでも行くか、と、上忍宿舎に向かったアスマは、後輩を抱えて走りまわる同僚を見て立ちすくんだ……
「……おめぇら……何やってんだ………」
「あっ!アスマ先輩、たすけてくださいいいいいいい!!」
「ああ、アスマ、証人になってよ!」
「……なんだって……?証人ってなんの…?」
「俺のことを『姫』なんて呼びやがるやつがいたからつるしあげたら、この前の任務で俺がこいつに姫抱きされたからだってぬかしやがるからさ、俺だってこいつを姫抱き出来ることを証明しないと気が済まないんだよ!!ったく、誰が姫なんだよ誰が!!」
「…だから、先輩、ボクのせいじゃないですよ、下ろしてください、怖いです……」
「…何が怖いんだよ、落としたりしないって!!ほーーーーらーーーー」
「うわあああああああ!!やーーーめーーーてーーーくださいいいいいい」
だんだん遠くなっていくしたたかな後輩の悲鳴を聞きながら、アスマは、
─姫…っていうより、じゃじゃ馬だよな…
と、つぶやきながら、ぷかり、と煙を吐き出した。
カカシの前ではあのしたたかな後輩が、ただのモノなれない小僧っ子になってしまってるのを面白い、と思いながら…
end
Update 2009.06.07
あとがき
お、わ、り、ました〜〜(〃ω〃)
カカシ先生の帰還…祭り、ひとまず完了…(*^_^*)
でも嬉しい気持ちは引き続き…(笑)
なのでもっと頑張りたいですね〜〜気力充実…!!
前篇は、一話と二話を、後編は三話と四話をまとめました。
お楽しみいただけたら幸いです(#^.^#)
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