A little little Lover -2-



この人はいったい、自覚があるんだろうか。


丼の大きさになってしまっているいつもの茶碗を抱え込み、顔を突っ込むようにして飯をかき込み始めたテンゾウは…いつもはこんな食べ方は決してしない…、小さくなってしまった自分がよっぽどツボにはまってしまったらしい相手がいつまでもクスクス笑いをやめないのにいささか腐っていた。

半分は照れくさいのと情けないのと。

けれども口布をしているときは、結構ニコニコしているようなイメージのあるこの人は、実はそんなにげらげら笑う人間ではない事をテンゾウは知っている。

相手の感情を優しく落ち着かせるために、一つだけ出した瞳を和ませ、つまりはそれかこの人の「笑顔」なんだが。

素顔を見たことのある人間がどれだけいるか知らないが、こんな風に素顔のままで笑っていることなど、ごく珍しいことで、テンゾウさえそんなにお目にかかったりしないのだ。


みっともない自分を相手に晒すのはこの上ない苦痛ではあるが…

─先輩のこんな顔が見られるのなら…まあ、いいか。

丼の(ような茶碗の陰から)ちらちら相手の笑顔を盗み見ていた小さなテンゾウだったが、中身が空っぽになってしまってはいつまでも抱え込んでいられない。
あきらめて茶碗をテーブルに戻した。

と。


手甲を外した白い手がテンゾウの方に伸びてくる。

目線の位置が違うせいか、ちょっと呆然とカカシの顔を見ていたテンゾウは、カカシのまつ毛が…まつ毛までも、銀色なことに気付いた。

こんなとこまで綺麗なんだ…

先細りの長い指がぼんやりと動かないテンゾウの頬で何かをつまむしぐさをして離れていく。

テンゾウは固まっていた。

色の薄い口元に指先がもどり、赤い舌先が伸びで、ぺろり、と自分の指を舐め…


「弁当がついてたぞ、テンゾウ」



─ぎゃあ!!


慌てたテンゾウの手が、滑り、隣に置いてあった味噌汁の椀が派手な音を立ててひっくり返った。





◇◆◇



ほっぺたについていた飯粒を採っただけなのに何を慌てたのかいつもは粗忽とは縁のない(どちらかというと日常生活で粗忽なのはカカシの方だ。)テンゾウが手を振り回すものだから、目の前に置いてあった熱々の味噌汁の椀が盛大にひっくり返った。


「あっちちっちち!!!」


自分の膝にかかったんだろうテンゾウが慌てて立ちあが…ろうとして椅子から転がり落ちた。


何やってんだかもう!

テーブルの下に転がってうーうー唸っている「子供」を抱え上げると風呂場に連れ込み、ズボンの上から水をかけてやる。

「お前、なんだか面白いねぇ、いつもは完璧なのに…ちっさい体って、そんなに使いにくい…?」

後ろから抱えこんでズボンに水をかけていると、耳元で、いつものテンゾウとはまるで違った高い声が答える。

「…こんなころは…ずっとベッドのうえでしたから、このサイズで動き回った事、あんまり覚えてないんで…」

気まりわるげなその言い訳に、カカシの手が止まった。

…ずっとベッドの上。

チューブにつながれ、鎖で縛られ。

「でも、まあ、慣れの問題でしょうけど、この体で慣れたくないですね、元に戻った時にまた難儀なことになりそうだから。」

耳元で「子供」が笑っている。
辛かった過去も、過ぎたことだと。

小さな子供はとても強い子供で。


「さ、これ以上冷やすと風邪ひくな。」

何事もなかったようにカカシはシャワーの水を止めると濡れたテンゾウのズボンを下着ごと脱がそうとした。


「ちょ…!!だ、あ、え、じぶ、んでできますから、先輩っ!」

腕の中で暴れだした「子供」に、何を言ってんだか、といって強引に脱がしてしまう。


………


………



「………カワイイ………」





ナニ、が、可愛いかは言わずもがな、だったが、テンゾウはがっくりと首をおった。


「言うと思った……」




◇◆◇




やっぱりいわれてしまった。

やっぱり、やっぱり……


自分でトイレにいって、少なからずショックを受けたのだ。


体が小さくなるのは、潜入任務で子供にも変化したことがあるから経験はあった。しかしその任務中に用を足したりしなかったので、自分の身体とは言え、詳細に見知っているわけではない。


そこで唐突にテンゾウは気づいた。



先輩とこの体で、どうやってヤルんだ………!?




重大問題だった。
いつもとに戻れるかわからないこの状態で。

任務に就くしばらく前から、ヤッテない。

そしてヤレ無い状態がいつまで続くんだ……!?


テンゾウは改めてその事実を確認して…愕然とした……




◇◆◇




カカシはさすがにシマッタと口を押さえた。

これは非常に男にとってデリケートな問題だ。
今のテンゾウの「モチモノ」が極小サイズであったとしてもそれは致し方がないのだ、こどもなんだから。
精通だってこの年ではあるまい。
でも、後何年かすれば、ちゃんとあの立派な……

……??

……!?後、何年……?



ちょっと待て。後何年だって!?



どんだけ待てば、こいつとヤレるようになるわけ…?


慌ててテンゾウを見下ろす。

少年も同じ考えに到達したようで、お互いに視線を交わすと、ようやく気付いた、体の関係のある恋人同士としての問題点に…

頭を抱えたのだった。
















2009/11/29 update