Labyrinth─その迷宮に─
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捕虜になった隊長の身を案じて…
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じわり、と 手首からしみこむ冷たいしびれが、徐々に身体の中心に向かっているのが分かった。
―――――このままでは…僕の覚悟を示すことすら……
あまりの無念さに噛みしめた唇から血がしたたる。
「おやおや、ヤマトくん。自害してもそれなりに使わせて貰うから…無駄だ、とだけ言っておくよ。」
眼鏡の奥の瞳の虹彩がつぶれたアーモンドのようにぬめりを帯びて光り、ますますヤマトの焦燥をあおった。
―――――また…また僕は…あいつらの…いい実験素材にされるのか……
舌の上に血の、鉄さびくさい味がひろがる。
―――――先輩……僕はどうしたら…
噛み切った唇を舌でたどる内…里を立った晩に腕にしたとらえどころのない男の肌の感触がよみがえる。
冷たく、なめらかな…それでいて内包した力の所在を明らかにする、張り詰めた白い肌。
舌でたどり、歯を立て、そして……
◇◆◇
「おーーい、ヤマトくん、ヤマトくーーん~~~~」
脳天気に呼んでくる先輩の声を聞こえないふりで慌てて忍具屋からでて帰ろうとした。
が、瞬身まで使って先輩は僕の隣に並んできた。
……先輩にくん付けで呼ばれて、今までろくな事があったためしがない。
今回だけが例外のはずはない、と、思っていたら…
「何なのよ、何でオレから逃げるのかな。」
「……何だか最近第六感が発達したみたいで…」
「…ん~~?」
「いや~~な予感がしたんで…」
「ほぉう。そりゃ、当たってるような、外れてるような…」
「…僕になんか用ですか…?明日の朝にはナルトを連れて出ないと駄目なんですけど…」
「そう、それそれ。」
先輩はぽん、と手をうって僕の顔をのぞき込んだ。
「お前、しばらく里に帰れないだろ。だから今のうちに頼んでおこうと思って。」
「……何をです…?」
「…や、お前にしか頼めなくってさ。ちゃんとお礼はするから。」
「……なんなんですか。僕が引き受けるってのは決定事項ですか…?」
渋い顔をしたら、一つだけ出た目をチェシャ猫のように笑いに細めて、ぽんぽんと僕の肩を叩いた。
僕が先輩の頼みを断れたためしがない。
この時は、新しい写輪眼の実験に付き合わされた。
幻術に抵抗力のある僕に、ちゃんとかかるかどうかの実験…。
とんでもない話だが、別に幻術にかけて悪さをするわけではない…だろうと、渋々付き合った。
普段なら何をされるか、と、ドキドキするところだが、任務前なのを先輩も知っているから、無茶はしないと分かっていたから。
結局。
どんな幻術なのかも僕には分からなかった。
「あ~~なるほど。そうか、ふぅん」
分かったような分からないような感想を漏らして、助かったよ、ありがとな、と、背を向けた先輩の腕を掴んだ。
「先輩。お礼を忘れてますよ。」
「……忘れた儘でいたかったな~~」
「……そうはいきませんよ。僕の部屋で良いですよね」
「…………やっぱりそういう展開になるのね…」
「……そうですよ。いけませんか?」
開き直って堂々とヤろう、宣言をしたら、もそもそと頭をかいて、なんとなく照れくさそうな感じで付いてきた。どことなく疲れているように見えたけれど、その時の僕にはたいした問題ではなかった。
っ、う、あっ!
疲れがたまっている所為で、高ぶりすぎたのか、乱暴に先輩の中に入った。
柔らかく受け止められて、けれども辛いらしく…僕の背に回った手が、思わず爪を立てていた。
任務に出る僕に、怪我をさせまいと、慌てて離そうとする先輩を、意地悪くまた突き上げる。
ひっあっ!!テンゾウ…っ!!!
おちて…動かなくなってしまった先輩の、なめらかな肌を手で、舌であじわいながら…
これだけ、裸になった姿が普段と印象の違う人間も珍しいと思った。
この、白い、美青年としか言いようのない男が、あの、片目だけ出して猫背でエロ本片手にぼぅっと里を歩いているうさんくさい上忍だと誰が思うだろう。
僕は愛しさに胸が詰まり……秀でた額に汗で張り付く幾筋かの銀髪を指先でぬぐい、じっと彼の素顔を目に焼き付ける。
その時、すでに戻れなくなるかもしれない、という 予感めいた物があったのかもしれない……
◇◆◇
「僕の毒と、アナタの写輪眼で、必要な物を手に入れたら、それで済むでしょう」
そう言われて仮面の男は地面に転がされている木遁使いの青年をのぞき込んだ。
「写輪眼を便利使いにされてもしょうがないけどな。その通りだから、まあ、良いとするか。」
カカシとはまるで違う文様を浮き上がらせた右目が血のように濡れた赤を浮き上がらせ、ヤマトをのぞき込んできた。
ヤマトは初めて…写輪眼を怖ろしいと思った……
◇◆◇
サテ…忍連合ノ構成カラシャベッテ貰オウカ……
赤い瞳の禍々しい仮面の男がうずくまるヤマトにゆっくりと歩み寄ってくる。
辺りは一面の荒野、紫色の空に、血の様な巨大な月が浮かぶ。
喉の奥から離してはいけない情報がせり上がってくる。
飲み下そうとしてもあふれる勢いで上ってくるそれを……
―――――だめだ、口にしては……駄目だっ…あ、もう…
絶望感に息が詰まる。このまま…里を裏切らねばならないのか…先輩の…あの人の…ふるさとを…
その時。
堅く目をとじたヤマトの前にきらきらと…輝く銀色が舞い降りた。
◇◆◇
「………っん!?」
ヤマトをのぞき込んで簡単に情報をとるはずのマダラが、目をのぞき込んだまま固まっている。
……何をもたついているんだ。
すぐに情報を引き出し、人質の身体を切り刻もうと手ぐすねを引いていたカブトは、不審げに眉を寄せた。
「………おの……れっ!」
人質の胸ぐらをつかむマダラの手に血管が浮き、ぶるぶると震え始めていた。
―――――!?
◇◆◇
何ダ…キサマ…ドウシテココニ……
それはこっちの台詞だ。こいつの頭の中に勝手に入って欲しくないね。
ゆらり、と、銀色に揺らめく影が、ゆっくりとうずくまるヤマトの傍らに佇んだ。
――――――――せ…先輩っ!!
ホウ…ソノ写輪眼…ハタケカカシ カ…洒落タマネヲスルデハナイカ。
シカシ 貴様、オレヲタオセルト思ッテイルトハ笑止。
ふん、と、銀色の影が肩をゆらす。
何言ってるんだか。
倒すとか、やっつけるとか、そんな面倒な事は若い連中に任せるに決まってるでしょ。
俺はこいつが嫌がることをされないようにお守りにくっついてきてるだけだーよ。
そっと肩に回った手を握りしめてヤマトは目を見張った。
………あの…実験……!!?
あの後…何となく疲れているようだった。
いつもよりずっと早くオチてしまった。
乗り気でないと思っていた…
僕の中に…チャクラを…
あんたの邪魔をするくらいなら、俺にだって十分出来るとも。
こいつは俺のチャクラを拒まない。どんな奥底にでも俺を受け入れる。
あんたが決して入れないところにでも…
そう言われてヤマトは振り仰いだ。
紫の宙が地平から水色に染まり始めていた。
朱い満月は禍々しい髑髏を浮かべながらも欠けはじめ。
極彩色の背景のなか、銀髪だけがきらきらと輝いていた。
―――――そう、僕は先輩を拒まない。何時だって、あの人のチャクラは僕の奥底にまで染み渡り…僕を満たしてくれる。僕はあの人のチャクラだけは何時だって見分けられる……
……コレデオレカラ逃レラレタト思ウナヨ…
怨念にきしるような声が聞こえ、どんどん仮面の男の姿が遠ざかり、小さくなっていく。
しばらく…意識を眠らせろ、ヤマト。俺がチャクラで包んでいてやる。
頭を抱え寄せられ、そうささやかれて、ヤマトは唇を噛んだ。
「…無理をしますね…先輩…僕にこんなにチャクラを割いて…」
うるさいよ。時間を稼いで…待ってろ。必ず迎えに来てやるから。
「……はい。もう一回先輩を抱けるように…頑張ります。」
その返答に…お守りの先輩がどんな顔をしたか。
強く抱きしめられて堅く、深く意識を閉じたヤマトは見ることはなかったが。
―――――莫迦後輩。……そんなこと言われたら助けに来づらいじゃないのよ……
後輩の深い 識域下に佇み、カカシは一人赤面していた……
◇◆◇
「おやおやおや。うちはマダラとしたことが。後付けの写輪眼にしてやられましたか。」
そう揶揄するカブトに取り合わず、マダラは黙って意識のない木遁使いを放り出すように転がしゆっくり立ち上がった。
―――――あれほどまで…深い意識に他人のチャクラを受け入れて揺るがないとは。
無理にこじ入ったチャクラには痕跡が残り、後を追うのもたやすい。
しかし、幻術に長けたチャクラ使いのカカシが、この木遁使いの意識を、迷宮の中のような深層に沈めてあまつさえ跡も残していない。
意識の持ち主のこいつが、なんの抵抗もなく…あれほど深く他人の進入を許すとは……
ち、と、舌打ちをしてマダラは踵を返した。
木の葉隠れの里にかかわっては誤算ばかりが起こる。
「その男は殺さずにとっておけ。借りは…引き取りに来た男に返させてやる。」
実験に使う事を事実上止められたカブトは、不服げに鼻を鳴らして、しぶしぶうなずいた。
◇◆◇
深く。
深く…底の見えない迷宮のような意識の深淵に沈み込みながら…
男は、只一人。
彼を呼び覚ましてくれる唯一の人を待つ。
先輩。…先輩。情けない後輩で済みません……
一生懸命……生き延びて……先輩を待ってますから……必ず。
待っていますから。
―――――end
Update 2010/11/12
隊長が心配で矢も楯もたまらず…
勝手な妄想です…(汗)
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