FlashBack〜後篇〜
意地で、一日早く退院して、病院以外の場所で休みを過ごそうと、とやかくうるさい医者たちを振り切って部屋にかえったカカシとテンゾウは、どっちも病人だったが。
外から傷の治り具合の分かりやすいテンゾウが、性分もあって、家の中の片付けやまだイマイチ動けないカカシの世話をした。
最初は心配していたカカシだったが、広い背中に残る傷跡が、思ったより早く治ってきているのを診て、愁眉を開いた。
カカシを浴槽につけて、温まるようにいって、テンゾウは台所に戻った。
秋刀魚の塩焼き、茄子とみょうがの味噌汁…茄子を買いすぎちゃったな。シギ焼きに、焼き茄子もつくっとくか…茄子シリーズだな…
などと夕食の支度をしながら、テンゾウはふと、手を止めた。
あの頃は…
食事なんか取らなかった。
全て、栄養チューブ…
得体の知れない薬と一緒に、直接胃の中に流しこまれた。
始めは同じ部屋に居るほかの実験体達の、呻きごえや、悲嘆の声が、うるさく、わずらわしかった。
こうなってしまっているのを、今更嘆いてどうなる。
しかし。
日がたつにつれて、一人欠け、二人欠け…
最後に残ったのはボクだけだった…。
いまだ、あの時投与された薬の影響があるとは思ってもみなかった。
薬漬けになっていた、その体のまんまで、ボクはカカシさんを抱いてたのか…!?
カカシさんに、そんな体で触れていたのか…?
「テンゾーーでたぞーー!って、なんか脚韻ふんでるね〜、早くしないと風呂、冷めるぞ〜続き、オレが作るから…」
…?
包丁を手に、ぼんやりしてるテンゾウを、カカシは髪を拭きながら、黙って見つめるだけだった。
テンゾウの指が、カカシの体の奥深くを探ってくる。
…あ、あっああ!!
腰の奥が熱を持つように痺れて、上にのしかかる熱い体にしがみ付くしかない。
「テンゾウ…!も、こい…!早く…」
指ではなく、もっと別のものが欲しい…
しっかりとはった肩甲骨を抱き寄せ、精一杯ねだるが、
「身体が…持たないですよ。このまま…イってください…」
そういって指を増やし、ばらばらに動かされて、カカシは唇をかんだ。
指でイかされるのはいやだ…!
でも、もうイきたい…!
「テン…テンゾ…!!」
体を直接交えなかったとはいえ、立て続けにイかされて、カカシは泥のように眠ってしまった。
テンゾウはその汗ばむ白い体を大事に後ろから抱え込んで、銀髪に顔を埋めるようにして眼を閉じる。
こんな風に恋人を腕に抱え込まなければ、もう眠れなくなっている自分が、テンゾウは情けなく、そして哀しかった…。
もちろん、そのテンゾウの変化にカカシが気付かないわけはなかった。
二人して入院し、出てきて以降、テンゾウはカカシと体を交える事はなくなっている。
そばにいると、相変わらず、くっつきたがるし、触れたがる。
今まで以上に丁寧に、情熱的に愛撫してくるが、いつもイくのはカカシだけだ。
…どうしたんだ…テンゾウ…
そうして、いつしかふたりでいてもぎこちない雰囲気が漂い始める。
理由を聞きたくても聞けないカカシ。
気付かれているとは思ってもいないテンゾウ。
そんなある日。
任務明けでやっと取れた数日の休暇…
やはり最初に口火を切ったのはカカシだった。
「テンゾウ…お前…なにか、俺にいいたくて、言えない事があるんじゃないの…?」
夕飯の後片付けの当番のカカシが、ゆっくり食器を洗いながら、テーブルを拭いているテンゾウにそう言い出した。
そういわれたテンゾウは、ぎくっと手を止める。
「な、なんですか…?」
「あのね。なんですか、ってきいてるのは俺の方よ。」
「別に…」
「なんでもない、なんて言い訳、きくとは思ってないよな…?」
「……」
「俺には言いたくない事…?」
「ほんとに、何も…」
「…なら、なんでおまえ、俺と、ヤらないわけ?俺ばっかりにイかせて…?」
「………」
「俺…だってこんな事、聞きたくて…」
「……」
カカシは、じっと手を止めたまま俯いてしまったテンゾウを見てため息をついた。
「…俺とはもう、ヤリたくない…ってこと…?」
「そ、そんな、先輩…!!」
「面倒くさくなったとか…でも、ちゃんと…言うのが…今まで付き合ってきたんだから…誠意じゃないの…?」
カカシは自分で言っていて情けなくなってきた。
捨てないで、とか、ワタシの事、嫌いになっちゃったの…?とかいって男に縋る、十代の小娘じゃあるまいし…!
「すまん…今言った事は忘れていいから…」
「カ、カカシ先輩、そんなんじゃ…!!」
「ちょっと外で呑んでくる…」
そういって、テンゾウが止めるまもなくカカシは瞬身で姿を消した。
テンゾウはその場に呆然と立ち尽くした。
そんな…
そんな、カカシ先輩…!
そんなわけないじゃないですか!
でも、大事なあの人に、そんな事を考えさせてしまったのはボクの所為だ。
どんなにみっともなくて…厭わしい事でも、ちゃんと説明して…相談して…
「ボクが先輩に泣き付けば良かったんだ…こんな体になっちゃってて、でも先輩と別れたくなくて…先輩をいつでも抱きたくて…こんなボクと、ずっといてくれますか…?そう言って…」
毒薬漬けのような、忌まわしい実験体の自分ですが…
そうして、振られるのは自分の方でないといけない。
あの実験室から連れ出してくれた、銀色の少年…
…10番ってのが名前だって…?ナニそれ、呼びにくいなーー
そーだなー10って、tenって言うんだぞ。
だから、お前、テンな。テン!テンだ!!
カカシさんがボクをテン、テンとよぶから、暗部の上司たちが名前っぽくテンゾウとコードネームをつけた。
だけど、カカシさんだけが、ボクをテン、と呼ぶ。
ボクだけを示す、秘密の名…カカシさんだけが、ボクに付けてくれた…
拾ってくれたのはカカシさんで…
だから、捨てていいのもカカシさんだけだ…
エプロンをつけたまんまの格好で、テンゾウは部屋を飛び出した。
「だあああああ!!だれか、こいつの取り扱い責任者を呼んでこいいいい!!!!」
ライドウと仲良く任務明けの一献を楽しんでいたゲンマは、カカシに急襲され、思わず叫んでいた。
「カカシ…もうその位にしておけ…」
ライドウが穏やかに諭すぐらいでは、カカシの自棄酒が止まるわけもなく…
もともと、そんなに強いほうでもないくせに、殆ど半べそで飲み続け、泥酔数歩手前、の状態になるのにたいして時間はかからなかった。
「俺ばっかりイかせてさ、こーんな痕、体中に付けやがるくせにさ…」
そういって、カカシは珍しく着ていた私服の襟ぐりをグッと延ばす。
鎖骨の辺りには、ぶどうの粒のように、鈴なりに紅い痕がくっきりと付いていた。
「こーーーんなトコにもつけやがるんだぞーー」
酔っ払いは、ズボンのベルトに手をかけ、ホックとファスナーを外すと下着ごと脱ごうとする。
その時…止めようとした手が思わず止まって、息をのんだゲンマたちの視線を遮るように、エプロン姿のカカシ取り扱い責任者が瞬身で現れた。
もちろん、ゲンマたちが心の中で舌打ちしたのは秘密である。
「並足先輩、不知火先輩、御迷惑おかけしました…」
律儀に二人に頭を下げて、服を脱ぎかけのカカシを手早く衣類を整えて抱え上げると、あっという間に瞬身で消え、後にひらひら、と、カカシの酒代らしき紙幣が舞っていた…
「アイツ…木遁使い、じゃなくて、猛獣つかい、って看板をかきかえるべきじゃね?」
ゲンマにそう同意を求められたライドウは…どちらかというと、こちらも猛獣使いと言われる部類に入るのだが…
「猛獣に使われてる気がするけどな…」
といって、ゲンマの杯に酒を注いだ。ライドウを振り回している自覚のあるゲンマは、だまって杯を開けるしかなかった………
酔っ払いに、何をいってもしょうがない…
そう話を投げやりにする気は、テンゾウはなかった。
カカシがかなり酔っているのを承知の上で…
自分が恐れている事を。
臆病な自分を…
晒した。
憧れて、大事で…何よりも失いたくない人に、欠けた自分をさらけ出すのは、信じられないくらいの勇気がいったが。
「こ、怖かったんです。薬漬けで…もう抜けたと思ってたのに…そんな体で…カカシさんを抱いたら…カカシさんがどうにかなったら…そ、そう思って…でも…そばにいたら触れずにいられなくて……」
「で、俺ばっかりイかせたって…?」
見開いたオッドアイに酔いの影はなかった。
その強い視線に耐えられず、つい俯いてしまう。
「……オレ、今、酔ってて、今ひとつ頭が働いてないんだけどさ…あーつまり…」
「……」
「風邪引いてるかもしれないから、キスしたらうつるかも、って話…?」
「………は……?」
「…ん?違うの…?」
「いえ…違わないといえば、違わないような…でも、なんかちょっと…」
複雑そうな表情で言葉を捜すテンゾウに、カカシは鼻を鳴らして言った。
「お前にとってどうであれ、おれにとっちゃ、その程度の話だな。お前が使われた薬の解毒なんてのは五代目がとうに完成してるだろうし、お前が乗り切った薬、オレが乗り切れないって何で決め付けるわけ…?」
「カ、カカシさん…」
「それとも何…?お前とヤって、オレが変にでもなったら、捨てちゃいたいけど、そんなんで捨てたら、良心がいたむ、って、そっち方向の話…?」
「冗談じゃない!!誰が命より大事だって思ってる人を捨てるもんですか!!」
咄嗟にそう叫んだテンゾウは、その言葉を聞いて、一瞬眼を見張り、そしてたまらない笑顔を浮かべたカカシをみて…
真っ赤になった。
俯きながら、ボソッと呟いた。
「なんだか真面目に悩んでたのが馬鹿馬鹿しくなりました……」
「何言ってんだよ。その馬鹿馬鹿しい悩みに振り回された俺の方が馬鹿馬鹿しいよ!」
腕を組んだ酔っ払いにそういわれ、テンゾウもカカシの大好きな笑顔を浮かべる。
「なら、遠慮なく、頂けますね…?」
「…は…?」
キョトン、とする、カカシの前で、テンゾウは手を合わせ、
「いただきます…!!」
そういって大柄な恋人の体をものともせずに掻っ攫って、寝室に飛び込んでいった。
それから数日間。
せっかくの休暇を、カカシはベッドの上で過ごす事になったのだった。
「半年振りのまっとうな休みを返せぇええええ!!!」
end
Update 2008.11.22
あとがき :
お、お、おわ…終わった…
この時点で、管理人はオフィシャルのカカシの運命を知りません…
知るのが怖いって言うのが本音です…
だれか確認する勇気をクダサイ……
って、なんちゅーあとがき…^^;
落ち着いてから、書き直しに来ます…
読んでくださってありがとうございました!
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