FlashBack〜前篇〜
10号…
そうよばれてうっすらと眼を開いた。
「あら、まだ、意識があるのね、えらい、えらい。なら、こっちの薬、ためさせてもらうわね」
ねっとりとした口調が、新たな苦痛の始まりだ。
何で自分だけが、いつまでもこの苦痛から逃れる事が出来ないのだろう…
それはね、醜く生にしがみ付いているからよ…
あああああああ!!
テン!
テンっ!!
「テン!!起きろ!!」
眼を見開くと、銀色のふわふわしたものが目の前にあった。
「え…?え?」
「こら、ねぼけるな、テンゾウ…。起きなさいよ!ってか、はなせ!」
そういわれて、テンゾウは初めて自分が誰かを抱きしめているのに気付いた。
いつも見上げる実験室の薄汚れた天井ではない…木目の綺麗な天井。
どこだ…
ボクは今どこに…
「テンゾウ!お、き、ろ!!早く抜け!!」
そこで漸く、テンゾウは瞬きをして、自分の腕の中に居る青年をまじまじと見た。
紅い花びらのような斑点がいっぱい散った白い背中。
柔らかな銀髪。
「カカシ先輩…」
「ん、んう、い、いいから、も、お前、抜けって…」
後ろから青年を抱え込んで、挿入したまんま、寝てしまっていたらしい。
「ス、スミマセン、今…」
慌てて体を離したテンゾウは、ケツがイタイの、身体がベタベタするの、とさんざん青年に文句を言われ、大事に抱え上げて風呂場に連れて行った。
テンゾウは自分がつけた紅い痕の残る白い背中を掌で大事そうに洗いながら、つい先程まで見ていた、思い出せない夢のことを考えていた。
とても…苦しくて…辛い夢だったような気がする。
カカシ先輩と寝たときには夢なんか見た事なかったのにな…
自分の物思いに耽っていたテンゾウは、カカシの気遣わしげな視線に気付く事は無かった。
テンゾウは、どうも最近気持ちが上の空になっているのに、気付きはしていた。
理由は分からない。
昔の事ばかり、思い出したり、考えたりしてしまうのだ。
昔…
過去、というものは、テンゾウにとって決して懐かしいものでも慕わしいものでもない。
むしろ、忘れてしまいたいものだ。
それを思い出すのはひどく辛い事で、テンゾウを疲弊させていた。
「いやいや、テンゾウ君、頑張ったねーーエライエライ!」
「……先輩、そのほめ方…ナルトと一緒にしてません…?」
「とんでもないよ、テンゾウ君!ナルトだと、ラーメンをつけなきゃならないからねーーお前は要らないでしょ!」
「…ボクはナルト以下の扱いですか……」
「愛は籠ってるじゃないのよ」
何処に…!?と聞きたくなるのをテンゾウはぐっと堪えた。
かなり厳しいツーマンセルの任務の帰りだ。
カカシは、10日の任務を一週間で終わらせる、といって、写輪眼を酷使し、本当に7日で終わらせてしまった。
その代わり、テンゾウが肩を貸さなければ移動も出来ない、といった体たらくだった。
テンゾウはカカシを半ば抱えるように、太い枝を飛びわたりながら、里へと急ぐ。
チャクラが切れている状態でいつまでもほりっぱなしにしていいわけが無い。
「先輩。その、ぎりぎり上等な任務のやり方、何とかなりませんか。フォローするボクは心臓が幾つあっても足りませんよ!」
「…はいはい!お前もあの暁の…角都だったっけ、あんなんだったら良かったかもなーー」
「……本気でいってるでしょ」
「あらあらテンゾウ君、顔が怖いよーー」
「………ボクも うにょうにょは出来ますよ。木遁ですけどね。先輩のおかげで日程に余裕があることですし、体で味わってみます?木遁プレイ…」
「……ってか、おまえ、貴重な木遁をそんなのに使うなっての!!」
「…本気にしました?」
「…本気じゃナカッタ…?」
「………」
「テンゾウくーん、お返事がないよーー」
「ったく、くだらない事をしゃべる暇に…」
「さっさと残りを片付けようか…!」
そういい交わすと、テンゾウはカカシを大枝の影に座らせ、反対側に飛び上がった。
寸前まで彼が立っていたところに棒手裏剣が列を成して刺さる。
…気配は五つ…上忍じゃないな…
そう見切ったテンゾウは、なるべく動けないカカシから引き離そうと、距離をとった。
相方の位置を確かめて木遁の千本を雨のように放つ。
そこかしこから断末魔の悲鳴が上がった。
コレでおしまいになった、とテンゾウが思ったとき…
千本でハリネズミにされて、大枝から石のように落ちていく追っ手が、枝の影に隠れる動けないカカシを見つけてしまった。
置き土産、とばかりに、最後の力で十数本の手裏剣を放つ。
カカシは己に飛んでくる手裏剣を見つめた…。
動けないまま。
テンゾウは、慌てず木錠壁でカカシを庇おうとした。
が…
……チャクラが練れない……!!
手裏剣も切らしたテンゾウは、とっさにカカシの前に飛び出す。
「……!!」
「テン…!!なにや……!!」
二本、三本の手裏剣が背に食い込むのを感じた。
急所は外れてる…鎖帷子を着てるから…持つか…!?先輩に当たらないように…
更にしっかりカカシを胸に抱え込んだテンゾウは更なる衝撃に身を硬くしたが…
「……?」
いつまでたっても残りの手裏剣が飛んでくる事は無かった。
そうして、テンゾウは、胸に抱えたカカシの呼吸がひどく細くなっているのに漸く気付いた。
「せ、先輩…!?先輩…!!ま、まさか、神威をつかったんですか…!!!?」
「……馬鹿…テン…木遁は…どうし…」
最後までカカシの言葉を聞く事も無く、テンゾウはカカシを抱き上げ、瞬身を使った。
「カカシ。もしかして、おまえ、命がいらないのかい…?」
「……イリマス…」
「ほお…?…。の、割には自分の体への労わりがないねぇ。アタシでも死んだもんは直せないんだよ!!」
五代目火影の、怒号のような叱責がベットのカカシに飛んだ。
「きちんとお前達の能力を考えて10日という日にちを設定したんだ。普通にやっても、お前達でやっとギリギリのその日程を3日も省略しようたぁ、どういう了見だい!?」
「……休暇…」
「休暇がどうした!!」
「こ、このところ…休みが…ないし…この次…テンゾウとは別任務だし…」
さすがに、途切れ途切れのカカシの説明で、漸く綱手は言いたい事を理解した。
確かにこの半年ほど、殆ど休みなしに任務を割り当てている自覚はあった。
所帯持ちや、若手では、危なっかしくて任せにくいものを、断らないのをイイコトにみなこの茫洋とした青年に押し付けてきていた。
「さっさと仕事を済ませて、余った時間を休みにしよう、って魂胆かい…!」
「…はぁ…」
「しょうがない子だねぇ!!」
そういわれてカカシは苦笑した。綱手からみれば、自分も「子」のレベルらしい。
確かに。テンゾウがらみだと、自制が利かなくなる自覚はあった。あの時も。
…手裏剣で迎え撃ってもよかったんだが…
テンゾウの背に何本か手裏剣が刺さるのを目の当たりにして、理性がとんだ。
そして、飛来する手裏剣をソレを撃った敵ごと…「飛ばして」しまったのだ。
「五代目…テンゾウは…?」
「シズネがみてるよ。手裏剣の二本や三本でどう、こうするようなヤワな男じゃあるまい…!」
「そう…ではなくて…」
そこで、カカシは、テンゾウの木錠壁が発動しなかった経緯を、切れ切れに説明した。
「…っ…そうかい。それでヤツは自分の体でお前を庇おうとしたんだね。」
それで、こいつは更に、神威をつかってテンゾウを庇おうと…
「馬鹿なヤツらだよ!しょうがない。今からちょっと診てこよう。」
「お願い…します」
「多分、今回は、お前の方が重傷だ。大人しく寝ておいで。コレが休暇だよ。」
「つ、綱手さま…ヒドイ…」
情けなさそうなカカシを笑い飛ばして、しかし、病室をでた綱手は、表情を引き締めて、テンゾウが治療を受けている診察室へ向かった。
「ふ、副作用ですか…?」
「ああ。大蛇丸のやつ、使いたいだけ使ったからね。色々な薬を…」
カカシを案じて、少しも落ち着かずにシズネをてこずらせていたテンゾウは、綱手がカカシの無事を保証して、漸く落ち着いて今度は綱手の診察を受けた。
「木遁は血継限界だ。ソレをお前は人為的に受け継いだ。軋みが出てくる頃だ。」
「……使えなくなる、という事ですか…?」
「そうじゃない。不安定になる時期が来る、という事だ。月に、満ち欠け、潮に満ち引きがあるように、お前の木遁にもソレが来る。それだけの事だ。」
「……」
「今回の自分の状態を良く覚えておおき。そんな状態がくる時は、木遁が不安定になる時だ。使うときは気をつけるんだ。」
今回の状態…?気持ちが不安定で、嫌な事ばかり思い出す…?
「薬…の影響というのは…」
「ああ、あの男、散々使い果たして行った。おまえ、本当に良く頑張ったよ。」
「………」
「ソレは心配は要らないだろう。」
「まだ、ボクの体に…?」
「お前の体が馴染んで取り込んでしまっているのさ。」
「………」
口数の減ってきたテンゾウを、綱手はいぶかしげにみながらも、カカシとテンゾウの二人に、休暇という名の入院治療時間を与えた。
綱手様の鬼…!!
と、テンゾウが心の中で思ったとしても、口には出さなかったので、綱手に聞こえる事はなかった。
to be continued…
Update 2008.11.21
あとがき :
あううううう
一辺に終わらなかったil||li _| ̄|○ il||li
すみませ…
あとちょっとなんで、後編も直ぐUPできるのではないか、と…^_^;
…
こんなに釈迦力になって更新したの、初めてですぅ…
校正とか、も、全然、一気書き…
出来…が心配で…す…orz
自分で読んでも、今はわかんないです(-ω-;)
ああ、とにかく明日、明日、WJを読む前に、後編あげます、が、がんばる…
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