桜散らす雨が降る…



そんなとこで何見てんの?


テンゾウの先輩上忍が声をかけたのは、里の俊英と誉れも高い、うちは の跡取りだった。

里のはずれの桜の古木の下で、舞い落ちる花びらと、そぼ降る雨に打たれながら、その少年はじっと空を見上げていた。
暗部面をしたまま、小首をかしげて尋ねるテンゾウの先輩は胡散臭い不審者以外の何物でもなかったが、その少年は、気にする様子もなく、かすかに笑みを浮かべた。

「カカシさん。今から任務ですか…?」
「…あ?うん、そうだけど。って、あれ…そんなこと言っちゃいけなかったっけ…?」

そういってテンゾウを振り向くカカシに、テンゾウはため息をつきながら猫面の額に指をやる。

「なに。お前。その生意気なしぐさ!」

テンゾウが何か言い訳しようとしたとき、少年が何か、小さくつぶやいたのが聞こえた。

─里外の任務に…写輪眼と木遁使い……今夜、ということ…?

……なんだって…?
猫面の下で眉をひそめるテンゾウとは裏腹に、聞こえたはずのカカシは、何でもないような様子で、面をゆっくり外すと、少し下にある少年の秀麗な顔を覗き込んだ。

「お前、何でも一人でしょいこんで、独りで解決しようとするのが悪い癖だよな、ガキのくせに。またそれが出来ちゃうから、嫌味なんだけどさ。」

そう、わけのわからないイチャモンをつけられた少年は、意味を知ってか知らずか、大人びた苦笑を浮かべている。

「……たまには人を頼ったり信じたり…下駄を預けたりすることも…必要だって……分かってる?」
「……はい、カカシさん…はい…」

素直にうなずいた少年に、カカシは、さーーて、どこまでホントにわかってんのかね、と、首を振りながらゆっくりと背を向けた。

「一人で抱え込むなよ、イタチ。お前が思ってるより、ずっと…お前を心配してるヤツは大勢いるんだからな。」

背を向けていたカカシには見えなかっただろう、そう言われた少年が、その時浮かべた微笑みを……

しかし、テンゾウの先輩上忍は、かすかに首を振ると、行くぞ、と、テンゾウを促して瞬身を使った。





後に立ち尽くす、痩せた少年は。

桜の花と。
花散らす雨と。


二つに濡れながら、故郷で最後の時をすごしていった………






里のはずれの桜の古木は。

今年もあでやかに花を咲かせ。

テンゾウは、天を、覆い尽くすような白い花の下で。


花散らす雨の中で。
あの日の少年のように空を見上げる男を見つけた。





あの時。

任務から戻った二人をむかえたのは、うちは壊滅、イタチ出奔の知らせだった。


何も言わず、任務報告もせず、火影の前を退出した男の後を追ったテンゾウは、付いてくるな、と言い残して消えた…男の肩が、かすかにふるえていたのを見た……



桜。

桜散らす雨。

あの時の少年が何を考え。

何を思って… 弟だけを残して里を落ちたか。



桜、桜。

弟だけを残し。
弟ただ一人愛し。

なのに孤独と憎しみの中におきざりにして…

たった独り散っていった、孤独な天才を。


今だけは悼もう。

桜散らす、雨の中で。






Update 2010/04/02 (3/31MEMOブログ掲載分)