DogTag
〜認識票〜
オレの下から体を起こしたカカシ先生の汗ばんだ裸の胸で、認識票(ドッグタグ)がチャラリと音を立てた…
「さ、ナルト、どけ。オレはこれから任務が入ってる。今日はもうおしまいだ。」
いつに無くそっけないカカシ先生の口調だったが、仕方が無い。
この時期、毎年、カカシ先生は…
「こんな夜からかよ?」
そう聞いたオレに、左目を閉じたまま、開いた片目を細めて、カカシ先生は肩をすくめた。
「任務がいつも昼間からとはかぎらないでしょうよ…」
…その言葉と、憂鬱そうな先生の様子で…
オレには知られたくない任務だと知れた。
…血なまぐさい任務…カカシ先生は相変わらずオレに知られまいとする。
暗部をやっていれば、オレにだってそういった任務がくるはずなのに…先生はその手の任務を皆独りで引き受ける…
オレはカカシ先生が綱手のバーちゃんとやりあったのを知ってる。
カカシ先生の負担を考えて、オレとのツーマンセルで暗殺任務を任せようとしたバーちゃんに…
「アイツは火影になる男です。オレはアイツが暗部の仕事をする事自体反対ですよ。こんな後ろ暗い任務はアイツにやらせるべきじゃない。」
「過保護にしてアイツのためになると思ってるのか、カカシ!火影は奇麗事だけでは勤まらん。お前も十分に知っているだろうが!」
「火影になれば、否が応でもそういった事態と直面するんです。今からアイツをすり減らす必要は無い!小さいうちからの暗殺任務が子供の心に与える影響を考えた事があるんですか!」
カカシ先生にそういわれてバーちゃんは黙っちまった。
そりゃそうだ。
里の誰よりも小っせえ内から、大人以上の過酷な任務をこなしてきたカカシ先生の台詞だもんな。
説得力が違う…
でもよ、先生。
それって、やっぱり過保護だってばよ…?
オレはもう、カカシ先生に守ってもらわなくちゃならない小さな子供じゃねぇ。
* * *
「先生、オレが洗ってやろうか!?」
風呂場に行ったカカシ先生に、オレがそう、能天気な声を掛けると、
「イヤだよ。お前、洗うどころかまた続きになだれ込むでしょうが…!」
「ちっ!読まれちまった…」
そう、小さく舌打ちすると、
カカシ先生は洗い場の戸を少し開けて顔をだし、
「ナニ!?お前、ホントにまだ盛る気だったの!?」
とびっくりした顔をした。
「先生が任務だって言ったから手加減したんだってばよ…!」
「うわぁ…お気遣いアリガトウ… 任務入ってなかったら、オレ、ヤリ殺されちゃうトコだったのね…!」
大げさに顔をしかめて戸をぴしゃりと閉めたカカシ先生は、くすくす笑いながら、入ってくるなよ、と言った。
* * *
例の口布を引き上げた、胡散臭い格好で綺麗な顔を隠し、いつものように窓枠に止まって振り返ると、
「ん、じゃ、行って来る。」
「おう!気をつけて行ってらっしゃいってば!」
三日月のように片目を微笑ませ、カカシ先生は姿を消した。
任務に出るには早い時間。
オレは知ってる。
いつも、この日、夜遅くにカカシ先生が慰霊碑の前に立っている事を。
例え任務が入っていても、どんなに過酷な任務だったとしても、必ずそこに…居る。
神無毘橋の戦い…
オレの生まれる前のその戦いの事を、オレは知らない。
けれど、カカシ先生がその戦いで失ったモノをずっと忘れないのをオレは知ってる。
カカシ先生の胸の三個の認識票(ドッグタグ)…
オレはまだ、その持ち主の事を…
聞けない……
end
補足
ナルカカ長編の「リフレイン」の原型…らしきものです…
Update 2008.11.10
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