あの日の君の映像をくりかえしては


「あーーー!!こんなところにいたっ!!」


後ろでいきなり大声を出されて、その長身の上忍はびっくりしたように振り向いた。

勿論、子供たちが来ている事に気付かなかったわけではない。

ここにたたずむ彼に声をかける人間など今まではいなかったので、声をかけられ…というより、陽気に懐いてこられて少しとまどったのだ。


里の大人たちは、彼にとって、この場所の意味するところを嫌というほど知っているので…今までだれ一人としてこの場所で、声をかけられた事はない…



木の葉の慰霊碑…殉職した英雄たちの眠る場所。



「カカシ先生ってば、今日、非番だろ〜〜〜!!稽古つけてくれってばよ!!」


懐かしい色の髪をした少年が体当たりでしがみついてくる。


「カカシ先生、非番なのにまたここにきてるんですか?」

風に広がるピンクの髪を一生懸命に抑えながら、少女は眩しげなまなざしで見上げてくる。


「ああ、まあね…サスケは?サスケも…?」
「サスケくん、先に行ってるって。先生待ってたら日が暮れちゃうから、あたしたちに連れて来いって…!」
「サスケはめんどくさがって、教えてもらう礼儀をしらねぇってばよ!」
「何生意気なこと言ってんのよっ!ナルトのくせにっ!」
「あ〜〜サクラちゃんてば、その、癖にってなんだってばよっ!」

自分をかこんで、ワイワイ騒ぎ始めた子供たちを眼を細めて見下ろしながら、カカシはふと遠く里の風景を見渡した。


ゆっくり額当てを外す。


「あっ、あっ!!先生、写輪眼モードで稽古付けてくれるんだってばよ??俺の実力をやっとみとめ……いってぇ!サクラちゃん、手加減してねぇってばよぉ〜〜!!」
「ナルトうるさい!カカシ先生が本気出すわけないじゃないの!」
「でも額当て外した〜〜!!」


カカシはくすくす笑いながら子供たちにそれぞれ両目で視線をあて、ゆっくりと里の穏やかな風景に顔を巡らした。



─オビト。見えるか。お前が命をかけて守った里、こんなに大きくなってるぞ…あの時の俺たちのような歳の子供たちが…命をかけた任務に就かされることも…今はない……


─先生の忘れ形見も…こんなにでかくなった……



◇◆◇



サクラは、ナルトを見下ろすカカシの視線が、得も言われぬ情に満ちているのに…年頃の少女特有の鋭い感性で気付いた。

…先生の眼…哀しそうで寂しそうで…それでいてあったかくて優しい。


不思議な…謎めいた上忍師。

何時もはちゃらんぽらんで…何を考えているのかさっぱりわからない…でも、戦いの場では誰よりも頼りになる…。


「……先生…泣いてるの……?」

サクラは、カカシの珍しくあらわな左目から、陽をはじいて流れ出るものを認め、そっと小さな声で尋ねた。


「…え…?あらら…ホントだ…なんだろうね、久しぶりに太陽をみたから、陽の光にあてられちゃったかな…?」


白い、指抜きのグローブから出た指先で、ニコニコ笑みを浮かべたままあふれた涙をぬぐったカカシは、笑顔のままで再び額当てにその稀な瞳を隠した。


「さて、ご要望のようですから、特別訓練と、いきましょうかね…?」

「やった〜〜!!終わったらラーメン奢って、カカシ先生!!」
「…ちょっと、そりゃ、変なんじゃないの…?ナルト!!普通、教えてもらったお前が奢るんじゃないの?」
「何言ってんだってばよ!上忍がケチくさい事いってんじゃないってばよ〜〜!!」


ナルトに腕にしがみつかれながら、歩き始めた上忍師は、振り返ると立ち尽くすサクラに笑顔でおいでおいでをした。

「サスケが待ってんだったら急がないと、ブチ切れるぞ、急ごうか!頑張ったら晩飯奢ってやるよ。」
「はいっ!先生!!」




ナルトたちは知らない。




14年前のその日。


神無毘橋は落ちたのだった……。





Update 2009.08.06



補足
カカシ外伝のアニメ化に半泣きになりながら、書いたお話です^^;

良かったですよね。声に感情がこもるので、どういう展開になるか分かってるのにドキドキしました。