高天原幻想


疾風伝、「終焉」、イタチによせて……




色々な事件すべてが終結して、ナルトが七代目火影として理想の里づくりを目指す木の葉の里…
の捏造話です。
苦手な方はご注意ください。








◇◆◇



落日の光が木の葉の森を炎の森に変えていた。

彼は森を一望する里のはずれの丘に独り、朱に染まって立っていた。


遠い記憶をたどり、過去の人間になった…かつての同僚に…想いを馳せながら。




◇◆◇





行くのか。


そう尋ねた彼に、無言でうなずいた若者は、捕まえないんですか、里抜けですよ…

と、かすかに笑いながら聞く。

オレにつかまりたいの?おまえ。

そう聞いてみたら、自分はどうしても…里を出なければならないから…捕まるわけにはいかない、と何でもないようにいった。


あいつを…あいつのことを…

ナニ…?

いえ、なんでもありません…


誰の事を言っているのか知っていて、わざと聞き返してやれば、困ったように曖昧に言葉を濁した。


オレにも理由を言えないの…?


そう聞いた彼に…若者は…そっと笑みを口元にのぼらせて…

言えません…。
もう行きますね。


そう言って振り返りもせずに。

細い体はあっという間に視界から消えていった。






次に会ったときは敵同士で。
殺し合う事にためらいもなく。


けれどもどこか彼を見る目は懐かしげで。





信じられなかった。
信じたくなかった。

やつが…あいつ(オビト)の一族を殲滅してしまうなんて。

たった一人を残して…

あいつ(オビト)の血が絶えてしまうなんて。
この眼を残してくれたあいつ(オビト)の…愛した一族が…滅びようとしているなんて。


あの時…
彼は上忍であっても里の枢軸にかかわれる身ではなく。



守ってやれなかった若者を。

一途で…孤高の…天才を。



後悔に身を焦がすことがせめてもの…
何も知らなかった自分の…贖罪のようで。

彼は何時までもその身を焼く苦しみに心を任せていた。





………出ておいで。里の夕陽を見るのも久しぶりだろ…?



気配もなく陰に潜むものに紅く染まった彼が振り返りもせずに声をかける。

すでに過去の住人になった思い出の若者に瓜二つのおもざしが、そっと彼の隣に並ぶ。


オレは人を引きとめるのがへたくそでね。


脈絡もなく話し出した彼に、隣に並んだ若者は黙って耳を傾けた。


親父も、引き留められなかったし…
あいつも…あの時のお前も…
引きとめてやれなかった。

あいつ、が誰を指すのかに気付いた若者が、大きな目を見張って彼を見上げた。

あんた。

そう言ったままふ、と視線を落として。

沈黙が辺りを支配するに任せる。

今更何が言えるか。
失う事の、耐えがたい喪失感に…嫌というほど苛まれることを知っている彼らに。


いくら俺でも、もうドジは踏まないよ。
三度もやればもう十分だ。
お前は…
もうどこへもやらないからな。

そう言って見下ろす彼の左眼は…

若者が失った…大切な…大切な人と同じ朱の色。



あんたとオレだけになったな。


若者が…その天眼の事を言っていると知りながら、彼は首をかしげてとぼけて笑う。


オレとお前だけになれる可能性って…天文学的確率で低いと思うけど…?


そう肩をすくめる彼の、声に重なるように、巨大なチャクラの気配。



「カカシ先生ーーー!!サスケ、帰ってきたのかってばよーー!!!???」





◇◆◇





もうそろそろ、任務報告は直接7代目にしてもいいんじゃないの…?
いちいちオレを通さなくてもさ。

彼にそう言われた若者は、それでも静かにかぶりを振った。


俺自身が。
俺を許せるまで。

あいつの前には立たない。

俺は陰からあいつを支えていく。


頑固なまでの…若者の一途さに…彼も苦笑するしかない。



うるさいのが来たから、次の任務に立つ。


コレ、報告書、と、几帳面な字の並ぶ書類を彼に渡すと、若者は鮮やかな瞬身で姿を消した。




◇◆◇




「7代目。もう出てきても…サスケには気付かれないよ。」


カカシが背後の木立に声をかけると、長身の若者が、まるでネコ科の猛獣のような…しなやかな身のこなしでカカシの横に立つ。


「お前の穏行は…相変わらず凄いもんだね。あのサスケに気付かせないんだから。」
「昔とった杵柄、ってやつだって先生。いたずらして追いかけまわされてばっかりだったからな」

そう言って笑う若い火影を眩しげに見上げて、カカシはまた思いをはせた。


あの時の…里長がこの若者であったなら。
あの時の里が、今のようであったなら。

あいつ(イタチ)も…あんな生き方を選ぶことは無かったであろうに。



すまない。
イタチ。



何も知らなかった…オレたちを…
何もできなかったオレを…

許せ、とはいわない。

だが、もう二度と。
同じ…苦しみを…誰にも与えたりはしない、と、オレはオレの左眼に誓う。


そうして…
お前がただ一人愛したあいつは…きっとオレたちが…





「ナル…7代目。サクラたちが探してるだろう。もう戻れ。」
「……でも…」
「今度あいつが帰ってきたら…お前に任務報告させてやるから。」
「…えっ!」

嬉しそうな火影を見上げて、カカシは晴れ晴れと笑う。







なあ、イタチ。

あいつも…

里も…

もう、大丈夫、だよ。







end



Update 2009/12/04