素直な尻尾


ちょっとお話の前に。

切りリクの続き…といった感じですので、
気が向かれたら、Presentsの「七夕語り」も見ていただくと、分かりやすいかも、です…!
ただ、ちょっと長いので……(笑)

勿論、読まなくても全然大丈夫…!…のはず……(笑)

続編がR-18バージョンでPresentにあります。「OnlyBirthday 前後篇」



その日。
木の葉の人々にとって…特別な日…


火影岩のてっぺんで、ナルトは膝を抱えていた。


そういえば…ずっと昔の父の日にも、こうして親父の顔岩の上に座り込んで拗ねてたっけ、と、ナルトは秋の日差しを目を細めて見上げた。


あの時は…先生が後から追ってきてくれたっけ……
額を膝にあて、懐かしい記憶をたどる…





「…ナルト…」


優しい声に静かに呼ばれて、ナルトの口元に自然と笑みが浮かんだ。

この人に名前を呼ばれて幸せにならなかったことがない。

膝に額をつけたまま、気配を柔らかくした若者の横に、また細くなった青年が静かに腰を下ろした。

「やっぱ、ここにいた…!こういうところは、お前って子供のころから変わってないねぇ…!」
のんびりとした声が隣から掛かり、顔を伏せたままのナルトのほほ笑みは更に深くなる。

何かあると、父親の顔岩の上にのぼってしまう。
落ち込んでいます、と表明しているようなものだが、ここだけが、唯一、正直に落ち込んでいられる場所だったので。

でもいつもこの人に見つかってしまって……。

「しょんぼりしてるとこなんて見られたくねぇからしょうがねぇって先生」
「…見られたくないって、誰に…?」
「…ん…?皆に…?かな…?」
「俺に、じゃなくて…?」
「……!」
その聞き方が、なんとなく憮然としていたので、ナルトは思わず声を出して笑いそうになった。

「先生には隠し事できないってアキラメテますから、俺。」
「おやおや。随分あっさりしてるなぁ、ナルト。」
「あっさり…?って何が…」
そう言ってようやく顔を上げたナルトは、隣に腰をおろしている上忍師の頭にぴょこんとまっしろな…狼…か、犬か、の耳が生えているのに気付いて驚愕した。


座っていなければ多分腰を抜かして尻もちをついていたところだ。


「せ、せんせぇ…なんでそんなカッコのまんまなんだってばよ…!?」




三か月ほど前の七夕の日。

中々心中を読ませないこの人に焦れて、つい…悪ふざけの度が過ぎて術を掛けてしまった。


犬塚家に伝わる秘伝の術。
後からよくよく調べたら、あろうことか閨房術のひとつで。

解術は……色々機嫌を悪くしてしまったこの人に施せるものではなくて。
(なんせ、閨房術のため…ダンセイとのコウショウ…アッチの意味での…が必要なのだ!!…)


なんだかんだとどさくさまぎれのまんま長期任務に出てしまい…


もう3カ月も、隣の青年の肌に触れていない事に改めて気付いたナルトは、とたんに強烈な「餓え」を感じた。

この「耳」がこの人についている、という事は、この人も、誰とも……

自分の異形の耳を見て、正直に嬉しそうになった若者を、青年は渋い顔で見返した。

「やだねぇ…お前…そんなエッチな顔で人の事見ないでくれる!?」

エッチな顔ってどんな顔だ、と自分の頬を指先でなぞりながら、となりの青年の顔を覗き込む。

「俺、そんな顔してる?」
「………」
一つだけ晒された右目が、イヤそうにすがめられる。が、ナルトはこれがカカシのてれ隠しだとちゃんと知っている。

カカシの…間近で見なければわからない…濃紺の右目に、自分の、慾にぬれたような顔が写りこんでいる。

…やべぇ…マジで俺って、”やりてぇです”って顔、してるってばよ…

なるほど、これがせんせの言うところの「エッチな顔」ってわけだ、と、妙な納得をしながら、指先をカカシの口布に引っ掛けた。

ちょっと眉を寄せたが、カカシは止めない。

右の人差指でそおっと口布を下ろしていくと、柔らかな白い耳がぺたん、と頭に張り付いた。

……緊張してるんだ……

ナルトは思わず笑みを浮かべそうになったが、本人が気づいてないらしい無意識のしぐさに、笑顔になったら絶対カカシはへそを曲げる、と、経験で分かるので、ぐっと奥歯をかみしめて、笑みをおしころす。

畜生。どうすんだってばよ!

随分と年上で、大人なこの人が可愛くてたまらない、と思う自分はどこかおかしいのだろうか。

そんなことをぐるぐる考えながら、左手でカカシの左肩をだきよせ、そろっと背中を撫でおろしていくと…

「ぇえっ!!先生っ!?」

ムードもなにもぶち壊しで、ナルトは声をあげてしまった。

カカシは分かっていたかのように憮然として前を向いたまま知らん顔をしている。

カカシの上体を抱え込むように後を覗き込んだナルトの見たもの。

上忍ベストの裾、随分とずらされてあわや、の部分まで下げられたズボンの上から……

モフモフ、というか、ふさふさ、というか、何と表現していいのか…わからないほど、立派な白く、長い、

尾が……


ゆらゆらと、リズムをきざんでゆっくりと振られていた!

「お前ね、耳がついてんだから、尻尾だって有るのはあたりまえでしょ!自分がやっといて、何をそんなにびっくりしてんだ、この馬鹿!」

あんまりまじまじを見ていたせいか、とうとうカカシが怒りだしてしまい、長い指の白い手に頭をがっしり掴まれておさえこまれてしまった。

せんせぇ、それ、やべぇ!

おさえこまれたせいで、カカシの尾の付け根のところに顔が寄ってしまう。

「せんせぇ!!半ケツになってるってばよっ!!そんなかっこでここまで…!」
「馬鹿かっ!!ここにきてから 変化を解いたにきまってるだろうが!!」

ああ、そうか、と、ほっとしたナルトは、下から見上げたカカシが真っ赤になっているのに気付いた。
自分が口布を下げてしまったせいで、白くほっそりした顎から耳元、首筋のきれいな肌が、薄く血の色をうかせて…

うぉ…まずいってばよ、せんせい、それ、反則……


潔く雷切の二、三発を覚悟し、押さえつける手の手首をつかんで自分の頭から外すと、上を向いて、その手を自分の方にひっぱった。

「…おい、ナル…」

戸惑ったような声を出しながらも寝ころんだ自分の上に倒れこんでくるカカシを抱え、腕に力を込めた。


「親父の命日に…親父の顔岩の上で…ちょっと不謹慎…かな?」

勤めて明るく言ったナルトに、カカシは、ぱっとナルトの体の上から起き上がると、その鼻をつまみあげた。

「いででで、せんせ、いてぇ…!」
「四代目の命日、って前に、お前の誕生日だろうが!」

カカシに鼻をつまみあげられたまま、ナルトが浮かべた笑顔は…

「そんな顔で笑うんじゃないっての!!」
「いてぇって、せんせ、容赦ねぇってぇ!」

大人しく鼻をつままれて、笑いながら文句を言ったナルトを、見下ろすカカシの表情の方が、つらそうで、ナルトはそれを見ながら、いかん、いかん、と両掌でパンパンと頬を叩いて起き上がった。

「俺、気にしてねぇつもりなんだけどさ、どうしても、なんかこう…」

いかん、と思いながらも、だんだん顔がうつむいてしまう。
こんなんじゃ、この人に心配をかける、と思った時…

「あたたたたっ!ちょ、せんせいっ!!」

今度は耳をひっぱりあげられてしまった。

「お前な、少しは考えろよ。なんで俺が、ここで変化解いてるのか!!」


ナルトはびっくりして自分の腹の上にまたがるカカシを見上げた。

狼耳と、立派な尻尾。

無くなったら、ヤっちゃったってことですねっ

とサイにつっこまれ、自分自身に変化することで、いつ、だれと、ナニをしたかの追及をかわしていたはずのカカシが…。


「え…もしかして…先生、それって……」
ナルトがびっくり顔から正直に嬉しそうな顔に変わっていくのを見て、つい口を滑らせたらしいカカシは、

「もういいよ!」

真っ赤な顔をそむけるようにして、また変化の印をきり…

終わる前にナルトの大きな手がカカシの手を握りしめた。


「それって…誕生日のプレゼント…?」
「……!!そんなこといちいち口にだすなっ!莫迦っ!!」

ナルトにつかみ取られている両手をもぎ放すように取り戻すと、赤い顔のままカカシは瞬身で消えてしまった。


膝の上から、ふっと消えた青年の重みに、ナルトは眼を見張ったまま、しばらく呆然と青年がいなくなって空っぽになった両腕を見ていたが、いつか体を二つに折って肩を震わせて笑いはじめていた。







◇◆◇



その日、夕方に。
七班や、同期の連中から、誕生祝いをしようと声をかけられたナルトは、嬉しそうな顔をしながらも固辞し、ほくほくと自分の家に帰ってきた。

途中で女の子たちに何人も誘われるが、ニコニコと愛想よく断って、早足になる。


きっと。


あの人は来てくれる。
いや、来てくれなかったらこっちから押しかけて、今日こそ、あのオプションを取ってやろう。


と、玄関の取っ手をにぎると、中にこの上もなく…よく知った気配。


玄関扉を引き倒すようにあけるとサンダルを脱ぐのもそこそこに部屋に駆け込んだナルトの見たモノ。


準備された豪勢な夕食と。
びっくりするくらいの量のアルコール。(半分は空。)

それと…

きれいな風呂上がりの酔っ払い。オプション付き…


だった。


─こーゆーの、なんていうんだったっけ?上げ膳?下げ膳?ちょっと違うな…
据え膳…!?だったってば??


首をひねりながらソファで、空になったグラスを持ったままうたた寝してしまっているカカシの横に正座して座ったナルトは、カカシの手からそっとグラスをとり、テーブルに置くと、両手を合わせて、行儀よく寝ているカカシに…頭を下げた。





「いただきます!」






◇◆◇




「……おまえ…いつまでヒトのケツ、撫でてるんだ…!」



見事な尾の消えたカカシの締まった尻を、シーツの下に手を入れて味わっていたら、不機嫌な声とともに、はたき落されてしまった。

叫んでからカカシはうーっと唸って頭を抱える。

「先生…飲みすぎ。」

ベッドサイドの水差しから、コップに水を汲み、ぐったりとシーツに突っ伏したまんまの相手の肩を抱えて、ゆっくりと起こしてやる。

「水、飲んでアルコール薄めなきゃ、もたねぇよ、先生。今日は任務無かったよな?」

「…ん…」

大人しくコップに口をつけるカカシをみるナルトは、つい、頬が緩んでくるのに困った。

黙ってコップから水を飲むカカシは、眉間にしわを寄せてこの上もなく不機嫌…そうにみえる。

けれど。

─先生ってば、そんなに照れなくったって…


カカシが昨夜の…事を、かなりきまり悪がっているのにナルトは気付いていた。

酔っていたせいか…箍が外れたように体を交えた。

いつも、どこかにストッパーを設けているカカシが…。



─やべぇ…、思い出したらまた起っちまうってばよ…!


耳や尾で、隠しおおしていた感情がナルトにストレートに伝わってしまうと、覚悟することで、カカシは今更、自分の情動を隠さなかった。

ところが、耳や尻尾の消えた今。

─また、仏頂面にもどっちゃったな。先生。

いつも、行為の後は、こんな仏頂面になるカカシが、以前はとても不安だったのだが。


─照れてるんだって…今なら分かる。


ゆらゆらと揺れる尾がなくても。
ぴくぴくと震える耳がなくても。


─…カカシ先生の感情が読めないって……
俺がテンパって、かってに不安がってただけじゃねーの…?


この人は、こんなに…


「お前…さっきからにたにたとヒトの顔見てナニ笑ってんだ、キモチワルイ!」
「き、キモチワルイって……せんせ、それってひでぇ…!」

ひでぇ、と言いながらもナルトは笑っていた。

カカシもそれ以上、何も言わず、憮然としたまま水を飲み…

いつか、カカシの肩も、含み笑いに揺れ始める。




この人はこんなに、俺が大好きなんじゃないか!





カカシの横に肩を触れ合わせたまま、窓を仰ぎみてナルトは独り言のように呟いた。


「先生。ありがとな。」


何が、といった視線が自分に当てられるのを感じて、ナルトの笑顔はさらに深くなる。


「生まれてきてよかった、って思えて。嬉しいってばよ、先生。」


憮然としていた青年の、両の眼が大きく見開かれ、その宿命の天眼に、若者の屈託のない笑顔が写りこむ。





父親が、その身を呈して里を守った日。それが自分の誕生の日だった。
自分が生を受けて、ほんの数瞬しか、互いの存在を同じ次元に感じられなかった。

重い課題を腹に抱え。

そうして生きてきた。



「生まれる事が出来たから、苦労もできたし、泣くこともできた。」
そう言いながら、ナルトは隣のカカシの手から、水の入ったコップを取り上げ、サイドテーブルに戻す。

「生きているから笑う事もできるし、こうして先生に振り回されることもできるって、やっとわかったってばよ。」


カカシは黙っていた。

黙って…そうしてナルトの頭を抱え寄せた。


「生まれてくれてありがとな。」
「………先生……それ…反則だって……」
「…ん…?って、ちょ、ナルトっ……!!!!ま……っ!!」




その日



その人の存在と…その言葉が、ナルトにとって、最高のプレゼントとなった。






勿論…数日、カカシが火影からの呼び出しに応じられず、火影が疑心暗鬼に陥ってしまった事など、ナルト達のあずかり知らぬことだったが…





Update 2009.10.10