リフレイン
act.4


〜過去へ、そして未来へ〜

「七歳のカカシ先生…激カワ…オレ、もう犯罪者になりそう…」

小さなカカシを家へ送って、そのまま引き上げるかと思いきや、近くの大木に身をひそめると、大枝にしゃがみこんだままナルトはにやける顔を手で覆ってそうつぶやいていた。

一目見るなり、直ぐに「彼」だとわかった。

火影の顔岩が二つ足りないのに気付いた時、ここが自分達の住んでいる木の葉でないことがわかった。
三代目の火影岩までしかない木の葉の里…

時間を跳んじまったんだ…俺…カカシ先生の神威で…
カカシ先生から話は聞いたことがあったけど…

さすがに呆然としたが…

小さなその人物を見たとたんに、その人物が理不尽な扱いを受けている、と気付いたとたん…

自分のこれからの身の振り方はひとまずどっかに棚上げしてしまっていた。
大人気ないと思いながら、思いっきり子供達の尻を引っぱたいていた…


人を煙に巻く言動も、瓢箪鯰(ひょうたんなまず)でつかみ所のない飄々(ひょうひょう)とした性格も、さすがに七歳当時からあったわけではない。
それどころか、他の人間…子供達よりもずっと生真面目で辛抱強くて、躾がいいではないか。

おまけに…

−なんつー美少年なんだってばよ!


左目の傷も、写輪眼も持たない小さなカカシは、幼いながら、はっとするほどの美貌の主だった。

−大人の先生は、あの猫背で何を考えてるのかわかんねー言動で、美男子だって気付かねーけど……って、あれ…?ワザと、なのかな…?


さっき小さなカカシに絡んでいた子供達の視線に、明らかに恵まれた容貌と資質を持つものへの妬みがあるのにナルトはちゃんと気付いていた。
(さと)いカカシが気付かない訳がない。

−苦労してたんだな、カカシ先生…
あんなに綺麗な顔、なんで隠すンかな、ってずっと思ってたけどさ。


顔を上げたナルトはふと表情を引き締めた。


−7歳だって言ってた。今、冬の終わり…ってことは…

あの悲劇がもうすぐカカシを襲う…。

さっきの子供達の言動も、カカシの父サクモの里での扱いが、変わってしまっている所為なのだろう。

−大人のカカシ先生に心配かけちまうけど…戻り方が分かるまで…俺はちっさいカカシ先生を守るってばよ…!


そう決心すると、ぐだぐだ考えてもわからない戻り方の事をすっぱり頭の中から振り払って、ナルトは20年以上前の木の葉の里を探検することにした。


勿論、ナルトは信じていた。

自分とカカシの絆がこんなことで切れるはずはないと。
自分は必ず彼のもとに帰れるはずだと。


思っているやつがいる所が帰ってくる場所…

昔、自来也に言われたことをナルトは本当に信じていたのだ。










一人ぼっちだ…
そんなことを考えたのは何十年ぶりだろう…

気が付いたら、アイツを目で追っていた。
小さなアイツを見ていれば、そんな孤独を感じることはなかった。
俺も一人、アイツも一人…。


最期のその時に…
あの人は俺に小さなアイツを託してくれた。

あの人の最後の望み。たった一つの願い。

『…あの子をたのむ…』

それがあの人の願いだったのに…





─ん 心配性だね カカシ君は…あの子はちゃんと帰ってくるよ 君のところに

……!先…生…!?

─今 あの子はとっても大事な「任務」についてるんだ

……任…務…?

─そう 失くしてはいけないものを 守りに行ってる もう少し 辛抱しておいで 大丈夫だから 




………!!




「綱手さま、カカシ君が眼を覚ましました。」

あまりに懐かしい声を聞いた気がして、びっくりして眼を見開くと、心配そうなシズネの顔がのぞきこんでいた。

「カカシ。気が付いたか。」

ホッとしたような綱手が声を掛けてくる。

「五代目…いきなり…ひどいですよ…」
「ばか者。当て身を喰らう時は腹筋をしめろ!お前ともあろうものがぼんやりして喰らうから…」
「カカシ君、肋骨にひびがはいっちゃってたんですよ」
シズネにそう言われ、カカシは額を押えてしまった。
「…五代目…何も骨折するほど殴らなくても…」
「人聞きの悪いことを言うんじゃないよ!当て落としただけだよ。殴ったんじゃないよ。」

殴って当て落としたんじゃないのか、と、カカシは思ったが。

−眠ってる間にひどく懐かしい人に会った。


不思議と気分の落ち着いていることに気付いたカカシは、ふと枕元に眼をやった。

…あ、これは…

カカシの視線に気付いた綱手が、そちらを見ながら苦笑した。

「まあ、お守り代わりだ。お前、この方が落ち着くだろう?」

そういって、カカシが見ていた「もの」を手に取り、ゆっくりシズネに起こしてもらったカカシに手渡した。


…先生の特注クナイと、父さんのチャクラ刀…

「…カカシ。落ち着いたようだな。」
「…まあ。そうですね。ナルトが死んだ感じはないんです。アイツに何かあったら多分俺には分かる。だからアイツは生きている。落ち着いて感覚を澄ませばそれが分かるんです。今は…遠いですが…」
「カカシ…」
カカシはふと顔を上げて綱手たちの方を見やった。
「変ですかね…?」
その、あまりにも素直な眼差しを、綱手は眼を細めて受け止めた。
「いいや、変でもなんでもないさ。あいつはミナトの一人息子で、自来也の愛弟子だ。どんな規格外の事をやらかしてもアタシゃ驚かないよ。」
「…はは…そうですね…」

穏やかに笑うカカシをみながら、綱手は、この青年がまた一歩前に踏み出したのに気付いた。

幾つになっても人は成長するんだ。
アタシも負けていられないね。

「気が付いて、しゃっきりしたのなら丁度いい!骨折が直るまで、お前、アタシの秘書官の仕事を任命するよ。体は動けなくても頭は動くだろう!」
「…!!つ、綱手さま…!?」
「幸いにも此処は火影の執務室の隣だ。色んな情報もまっさきに飛び込んでくる。あのドタバタ忍者の帰還を待つ間、しっかりアタシを手伝いな!」

カカシは呆れたような表情で五代目を見上げる。

…思ってくれる人のいる所が帰る所… 自来也さまに言われた、とアイツが言ったことがある。
なら、アイツの帰ってくるところは…

カカシは師の形見となったクナイを懐にしのばせ、ゆっくりとその白い頬に笑みを刻み、頷いた。


転んでも只で起きない蛞蝓姫(なめくじひめ)は、こうして願ってもない優秀な秘書官を手に入れたのだった。



to be continued…


Update 2009.01.15