リフレイン
act.1
〜過去へ、そして未来へ〜
肌寒さにふと眼を覚ますと、半裸のまま、ナルトの腕に抱え込まれていた。
布団は寝相の悪いナルトが蹴っ飛ばしてしまったのだろう、ベッドのしたに落ちていて、事後のほてった体はすっかり冷えて、暖は熱いナルトの体だけだった。
ナルトの腕を解いて布団をひっぱりあげるのも面倒で、カカシはナルトに体を寄せ、肩口に顔を埋める。
−こいつ、なんでこう体温高いのか…未だお子様なんだーね。
そうゆめうつつにナルトの幸せそうな寝顔を見上げた。
あごの下に、見慣れたような、見慣れないような、妙なアザになった怪我の痕がある。
「…?」
九尾の所為というか、おかげで、ナルトは怪我は直ぐに跡形もなく治ってしまうのに…
−なんでこれだけ…っていうか、俺、この怪我、見覚えがないか…?
大事な大事な子供の頃の記憶…大切な人の記憶…
眠気に妨げられながらその記憶を追おうとしていると、
「んんーー先生、未だ寝ててもいいんだってばよ…」
寝ぼけ眼のナルトに更にぎゅーっと抱え寄せられる。
「…寒いって…ナルト、布団が…ってか、苦しい…!」
「あーうー、布団…ふっとんでった〜」
実にくだらない洒落をむにゃむにゃ呟くと、ふわっと紅いチャクラが膨れ上がり、落ちていた布団を包んでかぶせてきた。
…なんつーチャクラの使い方してるんだコイツ!無尽蔵なチャクラもってるコイツにしかできない贅沢な技だよな…
そう思いながら、ようやく温まって、眠気が耐えがたくなってくる。
布団に籠るナルトの体臭が、不思議な安堵感をもたらす。そうして更にカカシを眠りの縁にいざなっていった。
いつも、人生の節目に…苦難に直面し、心が折れそうになった時、彼の背を支え、手を差し伸べてくれる人がいた。
見上げる長身、蒼天の瞳…太陽のように輝く黄金の髪…そして、底抜けに明るい笑顔。
ずっとずっと、それは先生だと…思っていたのだけれど。
ミナト先生ただ一人が味方してくれる大人だと思っていたのだけれど…
小さな子供の心は、忍の技術は磨けても、広い視野で周りを見ることが出来ない。
自来也や綱手、たくさんの大人たちが、それぞれ心を砕いてくれていたのを理解出来るようになったのは、四代目を失って絶望のどん底にいた時の事。
火影を失って辛いのは里人全てが同じ事なのに…
その人は自分を広い胸に硬く抱きしめて…頬に優しく口付けを落としながら言った…
−大丈夫…里はちゃんと平和になる…大丈夫だってばよ…!
!!!!?
あれは…一体誰だったんだ…?
いつも身に付けているこの3つのタグを、ナルトが気にしているのにカカシは気付いていた。
この年下のかわいい恋人は、所かまわず盛ってくるのが困りものだったが、おおむねいいオトコに育ったのではないか、と、カカシは保護者よろしくいたって満足していた。
たまには妬き餅のひとつも妬いてほしいらしかったが、カカシはその事件がおきるまで…
ナルトにかわいい女の子の恋人が出来れば、きちんと身を引く覚悟は出来ているつもりだった。
いくらなんでもな…14も年上の男をいつまでも相手にさせておくわけにはいくまいよ…
四代目に申し訳が立たないからね…
それが、自分自身をも欺いているのだと思い知ることになるのは…
暁を殲滅した後も、五大国は中々平穏無事とは行かず、カカシやナルトクラスの忍は、やはり引っ張りだこで任務に借り出されていた。
厳しい任務になった。
下忍、中忍に応えられる任務ではなかったが、どうしても人手が入用で…
結局彼らがカカシとナルトの足をひっぱることになった。
庇いながら闘うのでは埒があかん…!
額宛を外すカカシに、ナルトは、静止の声を上げたが…
九尾のチャクラを戦闘に使うことを、その時フカサクから封じられていたナルトにはカカシを止めることが出来なかった。
踏み込んでくる敵をかわしながら、本隊の補給物資を「飛ば」そうとした。
っ!
敵の苦無が首筋を狙う。
かわす、アンダーを引っ掛けられる…ドッグタグのチェーンが…
「あ…!!」
その時既に神威は発動していた。
吸い込まれるように、くるくると回りながら、3つのタグと鎖が異空間に引きずりこまれていく。
………!!!
しかしカカシは神威の発動を止められない。
こうして、また、形見すらも失うのか…
その時…
「ちょ…!!まてってばよーーーー!!!」
そういって、小さな認識票を追って手を伸ばした者がいた…
「ナルト、馬鹿、もどれ!!」
カカシは多大な後遺症が残るのを承知で左目を閉じ、手で押えて神威の発動を終わらせようとしたが…
「うわあああったった…!!」
「ナルト!!!!!」
異空間に吸い込まれていく補給物資の中に、カカシのドッグタグを握ったナルトが混じっているのを…
カカシは藍色の右目で呆然と見つめていた……
to be continued…
Update 2008.12.29
この話は、memoブログの小話、「ドッグタグ」を書いたときに一緒に考えていたお話です。
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