Poison
〜アナタは甘い毒で出来ている…〜




止めろ、と言われていながら、相手が自分に甘いのをイイコトに殆ど無理やり、といっていいような強引さでコトに及んでしまったナルトは、翌朝おきられなくなった相手に、かなり慌てた。

強引ではあったが、いつもより、そんなに無理をしたつもりはなかったので、焦ってぐったりしている恋人を抱え起こした。

「だ、だいじょうぶか…せんせ…!?ってか、どーしたってばよ?」
「………」

相手の口がパクパク動いて、ドウシタもこうしたもあるか、と、声に出さずに抗議してくるのをききながら、
「そ、そんなにきつかったかな?」

そう聞かれて、綺麗に眉をしかめた青年は、パタパタと手を振って、放って置いて欲しいと身振りで示した。
そっとしておいた方がいいのか、介抱したほうがいいのか、介抱ってどうすればいいのか、九尾を身内に宿すせいで、寝込むほどの怪我も、病も、とんと無縁のナルトは、途方にくれて、うつ伏せたまま荒い呼吸をする年上の恋人の白い背をなでた。

白い背のあちこちに散る紅い痕は、昨夜自分がつけたものだ。

何がしかの所有欲を満足させて、半ばウットリとなでている背を眺めていると、

「う…」

と、短い呼吸が切羽詰った声をあげ、白い背が波打つように震えた。

「せ、せんせ?」

「…………吐…く…………」
「え?、え、ええ!?」

ぐ、と、口を押えたカカシを、ナルトはシーツにくるむと、慌てて洗面所に抱えて運んだ。

シンクに顔を突っ込むようにして背をなみうたせているが、もどすものは胃液だけだ。

…こりゃあ、もどすものがねぇと苦しいってばよ…

もどすカカシよりも背をさするナルトの方が死にそうな顔をして、

「大丈夫か、先生、サクラちゃん、呼んでこようか…?」

わざとサクラの名をだしてみるが、いつも飛び出す憎まれ口もない。

その内に、ざぁーっと白い背中に紅い発疹が広がり始め、ナルトの付けた愛咬の痕と混じって壮絶な様相を呈してきた。

「わ、わ、わ!!カ、カカシ先生!!タイヘンだってばよ!!なんか…どうしたんだってば〜〜〜〜!!!」










その日、火影屋敷はナルトの急襲を受け、大騒ぎになった………


シーツに包まれた、全裸の「写輪眼のカカシ」が、気を失ったまま、担ぎ込まれたのだ…愛弟子のナルトによって。




綱手は、指先でこめかみを揉み解しながら、点滴と酸素吸入のマスクをつけたカカシのベッドサイドに立って、小さく縮んでしまったような大柄な青年を睨みつけていた。

「カカシは止めろ、と言わなかったか…?」
「イイマシタ…」
「それでも無理やりやったんだな…?」
「ス、スミマセン…」

二月にも及ぶナルトの単独任務、その間に『済ませて』しまおうと思った綱手とカカシだったが、意外性忍者のど根性を勘定に入れ忘れていた…

「予定より半月も早く帰ってきおって…」
「…へ…?」

綱手は、事情がさっぱり飲み込めないナルトに、ため息をつきながら説明した。

「カカシはな、ナルト。サクモさんの教育方針で、子供の頃から毒物に対する耐性を付ける訓練を受けてきている。だから、一般人が瞬殺されるような劇物にも耐性があるんだ。」

綱手のその言葉に、大柄な若い忍者は眼を見張った。

「薬への耐性は一年二年の短期間に付くもんじゃない。カカシは二十年以上体を毒物に体を慣らしてきている。」
「………!!……」
「大概の薬には耐性がある。だから、新薬の仕上げに、いつもカカシに被験者になってもらってるんだ。」
「ヒケンシャ…ってなんだってば…?」

「………薬を 自分の体で 試す 人のことだよ…」

酸素マスクを通した籠った声が、ベッドからきこえ、ナルトは飛び上がってまだ呼吸の荒い年上の恋人のそばに駆け寄った。

「先生!!!」

「で、だな。お前が居ると何かと面倒だから、留守の間に一月の被験を頼んでたんだが…」
「……」
「薬を試してる間は、余分な刺激がどんな副作用を起こすか分かったもんじゃないからね。アナフィラキシーショックを…起こす危険がある…」
「穴…振り…なんだってば…?」
「アレルギーの過剰反応だよ!!詳しく説明してもお前には理解の埒外だろうから、はしょって言うとだな!」
「……うん…」
「被験中に余分な刺激を受けると命の危険のあるアレルギーが起こる可能性があるってことだ!!」
「……へ…?」
「普通の生活ならともかく、sexなんぞもってのほかだっ!!!」
「……げ……!」
「お前の×××が被験中のカカシにアレルギーを引き起こしたんだよ!!」


「………!!」

「わかったかい!この考えなし!!」

女丈夫の大喝をくらい、眼に見えてしおれる大柄な青年は、カカシにとって可愛らしいものだったが、今回の騒動は、笑って済ませられるものではなかった。

綱手の研究は、里にとって最重要なもので、被験者を引き受けられるのは自分だけである。
ナルトの留守にしか引き受けられないのでは効率が悪い事この上ない。
どうやってナルトに慎ませようか、と考えていたカカシは、綱手の独り言に耳をそばだてた。

「しかし、ナルトのナニでアレルギーが起こるのは興味深いね。カカシがやられたんなら、抵抗できるヤツは居ないってことになるね…」
「…しらべ…ますか…?」
ベッドから、くぐもった声でそう聞かれ、綱手の目が、フィーバーしているパチンコ台の前に立ったように光った。


「よし、ナルト!!お前、検査の邪魔をした罰として、お前も被験者になってもらうよ!!」
「お、オレも毒とか飲めばいいってば?いいってばよ!俺、なんでもするぜ!カカシ先生をひでー目に合わせちまった、償い、しねーと!!」
償いなどという小難しい言葉を良く知ってたな、と、綱手は内心思ったが、可愛い四代目の遺児に意地の悪い突っ込みはせず…にっこりと妖艶に微笑んで言った。

「お前が毒を飲む必要は無いさ。ちょっと、提供してくれりゃあイイ。」
「ていきょう…ってなにを…?」


「おまえの、血液、唾液、汗に涙、それと…」
「な、な、なんだってば…!?」
「精液だ!!!!」

「!!!!!!?????な、な、な、!!!??!!」

「お前の体液のナニがカカシの飲んだ毒物と反応したか調べるんだよ!たっぷり提供してもらうよ!!」
「ちょ、まてって、ばーちゃん、血液、涙、汗はともかく、せ、せ、せい…ってどーするってばよ!?ばーちゃん、セクハラする気かよ!?」

その一言で、綱手の右手が握りこぶしになった。

ひ…と、ナルトは一歩下がる。
何しろ、あの、自来也を殺しかけたこぶしである。

「何が哀しくておまえの ピーーーーー なんぞ触りたいもんか!!カカシにやってもらうよ!!目いっぱいしぼりとってやんな!!」

そういわれて、なんとなく、正直にうれしそうになったナルトを見て…

カカシは点滴の付いてない手で酸素吸入のマスクを抑えながら ゆらり と ベッドの上に上体を起こした。

「バケツに…3杯ほども…あれば…足りますか、五代目…?」

さすがにそんなにいらない、と思った綱手だったが、カカシの片手に雷切がバチバチと青白い閃光を発して浮かんでいるのを見て、ゴクリとつばを飲み込みながら頷いた。

「カ、カカシ先生…それ、しゃれに なってねーって…」

綱手は後ろにじりじりさがるナルトの背後に回ってがっちり捕まえると、

「しっかり搾り取っておくんだよ!暫くお前に悪戯できないようにね!!」

そういって、ベッドのカカシの方にナルトを押しやった。


「わ、や、ちょっと、カカシせんせ、目がマジ…ってか、今動いちゃ拙ず…ちょ、せんせぇえええええええ!!!!」




怒れるカカシへの貢物にナルトを残し、五代目は新たな資料が手に入ることで大満足しながら病室を後にした。


木の葉を預かる女丈夫は、ころんでもただではおきないのである……


end

Update 2008.11.29