天上天下にアナタだけ…! 3


年をとると就寝時間は早くなる。

それは忍あがりのホムラとコハルも同じ事で、その日、色々な悩み事で寝付けなかった彼らが、ようやく眠りの縁にたどり着こうとしていた時。


屋敷をおとなった使者に、たたき起こされることになった。


「六代目からの呼び出し…?」


しかし、彼らは、彼らの情報網から、重大事の知らせを受け取ってはおらず、大した事だとは思わなかった。

勿論、カカシの出頭を命じた…カカシを拘束してつれて来い、と命じた…暗部たちは戻ってきておらず、よって六代目に捕縛されている事など彼らには思いもよらなかったのだ。


「年寄りをいたわってもらいたいの。明日にせい、明日に。」


そういって二人とも六代目の呼び出しに応じようとはしなかった。
そうして、勿論その判断を後悔する事になるのである。


















「シカマルの言ったとおりだったわね」

腰に手をやって、仁王立ちし床に転がされた「モノ」をみてサクラは、あきれたように言った。


ナルトは行儀悪くも火影の執務机に載せた足をくんだまま、無言だ。



ナルトをかこんで、この時執務室には、里の主だった忍が集まっていた。
勿論、未だ動けないカカシを除いて。

殆ど全て、六代目ナルトの支持派である。

別に選んで召集したわけではない。

公平に召集をかけて見れば、集まったのがこの面々だったのだ。

ナルトの同期だけでなく、その父親の世代、カカシの同期の世代もいる。
みんな、里の行く末にかかわる立場のものだったが…

なぜかご意見番の一派は姿を見せていなかった。


「全く。自分達が召集かけるときは早朝だろうが深夜だろうがお構い無しの癖に。」


医療班の中心として、綱手に信頼を受けているサクラは、綱手の名代として、いのと供に出席していたし、体調を崩して参加できないものは、名代を立てていた。


なので、より、ご意見番たちが現れないのが悪目立ちしたのだった。


「これで欠席裁判なんていわせないわよね。シカマル…?」
「……ああ。」

サクラが必死に気を使って話を進めようとするが、いつも陽気な火影さまがおしだまって、床に猿轡で転がされる暗部を無表情にみているので、一向に気勢が上がらない。

父親世代は、若い彼らがどういった判断をくだすか、見守る体制だ。

年若いナルトを長に選んだ以上、必要以上の口出しは控えるべきだ、助言を求められたときに手を貸せばよい、そう思い定めている。


「六代目。どの手を打つ。」


内輪では、今でも六代目はナルト、と仲間から呼び捨てで、それが当たり前のようにうけいれていたが、こういった場面で彼を呼び捨てる仲間はいない。
きちんと公私を分けているのだ。

あの老人達以外は。


「言う事をきかねぇ手足はいらねぇな。」


腹の底に響くような声が、執務机から聞こえてくる。


ゆらり、と、長身の火影が立ち上がった。


内心で、「小僧」と侮っていた、4人の暗部は、恐ろしさの余り、若い火影から目が離せなくなった。









写輪眼を封じられた「嘗ての英雄」の病室で。

彼の本来の力をまのあたりにしたことのない若い暗部4人は、チャクラ切れなら簡単に拘束できる、とふんで、あからさまなごまかしで連れ出そうとし…

ごまかしに名を出した当の六代目にその場を目撃されてしまったのだ。


その六代目を偽者、と、断じる事もかなわぬほどの、あからさまな……尾獣のチャクラ。


歯向かうどころか逃げる事も、命を絶つ事さえかなわぬほど、魂が怯えた。


六代目火影のチャクラに当てられて、歯の根も合わぬほど震える自分達に反して、病床の青年は、ただ、苦笑していただけなのが、強烈な印象として残った。


そして、それがえもいわれぬ敗北感となったのだ。
自分達が立ってもいられないくらいの濃密なチャクラのうずのなかで…あの病人は平然と…それどころか心地よさげに微笑んでいた………









「手足に自分勝手で動かれたんじゃ不便でしょうがねぇ。本日、今この時をもって、暗部は解散する。」








六代目のその宣言で、里に激震が走った………















面会要求がやっと通ったのは何度目の申請だったか。


ご意見番のご老体ふたりは、カンカンに怒って火影室に乗り込んでいった。


─暗部を解散する!?勝手に何を決めているのだ、あの若造は!!オマケに、忙しさにかこつけて、我々と会おうとせんとは!叱られるのが解っておるので逃げているのだろう。






この時点で二人は、カカシを拘束に向かわせた暗部たちが戻ってきていないことをすっかり失念していた。

ソレを思い出していれば、また思案の方法もあったであろうが。

カカシが暗部で辣腕を振るっていた頃にはすでに二人とも一戦を退き、戦場に漂う血臭も、精神を削る命のやり取りからも遠く隔たっており、肉体を使う戦いの勘を鈍らせていた。
彼らが研ぎ澄ませていたのは政治家のそれ…

しかし、政治家の勘で、数多の戦いを生き延びてきた男たちを推し量っている事に気付かず、二人は普段の瓢箪鯰(ひょうたんなまず)な上忍師としてのカカシしか頭になかったし、彼に叱り飛ばされている六代目しか念頭に無い。

そういった二人を用心しようが無かったといえるだろう。

暁と戦っていた二人をその目にしていれば、自ずと考えも変わっていただろうが。


しかし。

それは過ぎた事である。

人は自分の物差しでしか、計る事は出来ない………



そうしてこの二人のご意見番は手痛い教訓を受け取る事になったのだった。











一つ、あれの「元・指導教官」と供に、手痛い説教をくれてやろうと火影室に入っていった二人は、その部屋の様子ががらりと変わっていたのに思わず立ちすくんだ。


いままで、どこか、陽気で人懐こい若い火影の人柄を表すかのように、親しみやすい、居心地の良い空間をかもし出していたのが。


ひっきりなしに伝令、連絡鳥、そして、指示を仰ぐ中忍、それらの出入りでものすごいあわただしさで、どこか今までになく殺気立っている。


しかし、老人二人はそれを意識の外においやり、六代目のところに詰め寄った。


「ナルト!!」


声をそろえてしかりつけるように呼んだが、シカマルと熱心に打ち合わせしている六代目火影は書類から顔を上げもしない。

「ナルト!これ!!顔を上げぬか!!いうて聞かせる事がある!!」

ホムラに襟をつかまれ、ひっぱられてようやく六代目はシカマルとの話を中断した。

「ナニを勝手な事をしておるのか!誰に断って暗部の解散など、決めたのじゃ!」
「専横もはなはだしかろう!」

そう詰め寄られたナルトは…

襟をつかまれたまま、ゆっくりと立ち上がった。



蒼い稲妻のような眼差しが上から降ってくる。



ここに至ってようやくご意見番の二人の老人は、若い里長の様子がいつもと違う事に気付いた。



「あんた達に言い聞かせられるような事はなんにもねぇってばよ。」

「な、なんじゃと!どの口がわしらにそんな事をぬかすか!!」


口々に叱ろうとする老人二人に、執務室にいた者たちは、自然と動きを止め、ざわついていた空気も静まり始める。

老人二人を除くと、周りの人間はみな、暗部解散を決めた火影の怒りを目の当たりにしていたのだ。

が、まだ、ご意見番二人は気づかない。


「そもそも、我らに断りもなく、暗部解散をきめるなど…」


「我ら、とは誰の事だ。」



低く響く若者の声に、老人ふたりは、しばし、口をつぐんだ。


言われた意味がわからなかったのだ。




「解らないか?」

「……な、なんじゃと…?」

「里長のオレが、断りを入れなければならない『我ら』とはいったい何者なんだってばよ?」
「な、な、ナニをぬかしおるか!!我らはご意見番として…!」
「そうか。意見は聞いた。下がってよし。」

そういわれたご意見番二人の表情は、「唖然」という表情の見本のようであった。


「暗部はそもそも火影であるオレの直轄の忍であるはず。なんでオレのしらねぇ仕事をしてるんだってばよ?」
「……む……」
「其処ですでに暗部の意味はねぇ。オレの支配下にない者は暗部とはよばねぇし、そんな者はいらねぇ。それがなんか変か?」

「今まで暗部がこなしてきた、暗部にしか出来ぬ仕事はどうするつもりじゃ!!」

衝撃から立ち直ったコハルがそう叫ぶが、それへの火影の答えを、ご意見番だけではなく、その場にいた者すべて、耳を済ませ、まった。

暗部をなくす。

それは、ある意味英断かもしれない。

しかし、暗部という、特別なスキルをもった忍しかこなせない仕事、それはどうしてもなくなりはしない。

それをどうするのか。

火影はどう考えているのか。

まわりが固唾を飲んでいると。


「俺がやる。」


若い火影は何の気負いもなく、あっさり言ってのけた。



その場に落ちた沈黙。



失笑を漏らしたのはホムラであった。



「たった一人で何が出来るというんじゃ!ハッタリもホドホドにせい!」


周りの者も、その通りだと思ったのだろう、不安が影のように執務室を覆い尽くそうとした時…


ぼぼん、と、若い火影の姿がぶれると………


広い執務室が、数十人の長身の火影で埋め尽くされた………




「誰が一人だって……?」


「………!!!!!!………」



周りを数え切れない火影に囲まれた人々は、呆然として辺りを見回している。

─す、すげぇ……

普通の忍では、数名に分身するのがやっと。

だがコレは実態、判断能力、すべて「オリジナルなみ」の多重影分身。



しかし、二人はそれだけで恐れ入ったりはしなかった。

一時の衝撃から立ち直ると、即座に反論してきた。

「そんな、そんな無理が何時までも利くものか!!そもそもチャクラが持ちはせん!!」


「チャクラ……?」


オリジナルの火影は失笑した。

こいつらは、結局オレの事を何も分かっちゃいねぇんだ。

こういう時だけ、只人扱いをする。



「チャクラ量を心配されたのは生まれて初めてだってばよ。オレは『バケ狐』じゃなかったの…?
こういう時はすっげぇ役にたつんだけど…?
俺が選んだ上忍、中忍のフォーマンセルに俺がくっついて班を作って任務につかせて経験をつませる。
俺が付いてりゃ任務の途中でそいつらを死なせたりはしねぇからな。」


暑苦しいほどの人数の火影の所為で身動き取れなかった人々は、ぼふんと火影が影分身をといてくれたお陰だけでなく…

『そいつらを死なせねぇ』

その言葉でこの新しい火影の、自分達に対する「気持ち」…使い捨ての道具ではない、人として、部下をまもろうとする気持ち…に、改めて触れて、ほ、と息をつく。



しかし、当の老人達には、若い火影の気持ちが届いていなかった。



くちばしの黄色いひよっこ、と、侮っていたナルトに言い負かされた形のご意見番は、とうとう、その一言を。

なんの危惧もなく。

……口にしてしまっていた。


「お前は師からどのような教えを受けてきておる!!秩序をまもれ、と、教え損のうたカカシの失態よ!!」
「丁度、連れて来る様に命じておるからの。一緒にきつい灸をすえて……………」



!!!!!!!!!!!!!



その時、執務室は肌を刺す殺気で一気に満たされた………!




















カカシ先生に、手をかけようとしたのはやはりこいつらか…………!!


俺カラ カカシ先生ヲ 奪ウ気ダ………!




まずい、と叫んだのはシカマルだったか…


──アレはナルトの未だ癒えないトラウマだ…!カカシ先生を…亡くしかけた……!!



ふしゅぅ …


若い火影の長身から、深紅のプロミネンスのようなチャクラが吹き上がる。



──面倒くせぇな…。いっそ先生に二度と手を出せねぇようにしてしまうか……



金色の溶鉱炉のような双眸が、動けない老人二人を無感動に見つめていた………





続く…


Update 2009.04.11