天上天下にアナタだけ…! 2




シカマルは、本日何度目かの深いため息をついた。

あの老人達は、虎の尻尾の周りでダンスを踊っていた事に気付いていないのか。

この幼馴染がどれだけの忍耐力をつかってあの二人の相手をしたのか、ようやく思い至って、渋い顔をした。

「影分身を二人置いていけ。」
「…え…?」
「オレが仕事を片付けちまったらお前の勉強になんねーだろーがよ!影分身くれぇおいていきやがれ!ったく面倒くせーやろーだなっ!!」

正直にうれしそうな顔になったナルトは、ぱっと雲間からひかりがさすように笑顔になった。

ぼふん、と3人になった火影は、

「恩にきるってばよ!」

そういって一人瞬身で姿を消した。












腹の奥底から熱が、どんどん、どんどんとめどなく溢れてくる感覚がある。


コレはアイツの「熱」


もう、見守る役目も終わったと、…そう想い定めた自分を、強引に引き戻した、


コレがアイツの「想い」

















かすかな物音さえ立てず、その人影は病室に入ってきた。

何の気配もない。



病床は夜の蒼い光に満たされ、両目を包帯で覆ったその青年の横顔を白く浮かび上がらせていた。
入ってきた人影は、ベッドの横に静かに佇み、じっとその整った面貌を見つめている…と、



「仕事はどうした、六代目…?」



人形のように見えたその色の薄い、形のいい口元から、冴えた声音が訊ねて来る。



「ちぇ、先生、気づいてたんだ…?気配は完全に切ったつもりだったんだけど。」

真面目に悔しそうなその若々しい声に、病床の青年は微笑を深めた。

「お前の匂いは間違えようがないよ。ナルト。」
「えーーオレの匂い…って…どんなんだよーーオレってば、そんなにクサイ?」
青年の微笑はさらに深くなる。
日向のにおい。若々しい、草原の草いきれ、風の香り。
……自由な、未来の香り。

「オレはでもカカシ先生の匂いが好きだな。」
そういって大柄な若者は病臥した青年の首筋に顔を埋める。

鼻で頚動脈を探るように肌をまさぐる若者に、青年はくすぐったそうに首をすくめた。

「よせ、ナルト…」

言葉では止めながらも、くくく、と、喉の奥で笑って、したいようにさせている。

「あーーー、いい匂いだ…カカシ先生の匂い…」
「どうせオッサンくさいって言うんだろ。」
「カカシ先生って、すぐそういう。自分で自分の事おっさんなんてさ。ホントにそんな事おもってるわけ…?」
「さ、どうかな…ナルト。」

ナルト

この人にそう呼ばれるのが好きだ、と、若者は思った。

昼間、年寄り達にそう呼ばれることにいらついたとしても。

この人の音楽的な声で、なると、と呼ばれると、それだけで幸せな気分になる。


「それで仕事はどうしたって聞いてるでしょ…?」
「今は勤務時間外だってばよ。」
「…火影業務に勤務時間ってあったっけ?」
「……オレが今作ったんだってばよ…!」
「……いいかげんな火影さまだな…!」
「副官が真面目だからコレくらいで釣り合いが取れてるんだってば。」

火影のちゃらんぽらんを副官の自分が補いをつけているのだ、というこの台詞をシカマルがきいたら、烈火のごとく怒っただろうが。


「シカマルにあんまり迷惑かけるんじゃないよ、ナルト」
「かけてねぇってば。…今のところは…」

おいおい、と笑う青年の病衣の胸元をはだけ、なめらかな肌に頬擦りする。

「……ナルト…」

「今日は疲れたってば。カカシ先生は寝込んじまうし、うるせー年寄りに仕事は邪魔されるし。おかげで残業だし…」
「ナルト…」
「だから、ここでカカシ先生を補給させて…?」
「ナ…」
肌をまさぐるだけだった若者の動きが、だんだん艶めかしくなってくる。
尖ってきたなめらかな胸筋の飾りを、指先が捏ね始め…

─あ……

青年の息がかすかに乱れる。

「……ナ…ルト、お前…こんな所で…」
「…ナニ…?」
「…ちょ…ナルト、まて…あ…」
「ちょっと触るだけだって…ちょっと…だけ、な…?」
「何がちょっと…んんっ!!」

視力を封じられているため、ナルトの手が、唇が、どこに触れてくるかさっぱりわからないカカシは、あらかじめ気持ちの備えができない所為で…

──あっ あっ……!!

「ナ…おま…!暗部が…見てるだろうが……!」
「大丈夫だってばよ…!今の暗部にオレを追えるヤツはいねぇってば。気配を消したんじゃなくて仙人チャクラで覆ってっから、探しようがねえって!火影室には「オレ」二人とシカマルがいるし!」
「…ナル…」
「だから安心して…」

そういってナルトがカカシの下着の中に手を差し入れた時…。

「「!!!??」」


扉の前に、複数の、「気配を消した」気配がした。

ナルトはカカシの病衣を整え、瞬時に窓際に潜んだ。




ひっそり入ってきたのは4人の暗部。





「はたけ上忍。起きておいででしょう。」
「少しご足労願えませんか。」
「………何処へ…?」

それまでの行為を少しも感じさせない平坦な声で、病床の青年が問う。

「申し上げられません。」
「誰の命で…?」
「………さ、起きてください。それとも。」

「無理やりにでも引きずりおこされたいですか…?」

カカシがチャクラ切れで動けないのを知っているのだろう。侮りにも似たその言動に、しかし、当の本人は、怒りを見せない。

「誰の命令かくらい教えてくれてもよさそうなもんなんだけどねぇ。隠したってわかるでしょうよ?」

平然とする青年に、少しいらだったのか、一人の暗部が、低く…言い放った。


「六代目火影様のご命令です。」

















窓際に潜んだナルトはその暗部の台詞を目も眩むような怒りで聞いていた。


何処の六代目が、仲間を守ってチャクラを使い果たした上忍師を病床から引きずり出そうというのだ。

まあ、体力を奪いかねない行動をしようとしていた事はこの際目を瞑る。


だが、当の本人がおとなしくしているので、立ち上がるタイミングを掴みかねていた。
こういう場面は、カカシの方が、ナルトよりも数十倍場数を踏んでいる。

と…



「あーー、六代目のとこにいくの?」
「………そうです。」
「そんならわざわざここを出なくていいんじゃないの…?なあ、六代目…?」



そう話かけられて、ようやく自分の出番を知った若者は、己を覆っていた蛙チャクラのシールドを解き、自らの強大なチャクラを開放し、立ち上がった………





「そんな命令をだしたのは、何処の六代目だってばよ………?」




続く…


Update 2009.04.04