眼交いに もとなかかりて…



Clap Ver.9
こののお話は、Other にある、「高天原幻想」の姉妹作…みたいな感じです。

そんなのでも大丈夫さ、な、男前なお嬢様、おいででしたら、お付き合いいただけると嬉しいです…!





◇◆◇ 眼交(まなか)いに もとなかかりて… ◇◆◇


サスケ。
いくつになった…?


兄さんより5歳下だよ。知ってるだろ。


そうか…すると…もう……



     *  *  *  *




風が 岬の突端にたつ若者のマントの裾をさらっていく。


沖から吹き付ける風は冷たくて、とても7月の海とも思えなかった。



サスケ…


あの人が、呼んで。
自分はいつも、まるで犬の仔みたいに、あの人の元へ…転がるように走っていった。



サスケ……



あまり変わらない表情の中に、あふれる情を、今の自分なら知っている…




サスケ……ほら…彼が…待っているぞ…



もう少し…いいだろ、兄さん…






若者の、たぐいまれな天眼が、遠い過去に見てきたもの。


時折視界に横切る、幼い頃の自分。
いつもいつも、視界の中心にある、小さな自分の姿。



若者の、その朱い瞳の、かつての持ち主が…いつもいつも見つめていた……




「サスケ。そろそろ…行くぞ…。」

ふ、と、若者の傍らに唐突に現れた痩身が、吹き付ける風の中でも、よく通る声で言った。

「………あんたにも…見えたのか…?」


その…託された瞳が、かつて見てきたものが…。


後半の言葉を飲み込んだ若者の唐突な問いに、それでも言いたいことを察したか、青年は口布の下でもそれとわかる笑みを刻む。


「さぁ…ねぇ。 奴の顔にはまっていた時間よりも、俺の顔にはまっている時間の方がもう長いからなぁ。ま、見えたとしても、女の子の姿ばっかりじゃないの…?」

とぼけたその言いぐさに、若者は眉をひそめる。
はぐらかされたと感じるのも無理はなかったが、若者には…その 青年の言葉に隠された、真実を知る術はなかった。


青年の片目の、かつての持ち主の少年が。
ずっとずっと見つめていた、少女の笑顔が。

青年の目交いに、どれほどの時を経てさえ、浮かんで消えるか…




サスケ…


「……いい。あんたに聞いた俺が間違ってた。待たせたな。」
「ま、なんだ…。何事もそんなもんだって。…すねたの?」
「…すねるか!子供じゃあるまいし!」

「それが……」

青年の、指ぬきのグローブをはめた白い手が、若者の目の前に伸ばされる。


「すねてる、っていうの!」

そういいながら、つん、と眉間を指先でこづいた。


「!!!!!!!!」

驚愕に目を見張る若者に、かすかな笑みをみせ、青年はゆっくり歩き始める。


「見えたとしても……それは…オマエの想いじゃない。…オマエは…それをただ覚えていればいいんだ。覚えてさえいれば…」

「…カカシっ!」



ふうわりと…ゆらぐ …
時空に。
閉じ込められ、残された「想い」……


若者に寄り添うようにたたずむ影に


透明なまなざしを投げかけ、青年は踵をかえし、もう振り返らない。

そうして、その後を追う、若者も、また。


吹きさらうように風の吹く岬に。




たたずむ影はもうない……



end



Update 2011/07/16