月と森と二人の暗部


Clap Log 4




銀盤の月に突き刺さるように、一つ抜きん出て高い巨木の梢に、猫面の男は佇んでいた。

しん、と静まる、風の凪いだ、夜。




梟の声もしない。




なにしてる、と、薄い気配が隣に突然降ってくる。


狐面の男が隣に、小首をかしげるようにして立っていた。

細い細い梢。

揺らしもしない。



男は猫面を左にずらし、素顔を夜の冷気にさらして、穏やかに微笑む。



月を、みて、いたんです。



へえ。





アナタニ 似テイル ト 思ッテ




そんな台詞がいえるはずもなく。


優しい光はあからさまに人を照らさず。
忘れてしまいたい数多の記憶を、優しい闇に閉ざしてくれる。

アナタのように。




◇◆◇




ゆるぎなく立つ巨木の梢。


まるでその一部のように。

木々の香気の中、呼吸するようにその男は馴染んでいた。



返り血の、むせ返るような血臭。

洗っても洗っても隠しおおせないそれを。



男の翠の香気が清め、流し去ってくれる…



オ前ハ コノ森ノヨウダ


そんな事を言えるわけもなく。






二人の暗部は


月と森との間に、


何時までも立ちつくしていた。






end




Update 2009.08.18