手裏剣Sheet!〜前編〜
正座をしてうなだれている子供達の前で、周りを見渡していたカカシは深いため息をついた。
三人の子供達はますます深くうなだれる。
辺りは竜巻が通り過ぎたような惨状だった。
カカシのアパートである。
「俺が買い物をしている間くらい、仲良く出来なかったの…?」
しみじみと言われた子供達は…サスケでさえ、ばつの悪そうな顔をして、言い訳をしようとはしなかった。流石に自分たちのしでかしたことが拙いとわかっている。
「しょうがない…俺は飯の支度してるから、オマエ達、責任もって片付けろ」
食材を持って台所に行ったカカシをグーグー空腹を訴える腹を抱えて情けなさそうに見送っていた少年二人は、さっさと片付けないとご飯もらえないかもよ、という少女の脅し文句に飛び上がって、散乱した荷物の片付けに取りかかった。
◇◆◇
「おや、カカシさん、珍しいね」
雑貨屋の店主にそう声をかけられてちょっと照れくさそうに首をすくめたのは、木の葉の看板上忍だ。
肉に魚といった食材の量が半端ない上に、いつもは買うはずのない果物やジュース類を結構な量、抱え込んでいる。いつもは面倒くさがってほとんど外食してしまうカカシが、だ。
「や、ちょっとね…」
そう頭をかく上忍に、奥からでてきたおかみさんが、
「子供達にねだられたんだね!この前は紅先生が買い込んでったよ。」
笑いながら駄菓子を抱え込んだ荷物の上に載せてくれた。
「オマケだよ!あんまり先生にたかるなっていっておやりよ」
苦笑しながら礼をいってゆっくりと店をでる。
前回の任務の帰り道。
丁度焼き肉屋から出てきた10班の子供達と担当上忍に鉢合わせしてしまった。
「なあなあなあなあ!!先生さ、先生さ、俺達も晩ご飯おごって欲しいってばよ!!」
勿論、10班の連中の後ろ姿を見送った後でカカシの手をゆさゆさと振り回しながらねだったのは言わずもがなの少年である。
「アタシはぁ、晩ご飯は別に良いんだけれどぉ、先生のウチ、行ってみたいな〜〜」
「……担当上忍の自宅を知っておく必要は…確かにあるな…」
見事な連携で押し切られ、先生の財布のために手料理でいい、というありがたいお言葉で、カカシが夕飯の支度をして食べさせる羽目になったのだ。
外食させた方が楽なんだけどなぁ…
勿論そう思わないではなかったが、3人の子供達ののうち、2人が家族を持たず、いつも食事は一人で済ましている、そう思えば、手料理…(男の、だが。)もたまには良いか、と思ったのだった。
勿論…一流の料理人の技術は何通りもコピー済みのカカシは、こういうのを器用貧乏っていうんだよね、と、肩をすくめるしかなかった。
◇◆◇
夕食は文句なく美味かった。
久々に、店以外で食べる夕食に、少年達はこの上もなく満足する。
少女は目を見開いたまま、ウチのお母さんより先生、料理上手いかも、とつぶやいていた。
「あれっ 先生喰わねーの?」
そう聞かれたカカシは曖昧に笑っている。
…リクエストを聞いたら天ぷら。と声をそろえた子供たちに、上忍師が心の中で盛大に舌打ちしたのは知るよしもない。
「自分が使った食器は自分で片付けろよ」
そう言われるまでもなく、ごちそうさまでした、と手を合わせるや、器用に重ねて流しに食器を運んでいく子供達を背に、カカシはいくらかましになった部屋の様子にそっとため息をついた。
カカシが部屋をきちんと片付けるのは、勿論性分もあったが、散らかっていては侵入者の痕跡を見つけにくいからだ。その辺りの緊張感を今の木の葉の子供達に求めるのは無理だろうと思い、また、それが無理だ、という平和な里の実情にほっとしてもいた。
ふ、と、手裏剣模様という、20も半ばを過ぎた男の寝具としてはちょっと妙な柄のシーツに目をやる。
―――――あららら
つまみ上げると、びろん、と、L字型に垂れ下がってきた。
―――――とうとう、寿命か…これも。10年以上も…洗って干してしてればね…
後で子供達が手をとめ、少し緊張しているのが分かる。が、カカシは気にするな、と 声をかけるのを忘れたように、その手裏剣模様を見つめていた。
続く
Update 2011/05/06
INDEX