ハロウィン・パニック
「カカシセンセ!!!それに触ったらだめだコレ!!」
息を切らして駆けつけながら木の葉丸は叫んだが、一瞬間に合わず、カカシはその包みを拾い上げてしまっていた。
「ん??」
のんびりと包みをつかみ上げて振り返ったカカシを正体不明の煙が包みこみ…
「あああ〜〜〜間に合わなかったコレ〜〜〜」
木の葉丸と取り巻きの子供達の悲鳴にも似た声が響き渡り、風が煙幕を吹き払った後に立っていたのは…
◇◆◇
ふと見上げると、いつも青い空を背追うようにその瞳が見下ろしていた。
濃紺に近い藍色のただ一つの眼が細められ、ナルトは満足してまた前に進んで行けた。
けれども。
出会ってから中々その瞳が近くならなかった。
肩に触れあうくらいの近さにいるのに。
その瞳は遙か上で。
「カカシセンセ…身長いくつ…?180センチ…あるよな?」
「あ…?」
自分を見上げる生徒にいきなり聞かれたカカシはかわいらしく小首をかしげて見せた。
「ん〜〜たぶん…老化で縮んでなければ…180ちょい、あると思うけど…なんで…?」
「…なんでもねぇってばよ。」
ぶすくれたようにふいっと前を向いたナルトの頭を、長い指の手がくしゃくしゃっとかき回す。
「なにすんだよ!止めろってセンセ!」
すねたように抗議すれば、一つだけの眼がさらに深い笑みを浮かべる。
「お前は成長期に入ったばっかりだから…今からまだまだ伸びるさ。」
「…な…!」
なんで考えてることが分かったのか…と、大きな目をさらに見開くナルトに、
「ま、せいぜい成長痛に泣くといいさ。身長なんか高くならなくって良いって言い出すなよ〜」
そう言いながら背を向け、ひらひらと手を振るカカシに、ナルトは唇をとがらせた。
――――そんなこと絶対に言わねぇ!見てろよセンセ、そのうちにオレが上から見下ろしてやっからな!!
そうして…あの人が今までしてくれたように。
里も。人も。
あの人自身も…
オレが守ってやるんだ…!
◇◆◇
「ナルトにぃちゃーーん しょーーぶだコレっ!!」
しんみりとする暇も無く…
刃がつぶれている棒手裏剣を振りかぶって突っ込んできた木の葉丸の顔を、片手でがしっと受け止めたナルトは、にやり、とわらった。
「お前な、奇襲するのにかけ声かけるヤツがあるかってばよ!」
「奇襲とかじゃないコレっ!正々堂々と、尋常にいざしょうぶ〜〜〜!!」
顔をつかまれ、リーチの差からナルトにふれも出来ない木の葉丸はじたばたと暴れている。
「放せってナルト兄ちゃんっ!、一対一で尋常に勝負しろコレ!」
「ナニ言ってんだお前!オレとタイマン張ろうなんてはええってばよ!…まずは奇襲でも何でも、どんな手を使っても良いからオレに参ったって言わせたら、考えてやるってば!」
そう言って、ナルトはぽい、と、つかんでいた木の葉丸の顔を放り投げると、まるでさっきのカカシの様に、片手を上げて…背を向けた。
もちろん、残された木の葉丸は地団駄を踏み、ウドンとモエギは慰めるのに苦労したのだった。
◇◆◇
「木の葉丸ちゃん…ナルト兄ちゃんに挑戦するのはもうちょっと後でもいいんじゃないの?」
モエギに指摘された木の葉丸は悔しそうに唇をかんだ。
「ちょっと背が高いからって上から見下ろしてさ…!ナルト兄ちゃんだってちびだった頃があるコレ!」
「もちろんナルトさんにも小さかった頃はあるはずですよ」
「でも今は木の葉丸ちゃんよりちょっと背が高いよね」
ナルトも同じ悩みを抱えていると知るはずもない木の葉の癇癪玉たちは、額をつきあわせて声を潜めた。
「じーちゃんの秘蔵の巻物に、色々おもしろい効果のあるヤツがあるコレ!」
「…それをナルトさんに…?」
「ずるくない?正々堂々と、って言ってたのに…」
モエギに指摘された木の葉丸は、小さな手を握りしめ、ふん、と大きな鼻息を漏らした。
「どんな手を使ってもいいって言ったのは兄ちゃんの方だコレ!後でその言葉を後悔しろコレ!!」
と、鼻息の荒い木の葉丸とその仲間達であったが、もちろん、自分の方が後悔することになる、とはその時思うはずもなかった。
◇◆◇
木の葉丸たちのたてた作戦はシンプルだった。
ウドンの自説によると、ナルトは裏を読むタイプではない、戦闘時ならともかく、普段はごく正直に自分の欲求に従うタイプだ、複雑な仕掛けは返ってマイナスだ。
「都合の良いことに、明日はハロウィン、お祭り好き兄ちゃんが引っかかりやすいタイミングだコレ!」
曰くありげなプレゼントの包みを、ハロウィンに浮かれるナルトの目のつくところに置いておく。
ナルトが拾えば仕掛けが発動して…
後は木の葉丸の手の内…のはずだったのだが……
◇◆◇
「あれ…なにこれ…?」
里中、カボチャだの、魔女だの、妙な仮装であふれかえり、子供達とすれ違うたびにお菓子をねだられて少々くたびれていたカカシは、道の真ん中に曰くありげに置かれているお菓子らしい包みに目をとめた。
いつもなら、拾い上げる前に索敵の一つもするのだが、今日はハロウィン、いたずらが仕掛けてあるのなら引っかかってやるのもサービスだろうと…
木の葉丸の気配にはとっくに気付いていたカカシは、三代目のかわいがっていた孫のいたずらにつきあってやるつもりであっさり拾い上げた。
ターゲットが自分では無いことに気付かずに…
◇◆◇
「…と、言うことは、ナルトがターゲットだったわけね…?」
だぼだぼの上忍服、落ちそうになるトラウザースのベルトを左手で持ち、ずれそうになる口布を右手で押さえている銀髪の…小柄で華奢な体つきの…色白の…子供。
高く、澄んだ声は少女とも少年ともつかない。
目にかかる銀髪をうるさそうに顔を振って振り払うと、ため息をついて、木の葉丸立ちを「見上げて」くる。
――――この子…カカシ先生だよね…?あの、カカシ先生の子供の頃だよね…?
木の葉丸達は、カカシの質問にがくがく頷きはするものの、目の前の人物のあまりの違和感に感覚がついてきていないのか、呆然としたままろくに答えることも出来ずにいた。
「お前らね。術をかけた方がびびってどうするの。まぁ…ハロウィンだからしょうが無いけど…こんな格好してるの、アイツに見つかったらエライことだよほんと…」
後半部分を独り言のように口の中でつぶやいたカカシは、怒っていないことを木の葉丸達に明言してこの場を去ろうとして…
「…っ、別の意味で面倒なヤツに見つかっちゃったかも…!」
厭な顔をして振り返った小さなカカシの遙か後の方から、緑色のチャクラを燃え立たせた木の葉一アツイ男が駆け寄ってきていた。
「カカシィイイイイイイ 我が永遠のライバルよぉおおおおおおお!ナンというおもしろい格好をしているのだぁあああああ!!!」
その時、木の葉丸達が目にした光景は、ある意味、彼らにとって大きなカルチャーショックをもたらした。
体格の差が、大きな障害になってナルトに歯が立たない、とかたくなに信じ切っていた木の葉丸は、だぶだぶの上忍服のまま、口布とベルトを押さえたままの格好で、「アツイ男」の攻撃をひょいひょいとかわし、ひらひらしているトラウザースの裾で相手の顔をひっぱたいて見せたりするカカシの体術に刮目させられていた。
つまりは言い訳だったのだ。
ナルトに丸で歯が立たないこと…それが体格の所為だというのは。
「おいおい、もういい加減にしてよ、そろそろ、リーの訓練につきあう時間じゃ無いの?」
塀の上にちょこんと止まって下を見下ろしている小さなカカシは、そうガイを牽制するが、
「こんなおもしろい事を止められるか!ちっこいくせに相変わらず生意気だなっ!どこまでオレを躱せるかやってみろ!」
「あのな、ガイ。生意気なのはお前だろ。お前がアカデミーの時にはオレはもう中忍だったのよ。」
「ううぬ、おのれ、古傷を〜〜〜〜!」
木の葉丸たちはその大人と子供(外見は)の訓練という名の喧嘩(一方的にカカシがじゃれられているのだが)をあっけにとられて見ていた。
視線で追い切れないほどのガイのスピードを、からかうような余裕を持って躱していくだぶだぶの服の子供。
ガイがカカシのトラウザースの裾をはっし、と捕らえ、ドヤ顔をする寸前に押さえていたベルトを外してするりと抜け出し、
「う〜〜む、脱皮したか カカシィ!!」
と悔しがらせる。
――――カカシ先生はオレ達の歳には上忍だったんだコレ…
知識としては知っていたその事実を、目の当たりにして木の葉丸たちはもう言葉も無かった…
「あ〜〜やばい…帰って来やがった…悪いけどもう退散させてもらうからな〜〜そいつは預けとくから、後で返せよ。」
そう言ってカカシはガイが手にした物をあごで示し、瞬身で姿を消してしまった。
「うぬぬぅ…とうとう逃がしたか…」
と…
地団駄を踏むガイの後から、低い声がかかった。
「――――ガイ先生……なにしてんだってばよ…」
いつもは陽気な笑顔のナルトの完璧な無表情…
木の葉丸達は震え上がったが、鉄仮面のような面の皮の持ち主の熱血青年はびくりともしない。
「おう、ナルトじゃないか!なんだ、お前もカカシと特訓したかったのか!悪かったな、逃げられてしまったぞ!」
「……」
「ううむ、惜しかったな、もう少し汗をかきたいところだが、カワイイ弟子をこれ以上待たせるわけにはいかん!コレをカカシに返しておいてくれ!」
ガイは今回の唯一の戦利品、カカシのトラウザースをナルトに渡すと、ナイスガイポーズを決めて瞬身で消えた。
「――――――――カカシ先生…ズボン脱いだまんまなにやってるんだってばよ…」
ナルトの氷点下の声を聞いた木の葉丸たちは凍り付いた。
しゅうしゅうと赤いチャクラの漏れているナルトに、事態の説明をする貧乏くじは、間違いなく発端を作った自分たちだと知っていたからだ…
「…木の葉丸。説明してくれるよな…?」
や、やっぱり………
もちろん、その後、木の葉丸は自分と同じ歳のカカシが、自分よりももっと小柄だったことに大いに勇気づけられ、今は小柄でも将来はカカシクラスの長身になれる、という希望に胸を膨らませるのであったが、巨漢のアスマ、小兵のヒルゼン、二人の血を引いている彼は、実際、長身に育つ可能性としては五分五分、と言ったところだった…。
◇◆◇
カカシは絶体絶命のピンチを迎えていた。
前後左右、上までナルトの分身に囲まれた木の葉の里の深い森の中である。
華やかな色の絨毯のように紅葉した落ち葉が敷き詰められた美しいところで小さなカカシは冷や汗をかいていた。
ガイの手に残してきてしまった自分のトラウザースを片手に持ったナルトの本体が、瞳を金に光らせてひた、と、こちらを見つめている。
「…センセ…なんちゅー格好して里をふらついていたんだってばよ」
……いや、瞬身で移動したから別にふらついては…などと口答え出来る雰囲気では無い。
ナルトはしっかりと目が据わってしまっている。
――――ちょーーーっとまずいんじゃないの…これは…?
長い上忍ベストの裾を申し訳のように引っ張り、白い足をさらしたまま…
…
上着が長いのでワンピースを来ているような情けない姿をしている自覚はあったが、木の葉丸の術が解けたらもっと情けない姿になる。
…どうするのよ オレ…
いつもとナンの変わりなく飄々としているようにみえてまじめに進退窮まっているカカシであった。
たぶん続く…(笑)
初出:memoブログ2011/11/13,11/14
Update 2011/12/07
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